青に呑まれて輝く君よ

 ヒトというのは、こうも容易く根幹にあるものを変えてしまえるのだろうか。……ヒトというか、イカなんだけど。
 以前ならば顔を合わせるたびに不快そうに顔を歪め、舌打ちをされていた。というのも、私が弱いせいで彼に迷惑をかけてしまった過去が原因なのだが。
 ……そりゃ、組みたくもないチームで、適当にウデマエを見て選んだメンバーにウデマエ詐欺の雑魚が紛れ込んでいたのだからそうだろう。
 なんせ私、上がり症なのだ。憧れている人にメンバーに選ばれて、緊張に緊張を重ね、さんざんデスを重ねてしまった。彼の望むスペシャル要員としての責務も果たせないのだから、嫌われたって仕方がないだろう。
 ただ、嫌われているとはいえ憧れている気持ちがなくなるわけでもなく、おまけに浅ましくも恋慕の情を抱いていた私である。
 想うだけならばと視界に入らぬよう、こっそりと彼を追いかけ続けた。おかげさまで立派なストーカー案件なわけだが、私のそれはいつだってあっさりと看破され、冷たい視線にさらされる。
 その視線に傷つきつつも、認識されているという喜びを覚えていたのが先日までのハイライトである。
 彼が変わったのは、「アホ」で有名なブルーチームとの戦いがきっかけだった。正直、内容はあまり覚えていない。本当は彼の試合は網膜に焼き付けてでも覚えてやるという気合のもと観戦しているのだけど、少々インパクトが強すぎる出来事があって、それどころではなかった。
 まさかあのライダーが、公衆の面前でズボンを降ろされる日が来ようとは。
 というわけで、その試合どころかその日自体の記憶が危うい私ではあるが、彼の変化がその日の試合であったことは間違いないと断言できる。
 だってそれ以降、私は彼と言葉を交わすことができているのだから。

「おまえはどう思う」
「なっ、な、何、が?」
「見ていてんだろう? あの、ブルーチームとの戦いだ」
 ハイカラシティのとある喫茶店のテラス。人通りはそこそこあるその場所で、呼び止められて相席につかされてから開口一番にこれである。
 言われて、思い浮かぶのはもちろん例のアレであり、おかげさまで羞恥に頬が染まる。顔が熱い。見ていたかどうかと言われれば確かに見ていた。しかも、あのライダーを倒すほどの面々だからとライダーの試合と被っていない限りは彼らの戦いを観戦していた。
 だがしかし、あの日の戦いについては答えられることど何一つもないのだ。
 頬を染めて黙り込む私に、いつもの彼ならば怒鳴っていただろう。しかし彼は私の反応に例の出来事を思い出したのか、「いや、いい。ブルーチームについてだ」と言い直す。
 それに驚いて羞恥を忘れ、目を瞬かせて彼を見やる。今、彼はなんと言ったのだろうか。
「……なんだその目は」
「えっ、いや、その……」
「……はぁ」
 大きなため息。映し出す表情は呆れ。思わず身が竦む。あの鋭い視線は私の心を握り潰して放り投げるに等しい思いを抱かせる。
 それでも、消えないところがとても困るのだけど。
 なんて思いながら身を固くする私に、彼は一言、「すまない」と言った。
 あの、ライダーが。雑魚だと切り捨てた私に対して。
「おまえが"そう"なのはオレのせいだな」
「えっ? あの、その……」
「あの時は悪かった。と言っても許されることでもないだろうが。本当はこうして話をするのも嫌か? だがおまえ、いつもオレの試合見に来ているだろう?」
 ヒュッと、私は知れず息を呑む。バレているだろうとは思っていた。なんせそのうち何回かは彼の冷たい視線に射抜かれたのだから。
 先程まで赤かった顔が一変、さっと血の気が引いて今はきっと青いのだろう。そんな私を見て彼はいつものそれとは対象的に困ったように眉を下げる。
「責めているわけじゃない。むしろ、おまえの意見が聞きたくてここに座らせたんだ」
「い、意見……?」
「おまえなら、わかっているだろう? オレの、オレらのチームに足りてないものが」
 彼の目は真剣そのものだ。本気で、今のチームに足りないものを探しているのだろう。
 あのライダーが珍しく即時解散ではなく組み続けているチーム。
 そう、彼は変わった。あの、ブルーチームとの一戦をきっかけに、変わっている最中なのだ。ただ、あまりにも早い速度で変わっていく彼に、過去に囚われ続けていた私は対応しきれない。
 けど。
「わ、わかっ、た。そ、それ、それじゃあ……」
「おまえ、その喋りはなんとかならないか?」
「い、い、いま、は、む、むり、だ、よ」
 こればっかりは仕方ないと諦めてほしい。とりあえず今は。

 これは、いっそ清々しいほどに変わってしまった(という自覚があるのかは別として)彼と、挙動不審であった(主に彼の前だけで)私が、公衆の面前で大声で言い合いをしつつもそれなりに仲良くなるための、始まりの物語である。