学級委員長の裏の顔


「ちょっとォ!聞いてんスか!斉木さァん!」

鳥束が自身の存在をひたすら無視してスタスタ歩いて行く斉木の右肩をガシィッと掴んで声を荒げた。
振り返った斉木の表情は険しい物だった。
「なんだうるさいなさっきから。聞こえてる」と彼はテレパシーで言った。

「聞こえてるなら止まって下さいよ!無視してんだろうなとは思ってましたけどね!」

吠える鳥束を改めて無視した斉木は「何の様だ」と彼の脳内に言葉を送り付けた。
彼の名前は斉木楠雄。PK学園2年巛組の男子生徒。超能力者である。
そして斉木の前で騒ぐ男子生徒は2年+組の鳥束零太。彼も霊能力がある特異体質だ。
無視されてあーだこーだ文句を垂れていた鳥束へ鬱陶しい眼差しを送っていた斉木は痺れを切らし「さっさと要件を言え」と言葉を送った。

「好きな子が出来たんッス。しかも脈アリ!」

猿の様にキーキー騒いでいた癖に即座にキメ顔に切り替えた鳥束のその言葉を聞くと、斉木はただ悲しそうな顔だけをした。
鳥束零太という男は寺生まれの癖して煩悩の塊の様な人間であり、それを全く隠す気のない"澄んだ目をしたクズ"である。
あまりにもクズな為女子生徒どころか男子生徒にも嫌われている。
彼に好いた女子が出来る事はあれど、脈アリだなんてアリエナイ事なのだ。過去一度だけあったが、そんなイレギュラーが何度もあってたまるものか。

「何ッスかその顔!信じてないッスね!?なら証明してやろーじゃないッスか!」

憤怒する鳥束を「妄想癖なのはいいが俺を巻き込むな。勝手にやってくれ」と突き放しきびすを返した斉木。の背中に、鳥束がタックルレベルにしがみ付き「お願いッスよぉお!」と悲痛な声を上げた。

「今度こそは!これ逃したら俺高校で彼女出来ないッスよー!わかります斉木さん!高校生なんてあっという間ッスよ!?まじで!斉木さん的にイケるかどうか見てもらって、無理だったら諦めるッスから!」

人通りの多い廊下で鳥束にホールドされた斉木は致し方なく承諾することにした。
本当は超能力者で突き放す事もできたが、廊下でそんな事したら騒ぎになるだろう。きっとそれをわかって鳥束は廊下で交渉をしたのだろうと考え「鳥束の癖に考えたな」と斉木は心底嫌な気分になった。


▪︎


鳥束の言う"好いた脈アリ女の子"の話を聞き流しながら斉木は2年+組の教室へ足を運んだ。
教室へ入るなり「名前ちゃーん!」と鳥束はある女子生徒の元へ駆け寄ったが、斉木の視線は+組の佐藤広へ向かっていた。
佐藤は普通を好み求める斉木が羨む程の"ザ・普通男子高校生"であるので、存在しないであろう鳥束に脈がある女子生徒なんかを観察するよりも彼を観察した方が斉木にとってよっぽど有意義な時間となるのだ。

「やっぱり鳥束くんは凄いねー!」
「!!」

しかし斉木の耳に、鳥束と話す楽しげな女子の声が届いた事で彼の佐藤くん観察は強制終了する事となった。
斉木が視線を向けた先には、鳥束と話す女子生徒の姿があった。
見た目は比較的地味であるが、それなりに整った容姿をした女子生徒だ。
それにしても"あの"鳥束と楽しそうに会話をしているこの女子は一体どんな感性をしているのだと斉木は驚愕してしまった。
観察を始めながら道中、鳥束がひたすらに喋っていた情報を思い出す。彼女の名前は苗字名前。2年+組の学級委員長をしていて、誰にでも分け隔てなく接する優しい子らしい。

「鳥束くんの守護霊はどんな人なの?」
「え、あ〜そうッスね〜!す、すげぇ霊能者ってとこッスね!」

苗字の問い掛けにしどろもどろに答えた鳥束に斉木は「コイツ…」と心の中で呆れた。
何故なら彼の守護霊はすげぇ霊能者なんかではなく、同級生である熱堂力の亡き父親だからだ。熱堂父も息子同様アレなところがあり霊能者とは180度掛け離れた存在であるが、どうやら彼女の前で格好付けたかったのだろう。
「すごいねー!」と苗字は弾ける笑顔で言ったのだが、その彼女の姿を見て斉木は眉を顰めた。

「やっぱり寺生まれだから私とは守護霊からして違うんだね!」
「いやぁ、名前ちゃんの守護霊だって凄いよ!」
「えー?前言ってた守護霊、本当に合ってるのー?」
「勿論ッスよ!俺は寺の生まれだしね!バリバリの霊能者だから当たってるよ!」
「あはは、大きい狼かー!可愛いといいなぁ!」

斉木は全てを察して自身の教室へ帰る事にした。
その後苗字と暫く談笑を続けた鳥束が斉木がいなくなっている事に気付き「ちょっとー!?」と巛組まで突撃して来たものの、チャイムが鳴ってしまったので帰らされた。


▪︎


"鳥束くんなんでこんな話し掛けて来るんだろー。付き合えれば誰でもいいのかなー?"
"顔は美形でも中身がこんなだとゴミ扱いされるんだなー"
"寺生まれって事しか自慢出来ることないのかなー"

これが鳥束と一見楽しそうに会話していた際の苗字名前の心の声である。
斉木は超能力者なので人間の内側に秘めた言葉も聞ける。故に"誰にでも分け隔てなく優し接する+組の学級委員長"の"裏の顔"を知ってしまい気が重くなってしまったのだ。

「説明して下さいよ、斉木さん…!」

鳥束が失恋するのは心底どうでも良いが、問題は苗字である。
PK学園のマドンナであり完璧美少女の照橋心美も似た様なもんだが、その裏の顔を態々誰かに言おうだなんて斉木は思わない。
本来見せたくないと思っているからこそひた隠しにしている訳で、そこに斉木が土足で踏み込み、ましてやこの変態スピーカークソ野郎に教えてやるなんてしたくない。苗字が可哀想である。
色々考えた末、斉木は再び巛組にやって来た鳥束に「諦めろ」とただそれだけを伝えた。

「なんでですか!?名前ちゃん、あんなに楽しそうに話してたのに!あ、嫉妬ッスか!俺に彼女が出来るのが悔しいんだ!だから変な嘘言っダダダダァ…ッ!無言で間接キメないで下さいよ!」

女の事となると鳥束は簡単に引き下がらないので、彼の間接をキメながら「お前に気がある訳じゃない。彼女は全員に分け隔てなく優しく接しているだけだ」と斉木はテレパシーを飛ばした。
鳥束は「酷い!痛い!離して!」と悲痛な声を上げたので、斉木は「諦めると言ったら離してやる」と告げた。

「わかりましたから!諦めるから!ギブ!ギブ!」

鳥束への関節技を解除してやると、彼は暫し痛みについて文句を垂れた。
「諦める」と簡単に宣言したものの、鳥束が本心から諦めていない事はお見通しである。
この学校内で会話もまともにしてくれない女子が大半を占める中、唯一自分と楽しげに話してくれる苗字という存在への執着は半端では無さそうだ。
苗字の本性は鳥束に教えてやるつもりは一才ないが、面倒臭いことになったなと斉木は「やれやれ」と思った。


▪︎


そんな出来事があった最中、2年巛組に何度目かわからない転校生がやって来た。
明智透真という非常にうるさい男で、1声を掛けたら150くらいで返してくる様な変な奴だ。
明智は斉木の小学生の頃の同級生で、彼を超能力者だと疑っていた。
転校初日から探偵さながら聞き込みをスタートさせたものの、斉木の周りの人物はやけに可笑しな奴らばかりだった為捜索は難航している様だった。

「斉木さァん!聞いて下さいよ!大変な事になりました!」

明智が転校して来てから数日経ったある日のこと、血相を変えた鳥束が巛組へ飛び込んで来た。
「来て下さいッス!」と懇願する鳥束を「行かない」と適当にあしらったものの、非常にしつこかった為仕方なく出向く事を余儀なくされた斉木。
鳥束の横で廊下を歩きながら「一体何が大変なんだ。大した事じゃなかったら内臓を扱き出してジュースにするぞ」と斉木が尋ねると「怖!」と彼はオーバーなリアクションを取った。

「実は…名前ちゃんがとんでもない事になってまして…」

神妙そうな顔をさせて数日前に諦めると宣言した女子の名前を出した鳥束。斉木は「帰る」と一言告げると安定にきびすを返した。

「ちょ、斉木さん!待っ…!あーーーーー!!?」

背中を向けた斉木に焦った様に声を掛けた鳥束が、途中まで言い掛けて何かを見付けたらしく窓を指差して大きな声を出した。突然騒ぐもんだから廊下中の視線が彼らに集まった。
「なんだコイツは一々騒がしいな」と眉を顰めた斉木は思ったが、鳥束が彼の腕をグイッと引っ張った。

「あ、あれッスよ!見て下さい斉木さん!中庭!」

鳥束が指を刺していた先には中庭があり、そこにはいくつかのベンチがある。
そのベンチの1つに男女が座っていた。何事かと斉木も一応視線をそちらへ向け、そうして彼は少し驚いた様に目を見開いた。
そのベンチには最近転校して来たばかりの明智と、鳥束が執着する苗字が並んで座っていたからだ。
ひたすらにうるさい性格のせいで転校初日こそ皆んなから避けられ席で1人寂しく本を読んで時間を過ごしていた明智だったが、ここ数日は休憩時間になるといなくなる事が多々あった。
まさか明智が苗字と時間を共にしていたとは想定外だった斉木。

「お、俺の名前ちゃんがまたあの男といる…!呪って…いや、祟ってやるゥ…!!」

窓にへばり付いて鬼の様な形相を浮かべる鳥束に「お前のじゃないだろ」と斉木がすかさず挟み込んだ。そうして「それにお前、彼女の事は諦めると言っていただろう」と続ける。

「…諦められる訳ないじゃないッスか!ちょっと頑張れば付き合えそうな女の子をそんな簡単にィ!!」

キメ顔でクソ発言をした鳥束に斉木は心底呆れた。
しかし苗字の性格の悪さを知っているとは言え、彼女が明智と親密な関係になってくれたら斉木には好都合だった。
先も言った通り、明智は小学生の頃の出来事のせいで斉木が超能力者だと疑っている。一度気になったら追求しまくり、答えが出るまで自問自答や捜索を繰り返す明智だ。
苗字との色恋で明智の意識が斉木から彼女に移るかもしれない。
少し考えると、斉木はニヤリとほくそ笑んだ。
PK学園サイキッカーズの出番である。


▪︎


「で?アタシが呼ばれたーってワケ?」

仁王立ちで納得したのかしてないのかわからない表情を浮かべる相卜命。彼女も有能で、占い師として特異体質を持つ生徒である。
相卜の占いは100%当たると斉木は信頼している為、明智と苗字が上手い事行くのか協力して貰う事にしたのだ。

「じゃー、とりまあの2人の相性占っとく?」

相卜がデコられた水晶玉を片手に、中庭でほぼ一方的に談笑する2人を指差したので「頼む」と斉木は頷いた。
鳥束が「は!?俺は!?俺と名前ちゃんじゃないんッスか!?」と騒ぎ始め、相性を占っている相卜にも絡み始めた為彼は斉木からダメージを喰らった。

「ちょ、ええ〜!ゲロやばなんだけど…!」

水晶玉片手に占っていた相卜が突然興奮した様に声を上げたので斉木と地面に伏せた鳥束が反応した。「どうだった!」「0%ッスよね!」と斉木と鳥束が同時に尋ねると、何処となく頬を赤らめた相卜が返事した。

「相性87%!これはすぐくっ付くんじゃね!?は〜やば〜!バイブス上がって来た〜!」

それを聞くと斉木は大きなガッツポーズを作り、鳥束は燃え尽きながら「俺と名前ちゃんは…?」と最後の力を振り絞って相卜に尋ねた。
相性を占った相卜は無情にも言い放った。

「3%」


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