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ここに簡単な説明などが書けます。

少女Aの憂鬱


 それはきっと、彼の一番になりたいなどという祈りよりずっと傲慢な願いなのだろうということはわかっていた。
 無い物ねだり≠ェお似合いな私の知る限りでは無い物は神さまに願ったって手に入ることはなくて、むしろ確かにそこに存在しているのにどうしたって手が届かない物に人はどうしようもなく焦がれるのだろう。私は、一番になりたかった。何も持たない私の価値はそこにしか存在しないのだから。それなのにどうしてか、その場所にはあの男がいる。はじめからすべてを持っていて、望めばあらゆるものを手に入れることができる、そんな男が。私の報われない努力の果てに、憂鬱なため息は彼の髪の一本を揺らすことさえなくて。
「俺様がいる限り、他の誰も一番になんざなれやしねーんだ、何を気に病む必要がある?」
 私が一番になれなくても良い理由。それだけで私の世界の理が覆るほど、私は落ちぶれてはいない、はずだった、けれど。何にも成れなかった私のこと、私は少しだけ、許してあげられたかな。

2023/07/13


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