ことしの誕生日はイギリスで過ごすとお言いになった彼を、聞き分けのよい彼女を演じて「いってらっしゃい」と送り出した。「お前は俺様がイギリスに行っても良いのか」なんて、そんなの、まるで引き留めてほしいと言っているみたいで跡部さまらしくなかった。きっと、彼は気づいている。神さまみたいになんでもお見通しのあなた、お願いだから見て見ぬふりで通りすぎて。10月1日、空港にいるという跡部さまはご丁寧にお電話をくれた。「お前が行くなと言えば、俺は行かない。いいんだな?」いいよ。いいですとも。渋谷駅の忠犬にも負けないくらい待ってみせますとも。
なんて、嘘。ほんとうはわたしったら、ケーキの焼き上がりも待ちきれない女の子なのです。オーブンの中で、オレンジ色の光を浴びるケーキをみつめていた。跡部さまの誕生日は、きょう。彼が帰って来るのは、あした。玄関のチャイムが鳴ったのと、オーブンがチンとなったのはほとんど同時だった。
「 なんで、いるの」
「アーン? お前が行くなって言ったからだろ」
見慣れた景色に、見慣れたひと。高い鼻がつんと空を向いていた。
「跡部さまには日本が似合うよ」
「ほう? 理由を聞いてやる」
「日いづる国だから」
洗いたての太陽は、きっとあなたのために昇ってくるの。その光をいちばんに浴びる権利を、あなたは持っている。
「お前にしては良いセンいってるじゃねーの。だから俺はここにいるんだよ」
焼きたてのケーキも、ビルのすき間の太陽も、勝利の女神さまの微笑みも、すべてあなたのものでありますように。
跡部景吾誕生祭