Philia


国王とはダレのことですか?


「#name1#、今日はお前にとって大事な話があるんだ。私の部屋へ午後一時、来てくれるね?」

 殆んど話した事のない父様から電伝虫が鳴ったと思ったら、急にこんなお呼び出しだ。なんだ?
 私は不信に思いすぐ近くにいた執事の者へ視線をやったが、何時もの通り無表情で返された。意味が分からない。
 とは言え、この名のない国の国王で私の父様である人からのお呼び出しを無下にするのは無理な話なので、早速支度に取り掛かることにした。午後一時なんてもう後そろそろだ。……まったくあの人は。わざとだろう。

 膝に置いて読んでいた「犯罪科学」の本をパタリと閉じ、執事の者へ「準備出来てる?」と気だるく言った。









 コンコンーー。国に合わず豪勢な造りの扉を叩いた。音も立てず開いたそれをくぐり抜けた私は父様が座っているであろう上座を見ないように入って行った。

「失礼します。父様、……」

 早速要件の話しに移ろうとした所で、私の目に信じられないものが飛び込んできた。

「フッフッフ、コイツかァ……ガキらしくねェのが来たもンだ」

 そこに椅子というモノが存在してそれに座っているのに、そのデカさは隠すことは出来ないようだ。それにその人物は行儀悪く机に片足を上げ、椅子の背もたれに凭れかかっていた。

「ち、父様、……この方は?」
「座りなさい」
「え? ですが」
「さっさとしないか」
「……はい」

 その人物の事を聞こうとしてみたが座れと言われただけで答えにはならなかった。

「早速で悪いが#name1#」
「はい」
「この方は……君もよく知っているだろう? 海賊ドンキホーテ・ドフラミンゴだ」
「……は、はい。存じてます」

 やはりと確信した私は、知らず知らずに喉から水分を奪われ、これが緊張かっとまるで他人事のように考えていた。

「ンフッフッフッ。仰々しいこったなァ……」
「ッ!!」

 噂には聞いていたこの人物の独特の雰囲気に呑まれそうになりそして、笑っているように見えるこの笑みにも威圧感や、果てにしない闇を感じた。

「これが私達にとっては当たり前というものでね」
「ああ、見てりゃァ分かる」
「だろうな。君は頭が凡人より数倍キレる」
「フッフッフッフ。当たり前だ、あまりおれを馬鹿にしたことを言うもんじゃねェ」
「……悪かった」

 一連のやり取りを見ていた私は、何故父様がこの男と親しげに話しているのか不思議で堪らなかった。

「#name1#」
「は、はい。なんでしょうか」
「君をここへ呼び出した要件だが、いいかね?」
「え? はい」

 何がいいのかさっぱり分からなかった。

「では言うが。……君はもうこの国の人間ではない。ここにいるドンキホーテ・ドフラミンゴ個人の所有物になった」
「は? ま、待ってください! 父様、話が見えま」
「#name1#、私は君に喋っても良いと許可を出したのか?」
「っ……」

 ヒヤリとした父様の視線に何も返せなくなった私は、ただただ父様を見つめていた。だけど父様の目はいつもと変わらず冷たく何をお考えになっているのか分からなかった。

「私は彼と今しがたある契約を結んでね。その契約に君が関係しているのだよ」
「わ、私が?!」
「#name1#、何度も言わせないでくれ。それにそれでなくては君をここへ呼び出さない」

 もう一度注意を受けそう言われた私は何も言葉を発することが出来ず、ただ父様を困惑した目で見ているだけだった。

「いいかね。君が彼の元へ行くのは内密だ。これはこの国の為なんだ。……賢いお前なら分かるな?」
「……」

 国という大きな言葉にことの重大さを理解せざる得なかった私は、きつく唇を噛みしめゆっくりと頷いた。
 それを見届けた父様は「ではすぐに自室へ戻り荷造りを済ませない」とこちらを見ずに告げた。

「に、づくり……?」
「彼はそろそろここを出る。君も承知のとおりこの国は長居をするとログポースを破壊する。だからすぐにこちらを出航しなければならない。その時に彼の所有物である君がいなければ話しにならんだろ? さっさとしないか」
「……分かりました」

 何故か泣きたくなる気持ちを抑え、席を立ち扉へ向かった。
 そこまで広くないこの部屋だが、扉へたどり着くまでに嫌に時間がかかってしまった。
 入る時と同じように豪華な扉を開けそれをくぐり抜け、顔を歪ませ後ろ手で扉を閉めた。

 閉まったそこの中から、父様の「融資の件だが、情報提供や薬とあの子で本当に手を打ってくれるのか?」の言葉で私は“売られた”と確信した。
 泣き崩れるなんて出来ない私はそのままそこに立ち尽くしていると、中からまた声がした。

『フッフッフ、ああ……してやるよ。そういやァあのガキ、この国切っての頭のいい科学者って話を聞いたが本当かァ?』
『……ああ、そうだ。っ! お前まさか!!』
『フッフッフッフ!! さァ、どうだろうなァ?』

 扉に向けている背中にツーっと汗が落ちた。ゴクリと唾を飲んだ。ガタガタ震えている身体を守るように両手で抱え、一目散に自室へ逃げた。





 バタリと閉めた自室の扉に背を預け、上がった息を静めていた。
 まだバクバクする。

「どうかなさいましたか? #name1#様」
「あなた知っていて? 今日のこと」

 まだ静まっていない息を落ち着かせ、執事の者へそう聞くと、一瞬ほんの一瞬間が空いた。

「ええ。国王からお話しを聞きました」
「なら何故黙っていたの!?」
「国王から”内密に“と仰せつかったので」
「ッ……! わた、し……売られるのよ?」
「#name1#様、お言葉に気を付けてください」

 何処までも冷淡なものの言い方しかしないこの執事の者が、初めて憎いと感じた。

「私は!! わたしは好きに生きたいのに……」
「……この国に生まれたからにはそれは無理なお話しです。#name1#様」
「……自由って、なに?」

 掠れた声で執事の者へ、最後の質問のように聞いた。

「それは、私にも解らぬモノです。#name1#様」

 執事の者は、いつもの無表情な顔からどことなく悲しそうな顔へ変化させた。

「では、#name1#様。もう荷造りの方はこちらで全て済ませましたので、裏口へ向かいましょう」
「……。……わか、った」

 本当は分かりたくなかった。だけどそう言わなければならない、そんな気がした。
 虚しいようなそんな気持ちのまま、私はもう戻る事は決してないだろう自室を後にした。荷造りは執事の者が済ませてくれているし、それに別に特別何か大切なものがここにある訳でもない。だからこの自室へは何の未練もない。だけどただ虚しく悲しい。

「#name1#様、お手を」

 踊り場の階段へ差し掛かった時、執事の者がスッと手を差しのべてくれた。これはいつものこと。
 それに手を出すと包み込むように握り、階段を転ばぬよう導いてくれた。
 全ていつものことなのに、それが今日で終わると頭の片端で考えるとひとつだけ涙が出た。

「#name1#様……」
「っ! ごめんなさい、何でもないわ」

 それに目敏く気が付いた執事の者が、優しく私の名前を呼ぶものだから、涙を我慢するように握る手の力を強めてしまった。

「そうですか。……もうそろそろ着きます#name1#様」
「……そう」
「少し休憩しても宜しいですか?」
「え?」

 とぼとぼと階段を下がる途中で、何の前触れもなくそう言う彼にどういうことかと聞こうとしたが、それが彼なりの優しさであることに気付き「ええ。そうね」とだけ言って、階段の中途半端な所で止まって静かに涙を流した。
 前にいる彼はこちらに背を向けたまま、ただそこにいた。その背中に初めて感謝した。



 幾らかそこにいたが、偶々通りかかった若い給士の者に「そろそろ船を出すそうですので」と急かされてしまったので、私と執事の者は何もなかったかのように「わかった」とだけ言い、その階段を降りきった。


 そして降りきった先に待っていたのは、先ほど見た長身を優に越える大男だった。
 さて、これから先の私の人生はどうなるのか。全てはあの男の手によって決められる訳だ。

「では、わたくしはここで」
「ええ。有り難う」

 執事の者が立ち止まり持っていた荷物を目の前の大男に渡した。それを見ながら私は執事の者へ、最後の挨拶のようにお礼を言った。たが彼はそれに応えずただ無表情でこちらを一瞬見ただけだった。それに気分を害する訳でもなかった私はその大男に視線を向けた。

「最後の挨拶は無しか? フッフッフ」
「結構よ。あれがあなたの?」

 玄関ホールの真逆に位置するこの裏口から覗く窓から、視線でそのおっきく存在感のあってジョリーロジャーの旗がはためく船を指し、彼に聞いた。

「ああ。あれがおれの船だ」
「ふーん」
「フッフッフ、さァお嬢ちゃん行こうか?」
「……」

 有無を言わさないこの感じがとても恐くて、そして彼がとても気味悪く感じた。

 結局私は何も言えぬまま、そのおっきくてジョリーロジャーには人を食ったような挑発的なマークが書かれた船に乗ってしまった。
 多分これは必然のモノだったのかもしれない、そしてこれから起こる事も必然かもしれない。だけどそうではなく偶然かもしれない。だけどこれだけはっきり言えるのは、人生何が起こるか分からない。



...to be continue,

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