苗字さんのあのドMっぷりは俺にだけなのだろうか気になる。俺は仁王に苗字さんから彼女が俺限定のドMちゃんなのか確かめて欲しく、聞いて欲しいと頼んだ。仁王は放課後の部活の練習試合で丸井とシングルスで当てるということを条件に承諾してくれた。
昼休み、俺は苗字さんに仁王が屋上で呼んでいると伝え、俺も彼女の後ろを気付かれないようについて行った。2人の死角になるところに座り、弁当を広げて食べながら話を聞く。

「すまんのう、わざわざ来てもろて。」
「んーん。それで、どうしたの?」
「…お前さん、幸村とデキとん?」
「えっ…。んーん、違うけど…。」

流石仁王。単刀直入に聞くね。俺は弁当を頬張りながら2人の話を聞き入る。

「ほんなら…友だち?」
「んーん。私、幸村くんに飼われてるの。……でも幸村くんのためにドンキでメイド服まで買ったのに幸村くんったらいつまでも首輪を付けてくれないのよ。酷いよね…」
「ククっ…そうなん?」

いやいや、酷くないし。それに飼ってないし。もう妄想と現実がごっちゃになってるんじゃないか?俺は友だちとしてがいいって言ったのに…。
チラリと2人を覗くと苗字さんはポケットから手帳を取り出した。何だろう…。

「いけない…。今日の幸村くんのパンツの色を聞くのを忘れてた。多分、紺だとは思うけど新色が入ったらいち早く知りたいし…」
「何なんその手帳」
「幸村くんのパンツ手帳」
「ぶふぅ」

……何なの俺のパンツ手帳って。何でそんなの持ち歩いてんの。っていうかそんな専用の手帳作らないで欲しいんだけど!

「だいたい黒赤、黄色、紺、グレーをローテして着てるから今日は多分紺なんだろうけど…。でもこの目でちゃんと確かめたいの…。」
「………そうなん。」

よく見て苗字さん。仁王ドン引してるから。もういいから俺のパンツ談義は。確かに今日は紺を履いてるけどそんなこと手帳にメモしなくていいから。
内心ツッコミながらまた2人の会話に耳を傾ける。

「ほんで?お前さんは幸村にどうしてもらいたいん?」

そうそう、それは俺も聞きたかった。あの日苗字さんは急に人が変わったように俺に変態発言を繰り返すようになった。一体彼女は何が目的でそんな事を言い出したのか…何が望みなのか気になる。

「……私、幸村くんの部活の後のヘアバンドとかリストバンドの匂いを嗅ぎたい…。」
「は?」
「練習した後って汗掻くでしょう?いつもフローラルな香りのする幸村くんの匂いが汗臭くなるのを嗅いでみたいの…」

だから恍惚な顔でそういうこと言わないでってば。表情は何だかエロいのに言ってることただの変態だからね?変質者だから。だいたい何なの、何で俺の汗の匂いを嗅ぎたいの。家族にすら嗅がれたくないのに。
ふと気になって2人の姿をチラリと覗き見た。すると仁王が笑いを堪え、苗字さんの顎を人差し指で持ち上げている。いよいよ本題に入れそうだな。

「でも、幸村はお前さんのこと飼っとらんって言うとったよ?」
「……え?」

え?じゃないよ。まるで彼氏の浮気が発覚したようなそんな絶望した声を出すな。元々俺は友だちがいいって言ってたじゃないか。

「俺が飼うちゃる。」
「え?」
「俺ならお前さんの望み通りに飼ってやれるぜよ?虐めてやるし、首輪だって付けちゃる。……そうされたいんよな?」

食べ終わった弁当をまた包みながらジッと2人を食い入るように見つめる。彼女は何て言うのだろうか。
段々と仁王の顔が彼女に近付く。何だか…胸の内が少しイラッとした。
そんな仁王に苗字さんは怪訝な表情で仁王の手を叩き払った。意外な行動に俺は驚いて視線を離せなくなる。

「されたいよ。でも幸村くんに限定される話。仁王くんにされても嬉しくとも楽しくもないもの。軽々しく触らないでくれる?」

彼女の行動にポカンとしたのは俺だけじゃない。仁王もだ。思わずそこで空のお弁当箱を落としてしまい、慌ててそれを拾い上げる。その音に苗字さんは俺に気付いて俺の方を見た。無言でつかつかと俺に近寄り、真っ直ぐに俺を見つめる。まずい、聞き耳を立てていたことがバレたら……。

「幸村くん。今日は紺色?」

と、心配したのも束の間。彼女はいつも通り俺のズボンを引っ張り、隙間からパンツの色を確認してにこりと笑った。俺の心配はあっという間に流されたわけで安心したのだけど、翌日彼女からお手製のヘアバンドとリストバンドを渡され、今使っているものを寄越せと言われた時は正直引いた。