001

わああ、わああ、と、一面見渡す限りの観客から歓声が響き渡っている。
観客の熱気と、先ほどまでの熱いバトルによって、高揚した気持ちが下がる気配はない。

「―――キミが、新しいチャンピオンだ!」

その言葉に、今まで以上の歓声がびりびりと空気を震わせ、轟く。
その瞬間”10年間無敗のチャンピオン・ダンデ”はただのダンデとなったのだ。

悔しさや、新しい時代への喜び。――だが、それ以上にじわりと足元から這い上がるほの暗い歓喜に、ぞくりと人知れず背筋を震わせた。

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一つ上の姉―ナマエ―は、とても美しい。
オレと同じ髪色、同じ色の瞳。だが纏う雰囲気も、優しさのにじむ目元も、柔らかい体躯も、オレとは違うものだった。
オレの名を紡ぐぷっくりとした唇と、そこから奏でられる柔らかい声色、ふわふわとした笑顔――今も昔も、そしてこれからも、オレの心を掴んで離さないのだ。

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気付いたときには、既にナマエの事を姉とは思えなくなっていた。もちろん、大切な家族であり、血のつながった実の姉である事に間違いはない――が、それ以上に一人の女性としてナマエを見ていた。

幼少期にはその気持ちが何かわからず、ただひたすら一緒にいた。公園にも、ポケモン探しの冒険へも、自分の行く場所すべてにナマエの手を引き、連れまわしたのだ。それから年を重ね、知識が増えると同時に芽生えたのが性への興味。事あるごとに抱き着き、まだ膨らみのないそこへ顔をうずめ、鼻から息をめいっぱい吸えばナマエの香りが鼻孔に広がり、目の前がチカチカした。同じ家に住み、同じ石鹸を使っているはずなのにナマエの香りはクラクラするほど甘い。その度にナマエはくすぐったいよ、と無邪気に笑った。

それからしばらくして、オレは同年代より早く精通を迎える。最初は何が何だか分からず戸惑ったが、射精の快感を覚え、マスターベーションをするようになるまで時間はかからなかった。
ある日、脱衣カゴに残されたナマエの衣服を見たとき、どきりと心臓が跳ねる。緊張からか、震える手でそれを掴むとその下には下着があった。ごくり、と喉が無意識に鳴る。



Petricor