村くんの作戦失敗



「名前、別れよう。俺たち。」
「え…?」

誰もいない放課後の教室。俺は彼女に別れを告げた。俺のその一言でその場が静寂に包まれるせいで外から聞こえる他の生徒たちの声がうるさく聞こえる。夕焼けが教室を照らし、俺や彼女の顔を赤く照らした。
名前は目を見開いて俺を見る。俺も彼女を真っ直ぐに見つめる。ああ、この目だ。俺はこの目に弱い。名前に見つめられるだけで気が狂いそうになる。だから……

「幸村くん…」
「………。」

名前を呼ばれる。それもまた、嫌だと思う。俺は名前と呼んでいるのに彼女はいつまで経っても幸村くん、と苗字呼びのままだ。それがまた俺たちの距離感を感じさせた。もどかしい俺たちの距離に耐えられなくなり、俺は別れを告げた。
名前の唇が僅かに震える。やっと絞り出た声に俺はまた落胆するのだ。

「………私たち、付き合ってないよね?」
「………はい。」
「別れるも何も…」
「だってこうでもしないと君は俺と付き合ってくれないじゃないか…。」
「いやあの…そんなことしても付き合わないからね?」

ちっ。恋人ごっこ作戦は失敗か。


end