名前視点





あれから3日後の昼休み、急に名前が私の教室にやってきた。……お弁当を持って。

「名前〜、お弁当一緒に食べよう?」
「ケンヤ、久々に一緒に飯食おうや。」
「あれ?白石くん」
「苗字さんもお昼?偶然やなあ、一緒にどんな?」

…何だろうあれ。物凄くわざとらしい。喫茶店で名前に謙也のことを相談してから協力する気満々の姿勢を見せてくれたのは有り難いけれど何だかわざとらしすぎて笑える。っていうかあの様子だと謙也のお友だちさんにも私が謙也が好きってこと言ったな…?こんな下手な演技でしかも露骨だと絶対謙也にもバレて……

「おお、白石!と、名前の友だちやん!ホンマ偶然やな!一緒に食おうや!」

……バレなかったみたい。謙也って意外と鈍いのかもしれない。私はお弁当を持って謙也と共に名前の元に向かう。謙也はコンビニの袋を持ってたから今日は買ってきたんだろう。
私たちを迎えて名前たちは顔を見合わせて保健室に行こうと言い出した。謙也のお友だちさんが保健委員で今日は当番なのだそう。4人で歩いて保健室に向かう。

「謙也は今日、お弁当じゃないの?」
「あ、ああ。オカンが寝坊してもうてコンビニで買ってきてん」
「そう。」

……。……どうしよう。会話が続かない。チラリと前を見やると謙也のお友だちさんが物凄い眉間に皺を寄せて謙也を睨んでたけど謙也はそれに気付かない。せっかく格好いい顔してるのに…。
保健室に到着して、謙也のお友だちさんが鍵を開ける。それに続いて私たちは中に入って行った。
この学校の保健室はなかなか広く、ベッドは5つ、それから来客用のためかローテーブルにソファが備え付けてある。後は仕事用のデスクと椅子。私たちはローテーブルの上にお弁当を置いてソファに腰掛けた。言われずとも私は名前の隣に座ろうとしたのだけど……。

「あ、白石くん。これこの前言ってたDVDなんだけどね…」
「おおきに。あのめっちゃオモロイ言うてた洋画?」
「そう、それ。」

私が座ろうとしたら名前は立ち上がって謙也の友だち…もとい、白石くんの隣に座ってしまった。私がポカンとしていると2人は何やらその洋画の話で盛り上がっている。……声、掛けられない…。そう思っていれば謙也がひっそりと声をかけてくれる。

「隣、座ってもええ?」
「う、うん、勿論……」

私の隣に謙也が座れば2人共さっきの会話が嘘のように静まり返った。名前は私を見てウインクする。……いやいや、強引でしょ。謙也が声かけてくれなかったら私、待ちぼうけ状態のままだったよ。心の中で文句を言いながらお弁当を広げる。今日は私が自分で作ったお弁当だ。卵焼きは自信作。手を合わせてお弁当を食べ始め、すぐに白石くんが口を開いた。

「そういや2人は四天中やないよな?どっから来たん?方言もあらへんし……」
「ああ、私たちは神奈川から来たんだよ。」
「ふうん、知らんかったわ」

……本当に?何か私の情報をさり気に謙也に伝えてるように見えるのだけど…。チラリと謙也を見れば白石くんと似たような相槌を打ち、コンビニで買ったのであろうおにぎりを頬張っている。
頬におにぎりを詰めるそんな姿も可愛いなんて末期なことを思っていれば名前が私のお弁当の中身を覗き込む。

「今日もお手製だね。美味しそう!」
「うん、どれか食べる?」
「卵焼き!名前の作る卵焼き大好き!」

私のお弁当の卵焼きを名前が摘もうとした瞬間、白石くんがまた口を開いた。

「そういやケンヤ、卵焼きめっちゃ好物やん」
「は?」
「え?そうなの?なら名前の卵焼き食べてみてよ!本当に美味しいんだから〜!」
「え、俺別にそこまで卵焼き好物ってわけやないんやけど…それに箸なんて持ってへんで?」

分かりやすい……。白石くんと名前が私たちをくっ付けようとしてるのが本当に分かりやすい……。しかも謙也はそれに気付いてない。
謙也の手に持たれているのはおにぎり。それから袋の中から見えるのはサンドイッチだ。確かにこれじゃあ割り箸は入れてもらえないだろう。謙也の言葉に名前がニヤリと笑った。あっ…めくるめく嫌な予感が……。

「なら名前にあーんしてもらえばいいじゃん。」

名前の言葉に謙也が真っ赤になる。私も頬が熱いのできっと同じく真っ赤になっているのだろう。謙也と2人で固まってどれくらい経ったのか、今度は白石くんが口を開いた。

「あ、苗字さん、その唐揚げめっちゃ美味そうやん?」
「これ?実は冷食ー。はい、あーん。」
「あーん」

いやいやいや、待って!どう考えてもわざとらし過ぎる!目の前の白石くんと名前は唐揚げをあーんして食べさせてしまった。そんな恥ずかしいことをアッサリと…!そして2人が私を見る。白石くんは「俺らにここまでやらせといてやらんつもりやないやろなあ?」って顔してる。え、何?白石くんってそんな人なの?蔵様とか呼ばれてて四天宝寺のプリンスかと思っていたのにまさか中身は真っ黒とかそんな人?名前は名前で頑張れ!と視線でエールを送ってくる。いやいやいや、無理だし!
小さく首を横に振ればまた白石くんから威圧のオーラを感じる。私は震える箸で卵焼きを手に取り、謙也の口元に持っていった。

「け、謙也っ……」
「あ……」

謙也の顔はさっきよりも真っ赤で、それは私も同じだと思う。謙也は白石くんや名前からの視線を気にしながら口を開け、卵焼きを食べてくれた。もぐもぐと咀嚼をして飲み込み、ポツリと美味い、と……。そう呟いた謙也に私は心の底から幸せを感じたのだ。