あした、もしも、地球がこなごなになったら。あの青い線の電車の終着点を見に行こう。
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背伸びをして、指の先っぽでどうにか引っかけていた吊革が軋む。かたん、ことん。車体の揺れに同調して、からだが傾く。「座ったら?」と、ひとつ空いた席を指差して不二くんが言う。
「ううん、いいの」
「いいの?」
「うん」
「そう」
重力を言い訳にして、あなたにしなだれていたいのです。わたしの下心を知ってか知らずか、「僕の腕を掴んでいいよ」なんて言って左腕を差し出してくる。「ありがとう」と控えめに腕を掴めば鉄路はカーブに差し掛かり、ふたりいっしょになってからだが傾いた。目をあわせて微笑みあうわたしたちはいま、地球を共有している。
あした地球がこなごなになってしまったら、どうする? なんて、ノストラダムスの大予言よろしくな空想の話に相槌を打った不二くんは、わたしのこれを思春期特有のメランコリーかなにかだと思っているのだろう。図星であるからわたしは黙っていた。不二くんもなにも言わなかったし、なにも聞かなかった。
車窓に目を向けた。昼間にうっすらと浮かぶ三日月を追いかけて走っていた電車は、いつのまにか夕暮れのほうへ向かっている。はじめこそ背の高い無機質な建物で見え隠れしていた月は、今はフレームのなかにしっかり収まっていた。終点を告げるアナウンスが流れる。改札を出て海の見える街に降り立ったとき、空はすみれ色に変わっていた。不二くんは眩しそうな表情で、あかるく見えはじめた月を見上げる。
「僕はね、君が見ているせかいはきっと色鮮やかで、眩しくて仕方がないんだろうな、って思うんだよ」
「どうかな、わかんない」
「だって君は、いろいろなものを敏感に感じすぎるから」
大丈夫、怖くないよ。僕がいる。
夜のはじまりを知らせるとうめいな風が、不二くんのやわらかい髪を撫でた。揺れる前髪のすき間から、貫くようなまなざしが向けられる。手をつないで向かい合えば、手のひらから不二くんの熱が流れ込んでくる。からだじゅうを巡って、じわじわと侵食してゆく。不二くんは、わたしが大事にしていたものをわたしよりも理解していた。
ちいさな終わりを迎えたせかいで、ふたりで生きる理由を確かめあう。わたしたちは、ひとつになる。
//20200803