他なんて知らない。ただ、私は私の任務をこなしていくだけだ。それが何よりも誇らしいということを、多分ここにいるクラスメイトは理解してくれないのだろう。
この、第三小隊の特殊さを理解しろとは言わないが、口出しだけはして欲しくない。そもそもの根本が違うのだ。
「コウタ」
声をかければ目の前にいたメカニックが振り返った。去りゆく仲間を見送り続けた彼とリクヤは何を思ってこの場に残っているのだろうか。私がいなくなる時、彼は何を考えるのだろうか。
今までは運がよかった。機体の性能がよかった。それを支えてるのは間違いなく彼なのだろう。
そんな彼の隣に腰掛け、笑みを浮かべる。多分ね、多分、もうすぐで私の役割は終わってしまうんだと思う。
この任務が嫌になったわけではない。ただ、少し惜しむものができてしまったのもまた事実だった。それを彼に押し付ける気はない。のだが、やはり少し思うところはあるわけで、そんな心境の変化が最近の悩みでもあった。
「どうかしたのか?」
「どうかした、のかなぁ……」
「俺に聞くなって」
「……だよねぇ」
どうかしたのかと言われたら、多分どうかしちゃってるわけで、この任務においてのそれは邪魔でしかない。わかっている、けど……。
頭の中がごちゃごちゃになってしまって考えがまとまらない。それをごまかすように大きく伸びをした。両手を上にあげたまま彼へと体重を預ける。振り払うでもなく、彼はそのままでいてくれる。
視線をあげれば相変わらず彼は少し面倒臭そうな顔をして、ぼんやりと前を見つめている。
「今なに考えてるの?」
「……お前が何を考えてるのか、かな」
「それねぇ、私もわからないんだよねぇ」
「は?」
今度は呆れの色を含んだ視線がこちらへと向けられた。そんな顔されても困るんだってば。
去りゆくことが確定している人間に、なんて目を向けるのだ。その視線がここから離れたくなる原因になっているのを彼はわかっているのだろうか。
もしも、もしもだ。この先守るべき彼が危機に直面することなく生活を送ることができるのならば……。そんな有りもしない事を考えては自嘲する。それがここ最近の日課でもあるのだから私はダメなんだよなあ。
「コウタはさ、辛くない?」
「……」
「……わけ、ないよね。ごめん」
「いや……」
聞いてはいけない事を聞いてしまった。何が、ということは明確に口にはしなかったが、頭のいい彼にはどうやら伝わってしまったようだ。頭が良くて空気の読める人間はこういう時にぼかせなくなって困る。
彼が辛くないはずがないのだ、散々いろんな人の機体をメンテナンスしている彼が何も思わないはずがない。分かっていたのにそれを口にしてしまうだなんて自分が嫌になる。
今のは忘れて、と、顔を見るのがためらわれて視線をそらす。手持無沙汰な腕を胸のあたりで組んで、何を言うべきかと頭を働かせる。
ぐしゃり、と、ふいに頭を優しく撫でられる。というよりはかき混ぜるに近い手つきだったけど。私の体重をかけている方とは逆の手で、彼が頭を撫でてくれているんだと気付くまでに数秒かかった。
「まあ、なんつーか、さ」
言葉を探すように切られた言葉を、一字一句聞き逃すまいと耳をそばだてる。言葉が途切れるのと同じように彼の手も止まる。しかし位置はそのまま私の上だ。
なんだか無性にドキドキしてくるのだからこの朝比奈コウタという男はずるいと思う。一体彼は何を言うのだろうか。少しだけ緊張しながらも彼の言葉を待つ。
「あー……まあ、ほら、卒業しちまえばいくらでも……って、何言ってんだか……」
「えっ!?」
今、私の知る朝比奈コウタからは絶対に出てこないような言葉が聞こえてきたような気がする。逸らしていた視線を彼に向ければ、なんというか、珍しいものを見てしまったような気分。
照れているような、ほんの少し赤みの入った頬が、私の聞いた言葉は聞き間違いなんかじゃないんだということを告げている、
なんだよ。なんて不満を言いたげな声なのに、顔はやっぱりほんのり色づいているのだから迫力も何もあったもんじゃない。
「ねえ、もう一回」
「はぁ?」
「ちゃんと聞きたいんだけど」
「やだね」
ぷい、と顔を背けられて引き下がらざるを得ない。こういう時のコウタに食い下がったら絶対に、もう一生同じような言葉は聞けないような気がする。
同じ中学生とは思えない大人びた彼の顔が、なんだか今は年相応の男の子みたいなのだからなんだかおもしろい。
そっか、うん、そうだよね。何年かかるかはさておき、彼は必ず本土には戻ってくるわけで、それは間違いようのない事実なのだ。御8図からの胸のその確信を抱いて、なんだか今日はいつも以上にウォーゲームを頑張れそうな気がしてきた。
「っしゃー!」
「うわっ、なんだよ」
「ううん、なんでもない」
何言ってるんだ、こいつは。そう言いたげな顔に笑顔で答えて気合を入れなおす。まずは私にできる範囲で、私の任務を遂行しなくては話にならない。
ねえもしも、もしも私が今日のウォーゲームでロストしてしまったとして、その時はあの言葉の続きを聞かせてくれる? ……なんて、言葉にする勇気なんてないくせに、そんなことを思ってしまった。