「もしもオレがいなくなったら、どうする?」

 それは、あまりにも唐突だった。カルマはうしろから覆い被さるようなかたちでわたしを抱きしめている。確かに彼はそこにいるというのに、いないということを想定しなければならない理由が、わたしにはわからなかった。そんな思いからしばらく黙っていると、カルマは可笑しそうに笑い声を上げた。

「ごめんごめん。もしもの話だよ」

 髪の毛の先が、カルマの長い指に絡めとられた。カルマは、野性的なにんげんであると、わたしはおもう。自分自身に正直であり、本能に、欲望に、忠実であるからだ。そのなかの支配欲のあらわれなのだろう。カルマはこうしてわたしに触れて、そのぬくもりと感触を刻みこむ。それは動物でいうところのマーキングによく似ている。とは言ってもカルマはあたまが良いから、はんぶんは欲望、残りはんぶんは計算から導き出された行為なのだろうけれど。

「カルマが、わたしをおいていくわけない」
「んー、まあ確かにね。消えてってお願いされても、オレはなまえのそばを離れるつもりないし」
「……わたしが、そんなお願いするとおもってるの」
「いや、全然 」

 ますます意味がわからなかった。もしも、だなんて言われても、そのもしもが絶対にあり得ないことだというのに。ところで結局、冒頭の質問にわたしはこたえを出していない。追及してこないところからすると、ただのカルマの思いつきだったのだろう。変に考え込んでしまったじぶんが馬鹿らしい。

「カルマはわたしから、はなれない?それとも、」

 はなれられない?
 カルマは驚いたように目を見開いた。意地悪なことを聞くんだね、と口元にだけ笑顔をのせるカルマは、ぜんぶわかっている。ほんとうはそんなの、どちらだって構わないのだ。カルマがわたしのそばにいてくれることに変わりはないのだから。

「そういうなまえはどうなの?」
「……いじわる」
「なまえが先だったじゃん」
「カルマと、いっしょだよ」
「だと思った」

 背中に触れるぬくい体温が、逞しい腕のなかの閉塞感が、心地よかった。首筋に寄せられたくちびるのやわらかさと、噛みつかれたときの甘い痛みのコントラストに、毒されているのだ。

「さっきのはなしだけど」

 もう数分も前のことであるのに、カルマは、もういいとは言わなかった。うん、とみじかく先を促すように言葉をころがして、まぶたを閉じた。

「きっとその時には、わたしはとっくにいなくなってるはずだよ」



//20141225【感情は心臓を止めうるか/スタージュエリーに墜落「12星座」1000文字以内】