やっぱりというか、なんというか、迎えた朝は雪だった。センター試験の日には雪が降る。誰が考えたのかもわからないジンクスは、暖冬だといわれている今年も例外なく当てはまるらしい。
 交通機関に影響がなかったのは幸いだった。また運よく座席を手に入れることもできて、わたしは膝の上で一問一答を開きながら電車に揺られていた。
 ガタン、と車体がちいさく跳ねた。その拍子でおもわず顔を上げる。地下鉄だから外の様子はわからないけれど、きっと雪が降り続いているのだろう。いったん手元の本を閉じて、周囲の邪魔にならない大きさで伸びをした。右隣を見ると、クラスメイトの、もっといえば部活も同じだった源田くんが真面目な表情をして参考書を眺めている。わたしの視線に気づいたのか、彼は顔を上げた。

「ごめん、邪魔しちゃった?」
「いや、大丈夫だ。そろそろ少し目を休めようと思っていたしな」

 源田くんはそういって微笑んで、視線を窓のほうへやった。それが少しだけ寂しい。雪降ったね、そうだね。そんな会話を期待していなかったといえば嘘になる。
 ――わたし、こわいのかな。
 意図せず口にしてしまっていたようで、え、と源田くんがつぶやいてわたしを見た。一瞬だけ目があって、わたしは咄嗟に視線を膝に落とした。寒いわけでもないのに、右手が震えている。震えを隠すように、左手を重ねてにぎった。するともうひとつ、手が伸びてわたしの両手を包んだ。視界の右側から伸びたその手は、他でもない、源田くんのそれだ。

「なまえは、ひとりじゃない」

 源田くんの手は骨ばっていて、大きくて、てのひらは豆で固くなっていて、でもやさしくてあたたかかった。心臓はうるさいけれど、心は落ち着いていた。源田くんの手は魔法の手だ。
 源田くんはずっと、じぶんの何倍も広いゴールを、チームの誇りをもって守ってきたのだ。ゴール前はひとりだけれど、コートには同じユニフォームを着た仲間があと10人いる。ベンチには、控えの仲間だっている。そして、わたしも、そのユニフォームを着ているひとりだった。マネージャーも仲間だろう、そういってわたしのぶんもユニフォームを用意することを提案してくれたのは源田くんだった。そう考えると源田くんの手の魔法は理にかなっていて、説得力があった。

「ありがとう」

 車内アナウンスが、次がわたしたちの降りる駅だと伝えた。いよいよだな、いよいよだね。わたしたちは微笑みあう。地上では、まだ雪が舞っている。



//20160118【センター試験の朝】おつかれさまでした