たとえば、砂に埋まったガラス片をダイヤモンドだと思って拾い集めるようなこと。過去の私は、そういったことに心が満ちてゆくのを感じていた。大事にポケットにしまいこんだダイヤモンドは洗濯機のなかでもみくちゃになってしまって、どこへ行ったのかわからない。私はわんわんと泣きわめいた。
 幼さゆえだろう。なにもかもが輝いて見えて、涙さえ美しかったのだ。あんなにも鮮やかだった世界は、自分の色を見つけた途端に色褪せる。


 色のない世界をのらりくらりと生きる私の前に突如として現れたのは、月永レオというおとこだ。腰に手を当てて高らかに笑い声を上げ、奇声を発して空に手を伸ばし、校内に音符を散りばめる。極めつけに自分自身を王さまだと称するおかしなおとこである。
 そして彼は、この世界から霊感(インスピレーション)なるものを感じているらしい。勿論、それは私には感じ得ないものだ。面白いものを見つければ大口を開けて笑い、つまらなくなれば口を尖らせる。そんな彼だからこそ、感じるものなのだろう。言うなれば、彼は透明な存在なのだ。

 ――羨ましいなんて、思っていない。これっぽっちも。


 グラウンドをぐるりと一周囲んでいる桜の木が、風でざわざわと揺れて葉を落とす。端と真ん中を避けた適当なところを選んで、スカートの裾が地面に付かないように押さえながらしゃがんだ。ざっと表面の砂を撫でれば、思いの外あっさりとそれは見つかった。私は、それを手のひらに乗せてまじまじとみつめた。こうして見ると、当たり前だがやはりただのガラスだ。

「何やってんだ、おまえ」

 突然背後から聞こえた声に、私はびくりと肩を揺らした。神出鬼没。彼のことをよく知る人物は口を揃えてそう言っていたが、本当にその通りだ。私はできる限り平静を装って立ち上がり、彼――月永レオに向かい合った。

「別に、なにもしてませんよ」
「嘘だ。おまえ、今なんか隠しただろ」

 びしっと指を差されて、背中に隠した右手が変な汗をかく。私が一歩後ずされば彼もまた一歩近づいて、「見せろよ」「嫌です」そんな攻防をしていれば「おまえ面白いやつだな!」と笑われた。どこに面白い要素があったのか甚だ疑問である。

「つかまえた!」

 私の右手首を彼の左手ががっしりと掴んでいて、もう逃げられない。彼の右手に促されるままに、私は握りしめていた手をほどいた。彼はというと、驚いたように私の手のひらに転がるガラクタを見ていた。

「っはははは! 頑なに見せたがらないからどんなもんかと思えば! おれも昔よく集めたよ、煌めく星の落とし物! ひさしぶりに探してみよう! うん、そうしよう!!」

 言うなり彼はその場にしゃがみこみ、先ほど私がしたように砂を撫でる。かと思えば何か思い出したように顔を上げて、私を見た。

「やっぱおまえ、面白いな!!」

 彼のきらきらの笑顔とオレンジ色の髪が、夕日に照らされて輝いて。つい数分前までガラクタでしかなかったガラス片が、たからものに変わった瞬間だった。



// 20151117