名前視点





「え?い、今なんて……」
「だから白石くんと付き合い出したの。」
「な、何で?」
「忍足くんと名前をくっつける為に色々相談しているうちに仲良くなって…ね?」

ある日突然、名前から話があると言われて迎えた放課後の教室。爆弾発言を聞き、私は驚いた。だって今まで名前の好きな人と言えば名前から言われなくても話や雰囲気で分かっていたし、すぐに教えてもらったりしていたはずなのに名前の口から白石くんを好きだという話は今分かった話でありそんな素振りも見られなかった。驚きに私は目を丸くする。更に次がれた名前の言葉に私は絶句せざるを得なくなった。

「そういうわけで、今度の日曜に遊園地でダブルデートね!」

そんな気はしてた。うん。この前のお弁当の時も凄い無茶振りだったし、今回もそうやって来るとは思っていたよ。分かってはいた事だ。そして断りきれずに精一杯オシャレして行く私もどうなのだろうか。家の姿見で何度自分の格好や立ち振る舞いを確認したことか。謙也はどんな服が好みなのだろうかと考えるだけで新しい服を買いに行った方が良かったのだろうかと悩む。
そろそろ家を出ないと遅刻してしまうので私は小さい肩掛けカバンを掛けて待ち合わせ場所に集まった。

「あ、名前、おはよ〜!」
「おはよ、名前……と、白石くん。」
「おはようさん」

待ち合わせ時間10分前。その場所にはすでに名前と白石くんが居た。謙也の姿はまだ見えない。……2人は本当に付き合って居るのだろうか。まじまじと見てしまうと目が合った白石くんに微笑まれる。その笑みは何だか「疑っとんちゃうやろなあ?」と語っていてぶるっと身震いした。
待ち合わせ時間ギリギリになって謙也が走って到着し、白石くんにどつかれている。ひそひそと10分前には来い言うたやろ!って聞こえてくる。それを見て思わず一歩引いてしまうのだけど名前はそんな2人を気にせずに白石くんの服の裾を軽く引っ張った。

「蔵ノ介、行こう?」
「あ、おう。せやな!ほんなら行こか〜」

私たちの目の前で白石くんと名前はちゃっかりと手を握って歩き出す。そんな2人が前を歩くので私たちは必然的に後で2人並ぶ形になってしまった。お弁当の時もそんなに話せなくて困ったというのにどうしよう。

「なあ、ホンマにあの2人付き合うてるんかなあ?」
「謙也も聞いた…?私もちょっと前に突然聞いたよ。」
「でも手ェ握っとるし、やっぱりそうなんかなあ…」

謙也が私の耳元でそう話しかけてくる。距離の近さと恥ずかしさで思わず頬を赤くして俯いた。……そうだよね、付き合ってないと手なんて繋げないもんね。電車に乗っている間も白石くんは名前の腰に手を回して密着しているし名前も何やら白石くんに手帳を見せて話している。何となく近くに座るのも申し訳なく、少し離れた所で謙也と2人で座る。……私たちは友だち。名前たちは恋人。そういう関係っていうだけでこんなにも距離感が違うんだ。名前を見つめる白石くんの視線が優しい。あの私に向けてきた威圧的な視線とは違う。

「これは…ちょい気使こてやらなアカンな?」
「そうだね、2人になりたいだろうし…」
「ほんならわざわざダブルデートに誘うなっちゅー話や…なあ?」
「ふふ、まあ2人の幸せそうな姿を見れるだけで嬉しいよ。」
「名前は優しいなあ。」

でろ甘やでろ甘!と言ってのけた謙也に私は思わず微笑む。こうして緊張せずに話せているのも名前たちのおかげかもしれない。こうして電車の中で他愛のない会話を繰り広げ、電車を降りる時には人の多さと名前たちに触発されたのか謙也が私の手を引いてくれた。恥ずかしかったけれど嬉しくて私は1人でこの幸せを噛み締めていた。あ、付き合ってなくても手、握っちゃった。

「ほんなら何から乗る?」
「ジェットコースターやろ!」
「あ、ごめん。私絶叫系苦手で…。名前は絶叫系乗れるよね?行っておいでよ。」
「うん、そうするよ。白石くんは?」
「名前のこと1人にしとれんから居るわ。2人で行ってき?」

遊園地に到着するなり早速二手に別れるようになってしまった。遊園地という場所のテンションのせいか、ほんなら!と謙也はまた私の手を引っ張って駆け足でジェットコースターに向かう。私のペースに合わせて走ってくれているのが分かって彼の優しさにますます惹き込まれた。
ジェットコースターに乗ればあまりの迫力に思わず笑ってしまい、降りたあとは謙也と笑い合って楽しかったとか、あそこのエリアが怖かったとか話していた。名前たちの待っていた場所にすでに2人は居らず、名前の乗れそうな乗り物にでも乗りに行ったのだろうという事でその後も謙也と2人で回ることになった。上から下に落ちて行く乗り物や、船のようなものが揺らぐものにも乗り、途中でお化け屋敷に入ろうという話になった。

「私、絶対目開けてられないよ…?」
「大丈夫大丈夫!その時は俺が連れて走ってったるから!」

恐る恐るお化け屋敷の中に入る。あ、ダメ…何かもう怖い…。真っ暗でカーテンで仕切られているのかもよく分からない。目が慣れない。しっかりと握られた謙也の手が大きく感じた。大きいし、温かい。自然と安心感を覚える。

「うわーーー!!」
「きゃあーー!!」

安心感を覚えたところで怖くなくなるわけではなく、始終2人で叫びまわってお化け屋敷から出たのだった。出た後には2人でハアハアと息を整え、顔を見合わせて笑い合った。その後はまたジェットコースターに乗り、最後には謙也のお誘いで観覧車に乗る。

「わ…景色綺麗だね…!」
「せやなあ、あ、あれ見てみ!凄いな!」
「本当だ、綺麗〜!」

観覧車から見える景色は絶景で思わず感心する。ふと謙也の声が止み、私は顔を上げた。謙也の顔がみるみる赤くなって俯く。一体何があったんだろう。私はそっと謙也の顔を覗き込む。

「謙也…?」
「っ、な、ななな、何!?」
「あ、いや…急に黙っちゃったからどうしたのかと思って…」
「ちゃ、ちゃちゃ、ちゃうで!お、俺別に覗こうとしたわけじゃ…!」
「……?」

謙也の言葉が理解出来ずに首を傾げて後ろをふり返るけど、別に変わったものも無いし、知らない人がゴンドラに乗ってるだけだった。首を傾げていれば謙也が急に顔を上げて私を見る。

「っ…名前っ、俺なっ…!」
「うん?」
「お、俺、お前のことっ…す、すっ……」
「す…?」

す……その後に続く言葉は何…?もしかして、もしかしなくても……。ダメだ、自惚れてしまう。でもその言葉の続きが気になる。早く教えて欲しい、その言葉の続きを。
顔の真っ赤な謙也を見つめて続きの言葉を期待するもののなかなか続きが出てこない。

「すっ……」
「す?」
「す、すき焼きみたいやなあ思ててん!」
「………はい?」

私のこと、すき焼きみたいだと思ってたって…日本語おかしいけれど…。私の視線が冷たかったのか謙也は慌ててちゃうねん!ちゃうねん!と言う。何が違うのか分からないけれど必死にそう言う姿に思わず笑ってしまい、いいよ、と言った。そこで観覧車は下に到着してしまい、2人で観覧車から降りる。

謙也…、す、の続きは本当にあの言葉なの?
帰りの電車も私は頭の中がそれでいっぱいだった。