ルーシーはミネソタ州の小さな街で産まれた。彼女が幼少期の頃は両親の仲もそれなりに良かったが、弟が母親の腹の中で息絶えた事が原因で生活は一変した。ルーシーは可愛らしく愛嬌もあったが、その笑顔は息子を産む前に失った母親からすると憎らしく映った。父親は見た事もない息子への強い愛から母親を酷く恨んだ。ルーシーの物心が付く頃には、彼女の家庭は見るに絶えない程荒んでいた。
母親はルーシーを恨み強く当たり、事あるごとに暴力を振るった。父親は母親を虐げ他所で女を作り、家庭に金を殆ど入れなかった。ルーシーが10歳を過ぎると父親までもが日頃の不満を彼女にぶつける様になった。
生傷の絶えない荒んだ少女時代を過ごした結果、ルーシーは14歳で家出を決意した。両親を殺してやりたいと考えていたが、家出が最善だと同じ様な境遇の友人からアドバイスを受けたのだ。


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「…何見てんだぁ?」

生涯の連れとなったデューンという男とは、シカゴの路地裏で出会った。ルーシーが人殺しに慣れて来た頃の事だった。

「下見だけど?」
「はぁ?」
「どう?ここって殺しやすいロケーション?」

血生臭い路地裏で彼らは初対面を迎えた。
辺りへ視線を向けながら何食わぬ顔で尋ねる彼女に、彼は同じ様な表情で返答した。

「ふつう」

お互いに抱いた第一印象は"どうしようもない奴"といったところだろうか。実際ルーシーもどうしようもない人生を送っていたし、殺しの真っ最中だった彼も同じ様にどうしようもない人生を送っていた。
それからなんとなく話してみると彼も恵まれていない人生を送って来た末、両親の生命の終止符を打ってやったらしい。彼が武勇伝の様に語ったその話を聞くとルーシーは酷く羨ましく思った。自分にはその選択肢を選ぶ事が出来なかった。力がなかったから。


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彼と過ごす時間は思いの外快適であった。ルーシーとデューンの関係性は言葉では言い表せない妙な物だった。
傲慢でキレやすく殺す相手を選ぶルーシーと、楽観的で誰でも殺すデューンは小さな揉め事から大きな喧嘩も絶えなかったが、趣味や思考が似ている為にお互いに過ごし易く感じていた。
そして半年程経った頃、殺した人間から拝借した金で小さいアパートを借りた2人は相変わらず仕事もせずにどうしようもない生活を送っている。

「親を殺した時、どんな気分だった?」

ある日ルーシーはふとデューンに尋ねた。人を平気で殺すどうしようもない人種、という共通点から価値観は似ていたが、彼女は彼と違う点をいつも考えていた。それは親を殺していない事だ。自分を恵まれていない人間に仕立て上げた両親が今もまだのうのうと自分よりも幸せに生きていると考えただけで虫唾が走る。彼女の今の目的は両親の息の根を止める事だった。
両親を殺せていないなんて自分はなんて恵まれていないんだろう。それなのにデューンは何年も前に達成している。それが不愉快極まりない。

「もっと苦しませれば良かったとは思ったな。今もだけど」
「あたしも殺したい。今なら出来る」
「殺ってくれば?」
「あの時殺せば良かった。なんであたし殺さなかったのって凄い不愉快。あたしが可哀想」
「だから勝手に殺して来いようるせぇなぁ」

ダンダンと立て付けの悪いテーブルに拳をぶつけてキレるルーシーに、ベッドに横になるデューンはぶっきらぼうに言い放った。
しかし殺したくても、まだ生きてるのかも何処にいるのかもわからない。過去住んでいたアパートを訪ねればまだいるかもしれないが、確実にいるかわからない両親の為に態々列車に乗るなんて不愉快である。と、ルーシーは思っている。

「どおしてあたしがあっちに行かないといけないの?あたしを不幸にした癖に!せめて殺されに来い!」
「うるせー」
「恵まれてないあたしの為に殺されに来てよ!なんであたしばっかり不幸なの!もうやだ!むかつく!いやだ!殺してやる!死ね!しね!シネ!」
「早く寝ろようるせーから」

椅子から勢い良く立ち上がると、ルーシーはぶつくさ文句を垂れつつキッチンへ向かうと引き出しからお気に入りの果物ナイフを取り出しそのまま部屋から出て行った。
やっと静かになった部屋でデューンはぐぅと寝息を立て始めた。札束を持ったルーシーが赤く染まった服で部屋に戻ったのは夜明け前の事だった。


2023/04/11
 

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