謙也視点





名前に対する気持ちを自覚した後、どうやってアプローチしていけばいいか分からずに白石に相談することにした。何で白石かって言ったら苦手なものが逆ナンしてくる女の子っていうくらい女の子に言い寄られとるから。きっと白石の中の何かに女子たちは気付いて魅力を感じてるに違いない。せやから俺は部活の後、白石に相談があると誘った。そんな白石に連れて来られたんはこの洒落た喫茶店。……なるほど、こういう場所に彼女とか連れて来てたんやな。するとそこで見知った姿を見付ける。

「あれ、名前やん!」
「謙也…。部活は?」
「今終わってん。ほんでちょい甘いモンでも〜って、なあ、白石。」

めっちゃ偶然。こんな所に名前が居るなんて。この店に連れて来てくれた白石に感謝や…!それにしても名前は1人で来てたんやろか。それやったら誘えば良かった…とは言ってもそんな度胸はあらへんけど…。

「あれ?名前、知り合い?」
「あ、えっと…お、同じクラスの忍足謙也くんと…そのお友だち…」
「へえ…。あ、名前の友だちの苗字名前です〜」
「ん?苗字さんやん?」
「あらら、どなた?」

名前の友だちは苗字さん言う子なんや。この前教科書借りに来てた子やな。…あの時は名前に対する気持ちなんて自覚してなくて名前を呼ぶにまで簡単に進めたっていうのに…。名前を好きやと自覚した途端どうにもならん自分のこのヘタレっぷりをどうにかしたい。
それより苗字さん、白石のこと知らんのや…。

「ここじゃ邪魔になっちゃうから…」

名前が苗字さんの背中を押してお店を出ようとした。アカン、帰ってまう…!また明日、その一言くらいは言いたい。そう思っていた俺の気持ちが通じたのか、名前が振り返った。俺は笑顔を作り、小さく手を挙げる。

「名前、また明日な!」

僅かやけど名前が微笑んだように見えて満足や。その後は店員さんに案内されるまま禁煙席に座り、ゆずティーとやらを頼んでみる。向かいに座った白石は涼しい顔でコーヒーを啜っていた。

「ほんで?」
「え?」
「え?ちゃうやろ?相談ある言うたんはケンヤやん」
「あ、ああ…せやな…」

白石に再びどうしたん?と聞かれれば口籠ってまう。何から話していいか分からん。照れ隠しに頬を人差し指で掻けばコーヒーを啜る白石の視線が俺を鋭く射た。

「好きなん?」
「へ!?」
「あの名前ちゃんとかっていう子ん事」
「な、何で分かるん!?」
「バレバレや」

いつもならさっさと話を切り出す癖に渋るから、と白石は言う。…せやな、俺せっかちやもん。逆に白石の立場なら早く言えやーとか言うて聞かずに帰ってまいそうやし…。

「ほら…何か白石モテるやん?」
「せやな」
「ちょっとは否定せえや、腹立つ」
「俺全然モテてへんよ〜!」
「うわあ、めっちゃ腹立つ」
「どの道腹立つんやろ?」

何か白石の方が一枚上手や…。普段全然ウケへんくせに!オモロない癖に!

「ま、ケンヤの腹立つ腹立たんは置いといて、さっき名前ちゃんの横に居った子、同じクラスやねん。その子に名前ちゃんの事聞いといたるわ」
「苗字さんって子か?あの子、白石の事知らんねんなあ」
「それ今言うか?」

俺はクラスメイトとして認識されてへんのやろか、と落ち込んだかと思えばジト目で見てくる白石の目の前で両手を小さく振り、怒らんといてーな、と言えばすぐに笑ってくれたからホッとする。そうして俺の悩み相談はアッサリと終わってしまい、後は部活の話や俺んとこのイグアナの話、白石んとこの猫の話に華を咲かせた。