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 瞼の裏に、ぐちゃりと潰れたような血の固まりが浮かび上がっている。色濃い怨念を纏い、うごめいている物が見える。かつては人間だったはずの固まりだ。

 僕は、ずくずくと抉られるように痛む右目を力の限り押さえつける。痛みがやわらぐことはなく、やがて、立っていられないほどの鈍痛を訴え始める。こめかみから嫌な汗が滲んで、頬を伝った。痛みが全身に広がってゆく。壁に手をついて、くずおれることを何とか拒んだ。

 気を抜くと、引きずり込まれてしまう。人間であった固まりのような物は、いつだって僕を飲み込もうとしている。恨み、憎しみ、恐れ、命への渇望、それらの感情が泥のようにまとわりついてくる。抗うように、ゆっくりと両目を開いた。

 ぼやける視界に映ったのは、瞼の裏に焼き付いている物と同じ、血だまりと、人間だった物の固まりだ。ほんの数分前までは生きていた物だ。けれど、もはや絶命している。僕が殺してやった。惨たらしく殺してやった。

 目を閉じていようと、開いていようと、この目は血塗られた世界しか映しはしない。

 壁についた手を、眼前にかざした。と同時に、背を壁に預けた。もう支えなしには立っていられない。苦痛を堪えながら、僕は幻覚で作り出した槍を、かざした手に携えた。生き残りがいることは既にお見通しだ。柱の影から銃を構えて飛び出してきた無謀な男は、恐怖に引きつった顔をしていた。

「堕ちろ。そして巡れ」

 短く言葉を吐き出して、一歩を踏み出す。歩くことすらままならない鈍痛が僕を襲っていたが、歩みを止めることはできない。

 刹那、銃声が鳴り響いたが、男の放った弾丸は軌道を逸れて、シャンデリアを撃ち抜いていた。立て続けに能力を使ったせいで頭がぐらついて、意識が遠ざかりそうになるが、きつく握りこんだ槍が男の胸を貫いた瞬間、僕の心が満ちてくるのを感じた。意識が僕に帰ってくる。

 槍を思い切り引き抜くと真っ赤な鮮血が流れだした。構わず、まだ微かに息のある男を滅多刺しにしてやった。男が絶命していることに気づいたのは、人間であったはずの原型を失ってからだった。

 ようやく僕は満たされたが、どこか違うところに穴が開くのを同時に感じていた。

 目を閉じると、血だまりの中からひとりの人間が這い出てきて、悲しそうに何かを訴えていた。僕は聞こえないふりをして獣じみた呻き声をあげる。もう、こうしなければ生きられない。六道骸は、生きていられないのだ。


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