「福田くんはさあ、白羽くんのどこが好きなの?」
ファミレスでの打ち合わせ中、隣のテーブルの客が二回入れ替わった後だった。さっきまで「もっと魅力的なヒロインを描いてよ。パンチラは申し分ないが福田くんの描く女の子は魅力がない、って編集部でもいわれてるんだから」とかなんとかいっていた雄二郎が、俺のネームをテーブルに置くと、右手のコーヒーを一気に飲みほしてこういった。おもわず、はあ?と間抜けな声が出る。
「彼女もできたんだからさ、もっと可愛い女の子描けないかなあ。……っていうのは半分冗談で、まあ、純粋な好奇心だよ。どうして白羽くんだったのかとおもって。だって福田くん、この間まで恋愛のれの字も見当たらなかったからね」
彼女持ちどころか妻子持ちまでいる編集部のなかで色恋沙汰の噂ひとつないおまえにいわれたくねえよ、と心のなかで悪態をつきつつ、俺も自分のグラスに口をつけた。だいたい、それ今きくことかよ。仮にも仕事中だぞ。つか、ほっとけ。ほとんど溶けた氷の味がするコーラといっしょに、顔をしかめた。
「すぐに思いつくものでもないか。悪い、ちょっとトイレ行ってくる」
席を立った雄二郎の背中をぼんやりとながめながら、コーラのグラスを回した。麗のどこが好き、か。俺のほうから告白しておいて無責任なような気がしなくもないが、あらためて問われると自分でもよくわからない。小動物みたいで守ってやりたくなる? 信頼しきった無防備な笑顔が可愛い? 事実ではあるが、だから好きなのか? と考えるとそれはちがう。彼女の姿をみつけるだけでうれしくて、安心して、そして心臓がうるさくなるのだから。……柄じゃねえけど。俺の心臓は白羽麗という少女に支配された怪物に喰われていて、それが動悸を引き起こしているのかもしれない。
ちょうど、麗と同年代くらいの少女たちの客が、からんからんとベルを鳴らした。その花やかな声をききながら、麗は今ごろ何をしているのだろう、なんてふと気になった。新学期だし、また無理をして体調を崩してもいけないから、とアシスタントの仕事は一週間なしにしてやったのだ。しっかり身体を休ませていればいいが。
彼のどこが好きなの、と少女たちは思春期真っ只中というふうに盛り上がる。問いかけられた少女はなんと答えるのだろう。俺も全くおなじ問いに答えあぐねているから、回答の参考にさせてもらおう、と声のするテーブルに視線をやった。やや間をおいて「えっと」と答えたその声が、え、うそだろおい。まわりの少女たちよりも華奢なその後ろ姿も見覚えのあるそれで、俺はおもわず姿勢を正して自分のテーブルに向き直り、耳だけそちらに集中させた。あー盗み聞きみたいでなんかわりぃな。許せ。
「好きなところを、いえばいいんですか? そうですね、たくさんあるんですけど、いちばんは、わたしのことを好きっていってくれたところ、です。わたし、福田さんのことだいすきだから、そういってもらえるだけでものすごくしあわせで。だから、もっと好きになるというか……あ、こ、答えになってない、かな……? 恥ずかしいですね、これ……!?」
なんだよ、はじめから理由なんていらなかったんじゃねえか。俺は麗に恋をしていて、麗もまた、俺に恋をしている。その事実以外になにが必要だというのか。どこが好きか?ほんとうのこたえは、俺たちのなかにもうとっくにみつかっていて、俺たち以外にはわかりっこないのだ。でも、そうだな、今度会ったときには麗のかわいいところをひとつずつ伝えてからかってやるのもわるくない。
にしても。よくもまああんなこっ恥ずかしいことをいえたもんだ! あいつは俺に聞かれているなんておもってもみないのだろうが、いわれてる俺は今にも恥ずか死しそうだ。まあ、いった本人もりんごみたいになって照れているのだろうから、道連れにしてやろう。でもなんつーか、うれしいもんだな。にやけがとまらない。
「あー……かわいいなァ、ったく」
がしゃん、と勢いにまかせてグラスを置いて、いっしょになってテーブルに突っ伏した。惚れた弱みってやつだよなあ、これ。
「ごめん、ついでにドリンクのおかわり注いでたら遅くなっちゃって……って、どうした、福田くん」
「……ほっとけ」
//20160722