例のおでかけの日から一週間。零くんは無理しておでかけをしてくれたのか、たまたま忙しかっただけかわからなかったが、あれから家に帰ってくることはなかった。だけど、毎日「おはよう」や「おやすみ」や「今日は何食べた?」などメッセージはくれていたので寂しくはない。
そして今日はいつもと違いお昼頃に「今日は早く帰れそうだ。僕が腕によりをかけてごはんを作るので楽しみにしてて」と連絡がきたのだ。そりゃもう楽しみでテンションがあがってしまうのは仕方ないだろう。ついキッチンをピカピカに磨いてしまった。
そうこうしているうちにいつの間にか窓の外が暗くなっている。洗濯物を畳んでいると、玄関のドアが開く音がした。
「おかえりなさい!」
「あぁ、ただいま」
「お疲れ様でした。これ、食材ですか?しまっておきますよ」
「ありがとう、今日使うやつだから僕が持っていくよ」
私は零くんからスーツのジャケットだけを受け取った。零くんはいつも私にあまり重いものを持たせてくれない。そういうと零くんは微笑んで「力には自信があるから」というだけだった。
零くんのジャケットをハンガーにかけていると零くんはシャツにエプロンを身に着け。キッチンに立っているところだった。
「今日はカレイの煮つけと、煮物だよ。他に食べたいものある?」
「ないですけど……いいんでしょうか。仕事で疲れているのに。零くんにつくってもらうなんて…」
「もちろん。気分転換にちょうどいいんだ。それに君がおいしそうに僕のごはんを食べてくれるのがうれしいから」
微笑んでそういわれてしまうと私は何も言うことができない。お皿でも出そうかとしたけれど、零くんにのんびりしていてといわれてしまったので私はリビングへと戻った。
洗濯ものを畳むのを再開して、ついでにシャツにアイロンなんかかけていると、キッチンから零くんの声がした、私を呼んでいる。
「ごはんできたよ」
「わ〜!おいしそう!」
「いっぱいたべてくれ」
「零くんのご飯いっぱいたべられるなんて幸せです」
推しのご飯が食べれる日がこようとは。バンザイ!しあわせ!おいしいのもあるけれど、零くんが作ってくれたということが嬉しくて思わずにこにこしてしまう。
「おいしい?」
「すっごく!」
「それはよかった。作った甲斐がある」
「この煮つけの味付け、すごくいいですね。今度教えてください」
私がそういうと、零くんはご飯を口に運びながらあぁ、そうだなとうなずいた。推しのご飯食べるのも幸せだけど、推しとならんんでキッチンに立つのも夢だよね!
すっかりご飯も食べ終わり、零くんがお風呂にむかうというので私はせめてと皿洗いをかってでた。(余談だが零くんが「一緒にはいる?」と笑顔できいてくるので思わずクッションを投げつけてしまったというやりとりもした)
お皿も洗ってテレビを見ているとTシャツとスウェットをきた零くんがお風呂から出てきた。今度は私が立ち上がる。
「じゃあ私も入ってこようかな」
「ゆっくりはいっておいで。勝負下着履いてくれても構わないけど」
「バカ!」
「僕は勝負下着なのに」
零くんの勝負下着ってなに。
すっかり見慣れたお風呂を終えて私はリビングへと戻る。髪の毛は乾かしてしまったので、あとはもう寝ることもできる状態だ。さすがに勝負下着までは気合のいれすぎかなと恥ずかしくなってしまったので、パジャマを少しかわいい、もこもこのショートパンツに同じくもこもこの靴下、かわいい薄手のパーカーなんかを羽織ってみた。
零くんはお風呂からでた私をみて、にっこりと笑顔を浮かべて手招きをする。なんだろう、おそるおそる近づくと零くんにぐいっと腕をひかれ、そのままテレビの前であぐらをかいていた零くんをイスにするように私は零くんの膝の上に座ってしまう。
「な、なに?」
「マッサージ、してあげようかと思って」
そういってうきうきと私の靴下を脱がそうとする。零くんのそばには最近話題のいい香りのするボディクリームのボトルが置いてあった。私はあわてて靴下を押さえる。
「疲れているのにいいですよ!それより早く寝ましょう!」
「マッサージしてからだっていつもより早い時間に寝れるだろ。それに僕は君に触れたい……じゃなかった癒しがほしい」
「いまちょっと本音出ませんでした?」
「いいだろ、少しくらい。せっかく買ったんだこれも」
そういって零くんはボディクリームの蓋をあけ、自分の手に付ける。ふわりといい香りが零くんの手から流れてきた。確かにいい香りだけども。
靴下を脱がそうとしていた手がちょうどでていた生足のところに振れ始めたので仕方なく私は抵抗をやめた。とん、と零くんに背中を預けると零くんは満足したようにわたしのつむじにキスを一つしてから靴下を脱がせる。
零くんのおっきい手がボディクリームを纏いながらゆっくりと撫でる。後ろからは零くんのいいにおいがするし、足元からはボディクリームのいいにおいがする。やわらかく零くんのてが私のふくらはぎをもむ。
背中の零くんの体温が心地よくてうとうとしていると、零くんがそっと私の耳元でささやいた。
「眠かったら眠ってもいいよ。ちゃんとベットにつれていくから」
「ん〜…でも零くんと…もっとお話ししたい……」
「そう言ってくれるのはうれしいけど、無理しなくていいから。僕もすぐに眠るよ」
「ん〜…零くん……」
すり、と零くんの首元にすり寄る。零くんのにおいと暖かさで結局私はすこんと眠りについてしまったのだった。
「−−−またか」
私は目を覚まして、そして零くんがベットにいないことを確認した。私も遅く起きたわけではないけれど、零くんの寝顔は相変わらず拝めない。いつ眠っているんだろう。
昨日のかわいいパジャマのかっこうのまま眠っていたらしい私は、ベットからでていつもの通りドアを開ける。そうするときっと、また零くんがエプロンをつけて、キッチンにたって「ご飯できましたよ」って微笑むんだ。
だけど、ドアをあけるとキッチンに零くんはいなくて、リビングのテーブルにスーツ姿で座っていた。難しい顔をして私のことを見つめている。
「起きたか。少し話がある。ここに座ってくれ」