昼、であるらしい。青い空と大きな太陽が眩しく、空に一筋、光る橋のようなものが見えた。あれは一体何だろうか。生前、妾には屋敷の外というものを詳しく知る機会を与えられなかった為にあの空をにかかる橋が、特異なものであるのか区別がつかない。ただ、サーヴァントとして与えられた知識はあれを確かに、異質だと訴えていた。
ここは何処で、妾を召喚したマスターは何処にいるのだろう。
辺りを見渡しても見えるのは一面の麦畑くらいでめぼしいものは何も無い。
「長恭様、」
気付くと、妾の口が名を呼んでいた。愛おしい、狂おしいほどに愛おしい、あの人の名だ。
「……妾、貴方に会いたくて仙女にまでなってしまったんですよ」
小さく呟いてみたが、一面の麦畑が凪いだだけで他には何も無かった。
此処でじっとしていても埒が明かない。
バーサーカーというクラスにしては嫌に冷静な頭がそんなふうに訴える。なにか行動を起こすべきなのだろう。そう分かっていても、妾には何をするべきなのか全く分からなかった。妾の中の仙女様も、多分こういう状態は不得手なのだ。
とりあえず何かしら、指示を出してくれるようなマスターを探すべきなのだろうか。
一面の麦畑を改めて見渡して、音もよく聞こえないような、遥か遠くに土煙が上がる様が見えた。
「……あっちかしら」
はぐれのサーヴァントなのだからしょうがないけれど、一人というのにはどうしても、慣れない。生前はいつも周りに誰かがいたもので、今こんなふうに一人で、高い塀に囲まれていない、果てのない大地を歩く事が、酷く恐ろしい。
「たーのしー!」
え? 思わず気の抜けた声が零れてしまった。
土煙のたっていた場所には妾とは違うサーヴァントが数人と、人間の少女が一人。
「先輩! あの少女!」
薄紫色の髪をしたサーヴァントが妾を見つけ、声を上げた。その声にその場の全員が妾を見つめて、視線に含まれる明らかな警戒の色にピクリと肩が震える。
如何して今、長恭様は居ないのかしら。妾の事、守ってくれると仰ったのに。
「貴方も、サーヴァントだよね?」
「え、えぇ。……でもあの、妾、敵対する気はありません」
「そっか、良かった!」
恐る恐る話しかけてきた少女はニッコリ微笑み、藤丸立香と名乗った。
「貴方の力、私達に貸して欲しいんだ!」
差し出された右手を、恐る恐る握り返す。少女の力は、せいぜい生きていた時の妾よりもいくらか強い、というくらい。
普通の、まるで戦いの似合わない少女だ。知識の中の魔術師というものと掛け離れた彼女が、妾に力を貸して欲しいと言う。彼女の手を取って良いものかとは考えるまでもなかった。今の妾ははぐれのサーヴァントで、マスターになりそうな彼女の手を取らない理由はないのだ。
「妾、バーサーカーですの。北斉の蘭陵王が妻、鄭雨花と申します。どうぞ鄭妃と、お呼びください」
マスターとなる立香様の手を取って、微笑む。
妾が名乗った際に立香様や隣の紫の髪の少女が、酷く、バツの悪そうな顔をしていたことが気にかかるが、妾のようなさしたる逸話も持たぬものがサーヴァントとして座に登録されていることを不可思議に思っているのかもしれなかった。
その事は妾としても、随分おかしなことだとは思うが、どうとも説明の仕様がなかった。