神奈川県の立海大付属中、テニス部と言えば部長であるまずこの俺。強豪テニス部を纏める人材として俺は高嶺の花のようなものらしい。そんな俺でも高嶺の花のような存在の女子生徒が居る。それは…。

「名前、おはよ〜」
「おはよう。昨日は相談に乗ってくれてありがとう。」

今、俺の視界に入っている綺麗な女子生徒。黒髪にゆるいパーマがかかっていてぱっちりとした二重の目に薄化粧。嫌味のない笑みに癒されオーラ。名前は苗字名前さん。同じクラスになれたおかげで毎日彼女の顔を拝むことが出来る。彼女には同じクラスに親友が居て、その子と話をしている姿をじっと見つめた。俺のこの視線、届かないかな。そんなことを思っていると俺の視線に気付いたのか、苗字さんはこちらを見てにこりと笑った。思わず俺はドキッとして仄かに赤くなる頬を隠すために視線を逸らす。すると彼女は近付いてきた。まずい、私の事見てたでしょう?なんて聞かれたらなんて答えていいか…。いっそ、そうだよ。君が好きなんだって言えたら楽なんだろうけどクラスメイトたちの前で振られるようなみっともない真似はしたくない。振られると決まったわけではないけど、何せ好かれるほど会話を交わしたことなんてないのだ。

「幸村くん、おはよう。」
「おはよう、苗字さん。」

ドキドキ、ドキドキ。胸が高鳴る。
しかしこの俺のドキドキした気持ちは、次の苗字さんの一言でぶち壊れることになるのだった。

「ねえ、幸村くん。パンツ何色?」

………え?今、なんて?彼女の口から彼女らしからぬ言葉が聞こえたんだけど…。彼女の後ろで親友が口元に両手を当てて何言っちゃってんだアンタって顔してるけど…もう遅いからね、もう変なこと言っちゃってるから。
俺が呆気に取られていると、苗字さんはごめんなさい、と気付いたように口元に手を当て、更に俺に近付き、俺のズボンをくいっと引っ張った。

「ごめんなさい。色よりもまず形状とか大事よね。うん、ボクサーパンツか。私、男の子はボクサーパンツ派が好きだよ。」

そういう意味か!そういう意味のごめんなさいか!違うだろ!急に変なこと言ってごめんなさいじゃないの!?
苗字さんはにこやかに俺のズボンのポケットに手を突っ込むけど彼女の探しものは見付からなかったのか眉を下げた。そんな顔も可愛いけど俺の息子に彼女の手が近いことの方がドキドキする…じゃなくて!彼女は俺の許可なしに俺の鞄を勝手に漁りだした。そしてやっとお目当ての物を見つけたのか、携帯を取り出し、勝手に操作を始める。

「あ、あの、苗字さん……?」
「はい、連絡先も知りたかったから。どうぞ。」

にこやかに俺の携帯を返される。今の間に自分の連絡先を俺の携帯に入れ、俺の連絡先を入手したようだ。まさかの神業……。神の子と謳われる俺より早いなんて…。いや、神の子なのはテニスの時だけだけど。

「ちょ、ちょっと名前!」
「あ、絵里香〜、見てみて。幸村くんと連絡先交換しちゃった〜。」
「いやいや、今のは交換というよりと強制に近かったような…。ごめんね幸村くん!」

絵里香、と呼ばれたのが苗字さんの親友なんだけど…。苗字さんを強制的に俺から離して教室を出る。俺はただ呆然と2人を見送るしか出来なかった。ただ、苗字さんのギャップに俺は動揺を隠せなかった。何だったんだ今のは。俺の夢なのか?