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荒覇吐の一件を経て、森の保護下にある子供から正式にポートマフィアの構成員となった太宰であったが、森が新たに連れてきた夢野久作というらしい子供にまで引き合わされた時は思いきり顔を顰めてしまった。
森はにこにこと笑うばかりで大切なことは何も言わないし、久作の方はケラケラと笑いながらぎゅう、と手に持つ不気味な人形を抱きしめている。この子供の異能の判別をして欲しいと森は言うが、新しい仕事だとしてもやはり面倒に思うことに変わりはない。なんせ太宰は、もう既に子供の相手を一人分言いつけられている。
「……わたし、#name#っていいます。あなたは?」
「ぼく? ぼく、きゅうさく!」
同じ年頃の子供に親近感を覚えたのか、太宰の後ろからそっと顔を覗かせた#name#が久作に手を伸ばす。
その手を自分の手で絡め取りながら、太宰は再度ため息をついた。不用意に久作に触れて、#name#に怪我をされてはたまらない。森はあれで#name#にひどく甘いのだ。
「あー、#name#。危ないから駄目だよ」
「あぶない?」
「あぶないってなんのこと? ぼく、あぶなくないよ?」
「異能の詳細がわかるまで接触禁止ー。#name#にもはずみでこの子を塵にされちゃ堪らないからね」
「しません! にいさま、ひどいです」
「#name#ちゃん、いっしょにあそぼうよ!」
「あーはいはい。今は、駄目だからね」
「むぅ」
「にいさまのケチ」
「ケチじゃなーい。……はぁ」
子供が二人に増えて、騒がしさも太宰の苦労も二倍だ。二人とも異能の制御が出来ない、という所もまた面倒だった。
「さて。太宰くん、そろそろ行こうか」
如何にも首領らしい豪勢な執務机から立ち上がって、森が笑う。旧友の娘なのだというのなら、せめて森に#name#の相手をしてもらいたい所だ。そういう意味を込めて恨みがましく森を見つめると、見透かされたようにからころと笑われる。
「だって君、思ったよりも子供の相手が上手だったからねぇ」
#name#ちゃん、私よりも君に懐いてしまっているよ。
寂しげに呟く森を見て、太宰は深くため息をついた。別に、子供の相手が得意なわけでは無いのだ。子供が好きな訳でもない。寧ろ嫌いな方だ。ただどうしてか、何も知らない、何も無い、#name#を傍に置いておくことは苦痛では無かっただけで。
「はぁい君達、行くよー」
移動しようと歩き出した森の跡を追うべく、太宰は自分を見上げる二人の子供を見つめ返した。