謙也視点





白石に名前の相談を持ち掛けて3日後。その日の朝、白石からラインが入った。それは今日の昼飯はコンビニか購買で買って手で摘めるものを買うように、っちゅー指示やった。

「名前〜、お弁当一緒に食べよう?」
「ケンヤ、久々に一緒に飯食おうや。」
「あれ?白石くん」
「苗字さんもお昼?偶然やなあ、一緒にどんな?」

珍しく2限目の休み時間に白石が「今日は一緒に飯食うでー」とラインをしてきた。俺はスタンプでOKの返事を返したんやけど、偶然にも名前の友だちも名前を迎えに現れた。廊下で俺らを待ちながら話している2人を見てあの後仲良くなったんやなって呑気なことを考えとった。でも何となく自分の友だちと名前の友だちが仲良くなるんは嬉しくて俺は張り切って応える。

「おお、白石!と、名前の友だちやん!ホンマ偶然やな!一緒に食おうや!」

……と、そこまでは良かった。名前と一緒に白石たちの所に向かおうとするにも名前にどう声かけてええか分からん…!一緒に行こうや…ってのもこれから飯一緒に食うのにおかしいよな。ほな行くか!とか…アカン、何かちゃう。悩みながらコンビニ袋を手に取れば名前がキョトンとした表情で俺が動くのを待っとる。俺は慌ててすまん、とだけ告げて名前の横を歩いた。

「謙也は今日、お弁当じゃないの?」
「あ、ああ。オカンが寝坊してもうてコンビニで買ってきてん」
「そう。」

唐突に聞かれ、俺は慌ててそう取り繕った。白石に言われたなんて言うたらめっちゃ睨まれるに決まってるっちゅー話や。……アカン、何話そう。ちゅーかこの距離、若干手繋げそうなんやけど…ここで名前の手とか握ったらどないな反応するんやろうか…。あー、アカン!まだ付き合うてもないし、名前が俺の事好きかも分からんのにそないなことばっか考えて…!
頭の中で葛藤を繰り返していれば保健室に到着する。…ん?何で保健室?名前と名前の友だちはあまり気にしてない顔をしとる。ああ、俺だけちょっと頭ン中フェードアウトしとったんやな…。

「ケンヤ」
「あ、ああ、おん。」

保健室に入りながら白石が俺に視線を向ける。若干フェードアウトしとったんがバレとる…!白石の視線を追えばもうすでに名前は名前の友だちの隣に座ろうとしとって俺は慌ててそれを見送ることになってまうんやけど…

「あ、白石くん。これこの前言ってたDVDなんだけどね…」
「おおきに。あのめっちゃオモロイ言うてた洋画?」
「そう、それ。」

名前の友だちが名前が座る寸前に立ち上がって白石の隣にちゃっかり座ってしもうた。え、どうしたんあの子…空気読めてへんやん。名前が座ろうとしたのに白石の隣に行ってまうなんて…。しかも洋画の話をし始めて俺と名前のことなんて全く視界に入れてへん…!な、何やねんコイツら…。そっと名前を見れば呆然としとって俺は慌てて名前に声を掛けた。

「隣、座ってもええ?」
「う、うん、勿論……」

俺が声を掛けたことで名前の表情が和らいだ気がした。…うん、気がしただけやけど!あのまま放ってはおけんっちゅー話や!
開かれるお弁当を見ては思わず考える。自分で弁当作っとんかなあ、とか。卵焼き、綺麗に巻けとるな、とか。あああ!アカン!こないな盗み見みたいな…!半ば自分の気持ちを掻き消すように話に適当に相槌を打って夢中でおにぎりを頬張った。

「今日もお手製だね。美味しそう!」
「うん、どれか食べる?」
「卵焼き!名前の作る卵焼き大好き!」

ふとそんな会話が聞こえた。

「そういやケンヤ、卵焼きめっちゃ好物やん」
「は?」
「え?そうなの?なら名前の卵焼き食べてみてよ!本当に美味しいんだから〜!」
「え、俺別にそこまで卵焼き好物ってわけやないんやけど…それに箸なんて持ってへんで?」

思わず素っ頓狂な声をあげてしもた。いや、だってホンマに卵焼きそんな好物やないし…。そんな俺に白石はお前は黙って話合わせとけという視線を送られる。その視線に俺はもう黙ることしか出来んのやけど白石が手で摘めるもん買うて来いって言うから箸なんて持ってきてへん。それだけは素直に伝える。すると名前の友だちがニヤリと笑った。あ、アカン、めくるめくこっ恥ずかしい予感が……。

「なら名前にあーんしてもらえばいいじゃん。」

ほらキタ!あまりの衝撃に俺は思わず固まってしまう。そんな俺を見兼ねてか、白石が口を開いた。

「あ、苗字さん、その唐揚げめっちゃ美味そうやん?」
「これ?実は冷食ー。はい、あーん。」
「あーん」

冷食かい!ちゅーか…!あ、ああ、あーんなんて出来るわけないやろ!
自分の中の羞恥心と戦って俯いていればそっと口元に黄色いものが差し出される。それが名前が俺に向けてくれた卵焼きやと気付いたのは数秒してからや。

「け、謙也っ……」
「あ……」

白石がめっちゃ睨んできとる。「女の子にそないなことまでさせて食わん気やないやろなあ」って顔しとる…!さ、させたんは白石たちやん!俺やないやん!そう思いながら卵焼きを口にする。すると口の中には甘みと出汁が広がって素直に美味いと思った。

「美味い…」

自然と口に出た。俺の反応に名前は凄く嬉しそうな顔をして微笑み、名前の友だちはでしょー!なんて言って自分のことのように喜んどる。ちゅーか名前、めちゃくちゃ可愛いんやけど!あの笑顔、独占したい…!
こうしてハラハラのランチタイムが終わったわけやけど……

「ケンヤ」
「あ、はい…」
「ちょっと来い」
「ええ!?」

放課後の部活の前、白石に呼び出されてめちゃくちゃ説教を喰らった。もっとちゃんと喋れやとか相手の顔見ろやとか空気読めやとか散々言われた。空気読めてへんかったんは名前の友だちの方やんって言うたら脳天におもっくそチョップを喰らわしてきて、思わず涙が出た。