結果を言ってしまえばルーシーの両親は行方知らずになっていた。アパートは既に違う人間が住んでいた。デューンが遊び相手にしようと言い出したが、ルーシーは頷かなかった。何故なら見るからに恵まれていない可哀想な人間だったからだ。それもそうだ、このアパートは家賃が非常に安いし治安が悪い。こんな場所を住居に選んでいる人物など高が知れている。態々殺しに出向いてやったというのにとんだ仕打ちである、とルーシーは憤怒していた。
あんなに出向くのを嫌がっていた彼女であったが、デューンのお気楽な提案で重い腰を上げることとなった。

「旅行行こうぜ、お前ぇの実家らへんまで」

旅行という言葉を今まで使った事などなかったルーシーは、そういう事ならと二つ返事で列車に乗り込んだ。態々殺しに出向いてやるのは余りにも自分が可哀想だが、旅行のついでに殺すのは許容範囲だそうだ。ルーシーは言う、だって旅行に行かないなんて恵まれないあたしが可哀想だから、と。
家出が旅行に含まれないのなら、ルーシーは旅行という行為を行うのは初めてであった。その為何をするのかがわからなかった。言い出したデューンですらわからないので、彼らの目的はいつもと違う場所で人を殺すという物になった。

「折角ならいい場所泊まりてぇなぁ」
「稼ぎに行こ」

シカゴよりも都会ではないのでいいホテルと言ってもそこまで高級ではないが、普段の生活よりは良い寝所で眠りたいとデューンが悲願した為2人は金を持っていそうな人間を探す事にした。この提案により両親の件で不機嫌だったルーシーの気分が良くなったのでデューンは面倒くさい事にならなくて済んだと胸を撫で下ろした。
余りにも手間になれば切り捨てるつもりだが、デューンは自身とルーシーは利害が一致しているし良い連れであると考えていた。多少どころかだいぶ気性は荒いし短気だが側に置いて多大なデメリットがある訳でもないので、彼はルーシーの事を気に入っていた。生活力の無い自分に変わり粗末ではあるが飯を作り振る舞い、何処の誰かの物であった洋服も持ち帰って来るのでメリットも多い。そういうわけで今の生活はデューンの今までの生活で一番安定した物になっていた。

「何人殺せるか勝負しようぜ」
「稼ぎで勝負じゃなきゃやらない」


◾︎


手当たり次第殺したい人間を殺したデューンと違い、ルーシーは裕福そうな自分よりも恵まれている人間を選んで殺したので、彼よりも多く稼ぐ事が出来た。デューンは以前よりも弱そうな女子供を率先して狙わなくなったので、彼女はご満悦であった。
空はすっかり暗くなっている。稼ぎの額で負けたデューンは些か不機嫌そうに膨れていたが、ホテルのディナーを目の前にすると趣味に勤しむ時と同じくらいに喜んだ。しかし世間一般的に美味しいと言われる食事を口にしてこなかった彼らは、その料理の味をきちんと把握は出来ていなかった。

「親への憎しみが増えたわ」
「親の話なんかすんなよ。俺は滅多に食えねぇ肉食ってんだぜ」
「うるさい。あたしが可哀想だと思わないわけ?あんな大金奪えば簡単に稼げるのに、親はあたしに美味しい食事を与えてくれなかった訳でしょ?こんなの恵まれてない、許せない」

デューンはステーキをちまちま細かく切って次々に身体の中に入れていった。毎日食事には在りつけているが素朴な物が多いのでこんな肉の塊なんて暫く、どころか殆ど初めて口にしたのだ。そんな至福の時に愚痴なんて聞いていられるか、という思考である。
そんな彼の思考なんかどうでも良いルーシーはレストラン内にいる客へ視線を向けていた。いちばん恵まれてそうな奴。なるべく家族連れがいい。男でも女でもいい。肉をひたすらに食っていたデューンが、突然黙り込み次々と店内の客を品定めするかの様に眺め始めたルーシーへ視線を向けた。

「全部食い終わってからやれよなぁ」

面倒臭そうな発言に更にイラついて鋭い視線だけデューンに向けたが、ルーシーはイライラした様子で客たちへまた視線を戻した。
そして壁側に座る年配の夫婦、若いカップルを視界に入れると彼女のイラつきは自然と消えた。結婚の報告か、パートナーの紹介だと思われる。

「ねぇ、デューン」
「んぁ?」

今から結婚なんて不愉快。恵まれた家庭で育ったなんて、恵まれた家庭で育てなかったあたしに対して失礼だ。あいつらは不幸な恵まれてないあたしたちに配慮もせず、幸せそうな顔をする。どうしてやろう。どっちのどっちを殺そう。ルーシーは機嫌良さそうに残った料理を口にするとデューンを呼んだ。

「親と子供、どっちがいい?」

ルーシーの言葉に、デューンは待ってましたと言わんばかりに口角を上げた。

「今なら親だな」


2023/04/13
 

top index