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「―――あー、こちらW・El。一○五七三ポイント、
神喰《カミクイ》撃破。これよりクリスタルコア回収及びアニマ・ゲートの開通に移行するです」
灰色の世界。荒廃した大地にて。
高さ凡そ五メートルはありそうな、深黒の物体の上で彼女―――エルは膝を抱えていた。
虚空をゆるりと視線でなぞり、気の抜けきった声を無線に乗せる。灰色の世界に滲まない、嫌に存在を主張する真っ赤な液体が辺り一面を染めるこの場において、なんとも不釣り合いな声色だった。
「"了解。W・St及びW・Kuの信号感知不可。状況を"」
「ロスト」
「"……了解。アニマ・ゲート予想開通地点、固定完了。帰投してください"」
「ん」
オペレーターの機械的な業務文句に短い返事をし、ブツリと通信を切断する。そして立ち上がったエルは両手に握る真白のツインソードを鈍色の空に振り上げた。
「五二六三個目の世界―――さようなら」
そうして切っ先が落とされる。刹那、眩い閃光の帯が五メートルの巨体を斬り裂いた。
物体から耳を劈く程の不快な奇声が上がり、灰色の世界を揺らす。物体の正体は生き物であった。それは"神喰"と呼ばれる、名の通り"神を喰らう"モンスターだ。
巨体を、まるで綿菓子を割くかのように斬り開いてみせたエルは、奇声に眉を顰めながらとんと地上へと飛び降りた。
そして神喰の割かれた、腹であろう箇所からごぽごぽ、と音を立てながら流るる黒い液体が、荒れ果てた地表に吐き出した光り輝く物を視界に捉える。
「……げ。ハチャメチャに汚れてるですね」
心底不愉快そうな表情を浮かべ、エルは指先でそれを摘み上げた。その途端に、何処からか「パキリ」と硝子がひび割れたような音がそこかしこで上がり始める。
エルが振り返ると、灰色の世界は確かにひび割れていた。何処も彼処もハリボテだったかのように、パキリ、パキリと。
「リンク。ポイント・一○○○」
しかし、そんな状況も数千回と見てきたエルには焦りの色などない。酷く落ち着いた声色で言葉を"魔法"に乗せる。そして右手人差し指に刻まれたリングの焼印を宙へと翳せば、目の前の空間はグニャリと歪みを生んだ。
歪みは次第に穴へと変わってゆく。先は闇。ひたすらの暗黒。数秒で人ひとり通れる程の大きさとなり、エルはそこへ躊躇なく足を踏み入れようとした。
「……わたしは、わたしは、正しい。間違ってない。たとえ、数億の命を闇へ葬り去ろうとも、わたしは―――世界を、救ってる」
エルはほんの一瞬足元へと視線をやった。そこには赤い血海に沈む二人の教え子の姿がある。
「世界が消えようとも、"アニマ"の命は巡る。どこまでも、いつまでも。―――ああ、呪いだ」
エルは教え子をそのままに、闇の中へと姿を消した。