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はじめに。
世界には二つの大地、そして都市がある。砂塵に塗れ緑は失せ太陽を奪われた廃棄大地に根をはやす鉄屑の地下都市"ダウンダウン"。上空に新たな大地を造り上げ陽光を独占した鉄筋の天空都市"ブルーシティ"。
治外法権が認められ世界から爪弾きにされたダウンダウンでは、終日マフィアが銃声で正義をうたい、人々は瓦礫の散らばる音を子守唄とし、血腥い抗争を過激でスリリングなショーと笑ってティーカップを傾ける。これぞ日常と息をつく、言ってしまえば悪辣な自由の元ネジの緩い人間が多く集った何とも害ばかりの街である。
比べ、ブルーシティのなんと煌びやか且つ安穏なことか。真っ当な法と澄んだ空気に身を守られ、劣等種と呼ぶ存在がいることで常に自尊心を溢れるほどに満たす人々。我らが踏む地こそ真の大地と声を大にして叫び、天から地の下を嘲笑う。また進化に余念のないひたむきさも彼らの特筆すべき点だろう。
油と水。ここはそんな世界だった。
前置きを終わる。
今回焦点を当てるのはダウンダウンに暮らすひとりの女性である。彼女は格別劇的な日々に身を投じているわけではないが、ダウンダウンにおいての、平凡とは言い難い中にいた。それでいて主役としたのは、彼女の胸中に秘められた"使命"がこの二つの世界の存続を揺るがす重大な切っ掛けになりうるからだ。
水が油を溶かすのか。油が水を呑むのか。
或いは予期せぬ何かがすべてを無に帰すのか。
―――彼女は、知らぬまま。