午後4時の、平和の象徴みたいなセーラー服に目が眩んだ。教室には、日直の俺たち以外誰もいない。彼女は手元の日誌に、すっかり見慣れた変な癖のある、わりに整った字で俺の名前を書きながら、「みわぴってさあ、」これまた変なあだ名で俺を呼ぶ。

「うちのこと好きだったでしょ」
「は。」

 言葉を、思考を、遮るように、時計の秒針が振れて句点を打つ。たった一秒の完全な無音に、やけに息が詰まった。俺の名前のうえで、彼女の手がペンを回す。透き通るように薄い手の中で、ウンもスンも言えない俺は、生殺しの金魚にでもなった気分だった。

「あれ、違った?」
「俺は、」

 そうやって、俺を巫山戯たあだ名で呼びながら、本気か冗談かわからないことを言って心を乱してくるところが嫌いだ。そのくせ俺の本心には興味がないところなんて心底気に食わない。少し低い35.0度くらいの温度感が太陽の日差しよりずっと丁度良いところも、髪留めや長いまつげの影や首筋にあるホクロが昔から変わらずに俺を覚えているみたいなところも、

「ずっと好きだったし、今も好きだって言ったら?」
「じゃあ付き合う?」

 外から聞こえてきたサイレンの音で、彼女の声は掻き消された。俺も彼女も窓の外は見なかった。俺の目の奥を覗きこむように見つめる彼女は、相変わらず、何を考えているのかわからない。だのに、絡んだ視線で俺たちは思考を共有しているのではないか? という感覚が体内から溢れ出して、たちまち水位は上昇し、二人きりの密室に溺れてしまいそうになる。振り払うように、目を逸らしたのは俺の方だった。

「……出る」
「隊長サマは忙しいね」
「五月蝿い。おまえはここで大人しくしてろ。下手に外に出るより良い」

 守る、なんて崇高な考えを抱いたことはなかった。近界民の襲来は今や、時折頻繁に発生する地震のようなものだが、突然襲い来る理不尽に、俺は、もう二度と、俺を脅かされたくない。殺される前に、殺してやる。近界民は全て、俺が。
 警鐘はまだ止まない。


//20260523