名前視点





私は今、名前と一緒に学校の近くの喫茶店に来ている。私も名前もブレンドコーヒーを頼み、各々にケーキを1つずつ注文した。

「それでどうしたの?話って…」

珍しいじゃない、と名前はケーキを頬張りながら私を見た。私は何と切り出していいか分からずに口籠りながらケーキを口に運ぶ。自然と頬が赤く染まったせいか、名前はニヤリと口元を吊り上げて頬杖を付き、私を見た。

「さては名前、好きな人でも出来た?」
「な、何で分かるの!?」
「分かりやすい」

こんなにアッサリとバレてしまうだなんて…。恥ずかしさのあまり頬が赤くなってしまうのを感じた。それを隠すようにぱくぱくとケーキを口に入れる。名前はニヤニヤした表情を崩さないままフォークを置き、両手の指を絡ませて手で橋を作り、そこに顎を置いて私を見つめた。

「誰?」
「お、同じクラスの…お、忍足謙也くん…」
「忍足謙也?ごめん、知らない」
「だよね」

私も名前も神奈川から転校して来たため互いに同じクラスの生徒以外はあまり知らない。ただ、名前はああいう性格上、何だか怖そうな子とか、ギャルみたいな子とか、色んな子と話しているのを見かける。…ううん、強い…。もしかして謙也とも何か接点があったかもしれないと思ってはいたけど、それはなかったみたいだ。

「どんな人?」
「どんな…って…。明るくて、気さくで…。あ、見た目は金髪だし、ちょっと怖いけど…全然優しいの。」
「愛されてるねえ、忍足くん」

名前の言葉に今度は顔中を赤くした。一気にコーヒーを飲み干そうとして咽てしまう。

「で?忍足くんの好みのタイプは?連絡先とか交換してる?」
「知らないし、してない…。」
「そこからでしょ〜!よし、私が聞いておいてあげるよ。忍足くん、部活とか何入ってる?」
「テニス部」
「うげえ、テニス部」

名前は掌を上にして両手を横にやった。出来るだけ関わりたくないと思っているポージングだ。仕方ない。前の学校の男子テニス部と言えば全国制覇を果たすのが当たり前という強豪校でファンからの声援も凄かった。名前の性格上、誰とでも話せるタイプだから皆が一線を置いているテニス部の子とも楽しそうに話していたことが原因で嫌がらせを受けていた事もあった。そのテニス部の子と付き合っていたという事実もなく、ただ浅く広くの付き合いだったせいかテニス部の人たちに助けてもらうなんていうことも無く…。

「あの、名前…?無理しなくていいよ…?」
「へ?」
「…あんまりテニス部の人とは関わりたくないんでしょ?」

俯きがちにそう問いかけると、名前は笑って手を伸ばし、私の頭を撫でた。

「大丈夫大丈夫!こっちとあっちのテニス部は違うって!」
「でも…」
「いいのいいの、私がしたいだけ。」

私の頭から手を退けると、名前もケーキを頬張り、コーヒーを飲み干す。私はすでに平らげてしまったのでお冷を飲んで彼女が食べ終わるのを待った。
話が終われば互いにご馳走さまをして席を立ち、先に会計を済ませる。それと同時にカラカラ、と店内に誰かが入ってくる鈴の音が響き、自然とそちらに視線を向けた。そこに居たのは謙也くんと…その友だちかな?ミルクティ色の髪の毛の人が。

「あれ、名前やん!」
「謙也…。部活は?」
「今終わってん。ほんでちょい甘いモンでも〜って、なあ、白石。」

ああ、ダメだ。ダメ…。恥ずかしくて顔なんて見れない。今し方ここで名前に謙也のことを相談したばかりなのに。白石と呼ばれた人なんて視界に入れられないくらい謙也ばかり見ている。名前はようやく会計を済ませ、財布を鞄に入れた。そこで初めて私たちに視線を向ける。

「あれ?名前、知り合い?」
「あ、えっと…お、同じクラスの忍足謙也くんと…そのお友だち…」
「へえ…。あ、名前の友だちの苗字名前です〜」
「ん?苗字さんやん?」
「あらら、どなた?」

白石と呼ばれた人は名前を知っているみたいだけど、肝心の名前の方は分かっていないようだった。名前の反応に白石くんとやらはボーンと少なからずショックを受けていたようで、その場で固まる。

「ここじゃ邪魔になっちゃうから…」

私は名前の背中を押してお店を出ようとした。そこで振り返れば謙也がにっこりと笑って小さく手を挙げる。

「名前、また明日な!」

ああもう、この人はどこまで私をメロメロにさせるのだろう。