「…何なんすか」
「赤也?どうしたのだ?」

晴香先輩が何処に行ったのか気になった俺は、柳先輩と副ブチョにはトイレに行くっつって、やけに早足で歩く先輩の後を着けた。置いて行かれないように頑張って走っては隠れて走っては隠れて。
そして、その先にあった光景を見て俺は思わず絶句した。跡部さんが晴香先輩の頭を一瞬抱えて、それに先輩はなんとも言えない、でもめっちゃ悔しそうな表情を浮かべていた。

「先輩は、立海なのに」
「なんのことだ?」
「赤也、あいつも俺達と同じように田代を大事に思ってるんだ。そして田代も、」
「聞きたくないっす!!」

この前だってそうだ、跡部さんは我が物顔をして先輩を送り届けてきた。先輩も満更でもない顔してて、やっぱり着いていきゃあ良かったって死ぬほど後悔した。思い返せば返す程フツフツと煮え切らない想いが溜まって、同時に目頭も熱くなってくる。

「あ、赤也!?どうしたのだ!?何か嫌なことでも耳に入ったのか!?」
「弦一郎うるさい。赤也、」
「何大声出しているんだ」

副ブチョがあたふたして柳先輩が俺をなだめようとした時、後ろから晴香先輩の声がした。でも俺は振り向けなくて、こんな情けねえこと根に持ってる自分が恥ずかしくて、ただただ地面と睨めっこする。

「田代、赤也が何か嫌なことを耳にしたらしい!!」
「真田君うるさい。切原君、何かあったのか」

晴香先輩は、俺の隣に来て顔をのぞき込みながらそう言った。すると先輩は俺の顔を見て、ほんの少しだけビビったように目を見開くと、俺から視線を離して柳先輩と目を合わせた。多分(俺下向いてるから確実じゃねえけど)。

「切原君が泣きそうだ」
「普通言うっすか!?」

瞬間、晴香先輩はなんと淡々とそんな言葉を放った。デリカシー何処?え?とりあえず次は俺がビビって顔を思いっきり上げてそう言うと、先輩達は皆俺をガン見してた。

「私が何かしたか、切原君」
「お前が跡部の元に行ったのが嫌だったらしい」
「だから何で言うんすか!?」

あぁああなんか今の状況俺マジで恥ずかしくね?副ブチョも寂しがり屋だな!、とかなんかウザいこと言ってくるしなんなんだよこれ?え?だから俺はそんな先輩達から逃げるために、走りだそうと足を踏み出した。でも、

「っ、ぐえっ!!」
「ちゃんと戻ってきただろう」

後ろ首を晴香先輩に掴まれて、思わず潰れた蛙みてえな声が出る。一瞬マジで苦しかったけどすぐに降りかかってきた先輩の言葉は優しくて、安心して、

「何処にも行っちゃだめっす!!」
「切原君、苦しい」

俺はいつもより倍の力をこめて先輩に抱きついた。苦しいとか重いとか言いながらも背中をぽんぽん、と叩いてくれる先輩のことを、やっぱり大好きだなーって思った!

***

「どうだった」
「何がだ?」
「全体を通して、だ」

会場からの帰り道。これから私達は学校に戻って練習を行うのだが、歩いている時に隣に来た柳君が急にそんなことを言い出した。ちなみに切原君と真田君は後ろで、いつも通りしょうもないことで言い合っている。どうだった、なんてそんなこと聞かれてもなんて返せばいいのかいまいちわからないのだが。

「凄かった」
「お前ならそう言うと思った」

とりあえず素直な感想を述べると、柳君は口角を上げて微笑んだ。相変わらず読めない人だな。

「お前にとっては初めての経験だったろうと思ってな。地区大会では今日ほど真剣に見入っていなかっただろう」
「まぁ、地区大会は君達があまりにも強すぎて、あっと言う間に終わったというのもあるが」
「今日のは、良い試合だったか?」

今日の青学と氷帝の試合が終わった後、柳君達はこれといって驚いた様子もなかった。それはきっと、自分達が彼らよりも強いという確信があるからだろう。

「良すぎるくらいにな」

でも、私にとっては、物凄く印象深いものとなった。きっとどの瞬間もずっと忘れられないと思う(とは言っても景吾君の試合限定だが)(他の人達知らないし)。

「勿論君達の試合も楽しみにしてる。1回戦は何処と当たるんだったか?」
「銀華中だ。これといってマークしている選手はいない」
「そうか」

柳君がそう言うということは、失礼だがそこまで強くないのだろう。というか立海にとって強いと思える学校自体あるのかすらよくわからない。

「先輩達ーっ!何話してるんすか!俺副ブチョと2人は嫌っす!!」
「あ、赤也!?どういうことだそれは!」
「切原君、真田君が泣くからそういう言い方はやめなさい。面倒なことになる」
「田代、お前の言葉をトドメに泣いたぞ」

そこで急に背中に重みがのし掛かり、まぁ言わずもがな犯人は切原君なのだが。とにかくそれにより静かだった会話には終止符が打たれ、道端にも関わらず私達は騒ぎながら帰った。
そして、今この瞬間も私達の夏は始まっているんだと感じた。きっとこれまでの過ごしてきたどれよりも熱い夏になる、そう思った。