謙也視点





月曜の朝練終了後のテニス部部室にて。忍足謙也、15歳。今、めっちゃピンチです。

「ほう…それで?すき焼きみたいやなあ思っててんって言うてしもたん?」
「は、はい…。」
「そらしゃーないな。緊張もしてまうし…何て言う思ったか!アホかお前は!」

朝練を終えて皆教室に戻っとるっちゅーのに俺は部室で白石に正座させられてお説教されとる。何でこうなったかっちゅーたら昨日の遊園地での俺の名前に対する言葉のせいや。
日曜のダブルデート、白石が上手いこと事を運んでくれて言われた通りのデートコースでお互い親睦を深め合えた…と、思う。最後に観覧車に乗って綺麗な景色の中、告白っちゅーのも白石の指示や。……ここまでしてもらわな何も出来ん自分も情けないけど、そこまでしてもろて最後が決められへんかったことが最も情けない。俺は俯き、膝の上に拳を作って震わせた。

「で?」
「へ?」
「へ?ちゃうわ。何で言えへんかったん。ヘタレやからじゃ済まされへんで?あないなビッグチャンス、もうないわ。」

びくりと肩を震わせた。何でって…そりゃあ…。

「し、白石も名前の友だちと乗ってたやんか、観覧車。」
「せやな。ケンヤのこと見張るためや。ちゅーかいい加減その名前の友だちって言い方止め?」
「あ、せ、せやな…。えっと…名前ちゃんか。」

ふと名前を口にすると白石におもくそ頭を平手で叩かれた。正座していた足を崩して両手で頭を抑え、何やねん!って反抗したら気安く名前呼ぶなやて。何なんコイツ、面倒くさ……。

「で?俺らが観覧車に乗ってたんが……何?」
「怖ッ!何その顔!……お、お前ら、観覧車ン中で……きっ、キスしとったやろ…!」
「そらするわ。付き合うてんねんから」
「ちょっとは否定するか照れるかせえや!なんで俺だけこないに挙動不審にならなアカンねん!?」
「…………ヘタレやから?」
「ホンマ泣ける」

あの時、白石と苗字さん(名前で呼ぶといちいちうっさいからこう呼ぶことにした)が観覧車の中でキスしとんがたまたま見え、名前の目の前で固まってしもうたというわけや。そしていざ、名前に告白しようと思ったらフラレた時のダメージやら付き合えた時の喜び、はたまたキスとかするんやろうかと頭の中が名前との未来のイメージが流れ込んできてつい言葉に詰まった。言ってしまってええんやろうか、このままの関係の方がええんやないかと考えてしまい、あんな言葉を告げてしまうことになった。我ながら思う、めっちゃ情けない。
そんな俺を見て白石はわざとらしくため息をつき、両腕を組んだ。

「……俺のクラスの村上くん、苗字さんのこと好きらしいで。」
「……は?な、何で?名前なんて春先にこっち来たばかりやのに村上と接点なんてないやろ…?」
「外部受験の名前と苗字さん、めっちゃ目立ってんねん。村上くんは苗字さんに一目惚れしたんやと。」
「う、嘘やん…。」
「嘘ちゃう。お前、いつまでもウダウダしとったら取られてまうで?」

名前を取られる…。そんなこと、考えたこともなかった。そうよな、あんなにええ子やのに他の奴らだって気になっとる奴は居るよな。名前のこと好きなんは俺だけやない。早く気持ち伝えて意識してもらわな…。そう思うけど勇気が出ない。自分のヘタレっぷりを改めて痛感する。
白石から村上のことを知らされてから俺たちは部室を出る。空を眺めたら清々しいくらいの天気に俺は思わず眉根を寄せた。

そうして嫌なことほど早く起こるものや。放課後、白石に呼ばれて部室に向かう途中、名前が村上と一緒に居る所を見てしまった。慌てて俺は近くの壁に背中を這わせて身を潜める。……何してんねんやろ、普通に声掛ければええのに…。

「あの、俺……苗字さんのこと一目見た時からええなって思ってて……」

名前は呆然とした表情で村上を見とる。俺はこないなとこで何してんねやろ。名前がもしYESの返事をしたら俺はどうしたら……。
そう思うと頭がショートしそうになり、俺は自然とその場から遠く離れて白石の元に向かった。


「何しとんねんお前!止めてこんかい!」
「だ、だって声かけるような雰囲気ちゃうかってん!」
「そこ止めなアカンとこやろが!」

部室で俺はまた白石に正座をさせられ説教をされとった。クドクドと怒られる中、俺は名前が村上に何て返事をしたのか、俺が告白したらどないな反応するんか…そんなことばかり考えとった。人の話ちゃんと聞けボケ!と白石にまたチョップを喰らったんは言うまでもない。