友人であり、頼れる団長でもあるジータと共に互いに別々の武器を鍛え始めて数ヵ月。十天衆と名乗る騎空団の頭目と、弓使いの女性が仲間に加わったのがつい先日。だというのに、彼らはさらなるレベルアップの為にとんでもない提案を持ち出してきたのが事件の始まりであった。
曰く、それをこなすことにより互いに練度が上がるのなんのといった話だ。それ自体に問題はなく、私たちはシェロカルテの所に相談に行った時の折、とんでもない話を聞いてしまった。
「七星剣を手放すってこと!?」
「いやあ、まさか必要な素材にこれが含まれるとは」
「しかも砕かなきゃいけないって……」
じっと手に持った七星剣を見る。それは、そうするために今まで育て上げてきたわけではない。鍛えに鍛えて、全空一の剣の使い手に見初められるまでに至ったそれは、もはや数ヵ月とはいえ、簡単に砕けるほどの軽いものではなくなってしまっていた。
おまけに、だ。なんとこれだけでは飽き足らず、得られる素材はもう一本分必要だということまでわかっていた。
「ちょ、ちょーっとまって。なまえちゃん、もしかして――」
「はい。これを使えばあと一本で終わるなって」
「いやいやいや、もっとよく考えよう。キミならまだ頑張れるだろ?」
「無理ですよ。っていうかこれ作るまでにどれだけ頑張ったと思ってるんですか」
ジータと二人でやっていたから、素材だって二倍必要だった。さらにその倍以上が必要だといわれてしまえば、手元のものを使って短縮する考えに至るのも当然だろう。
彼と共にうちの騎空団にやってきた女性――ソーンさんも、今頃ジータと同じような話をしているのだろうか。なんて、ぼんやりと頭の片隅で考えてしまった。
「シエテさん、わかってます? 言いたくはないんですが、こればかりに気を取られているわけにもいかないんですって」
新しい空域を進み始めている私たちは、それなりに大変な状況に直面している最中だ。それをすんなりこなせるようになると思って手を出した私の考えが浅はかだったのだろうか。なんて頭を抱えてしまいたくなるほどに、修行の日々は地獄の様相を模していた。
それはもう、七星剣を作り始めた数か月前の自分たちとは違うわけで、素材を集めなおすことも前よりは楽になっているのかもしれない。しかし彼が要求しているのは、彼の見初めたものを残したままで、もう二本用意するといった無茶の過ぎる提案を挙げてくるのだ。
確かに、まだまだ自分が弱かったころからの思い出の品と言えばそうなのだが……。
「キミたちならやれるよ」
「その確証の無い断言やめてください」
彼に言われてしまえば本当にできるような気がしてくるのだから困る。でも、彼ら個人個人の力が上がることよりも、私としては十天衆と呼ばれる彼らを全員この騎空団に集めたいという気持ちもある。
それこそ団長のジータと相談しなくてはいけないし、一人に来てもらうだけでも大変な思いをするのだ。それこそ、あと二本の七星剣、二王弓を作り上げなくてはならない。私たちも望み、本人も望む以上、十天衆の集結は先延ばしになってしまう。
さすがは各武器を極めた人材を集めた集団なだけあって、容易にできることではない。別に、第二の十天衆を作ろうだなんて大それたことを考えているわけじゃなくて、あまり集まらない面々の集まる場所の一つになれたらなぁ。と思っているだけだ。
……それよりも先に、大きな問題ができてしまったわけだが。
「確証ないなんてとんでもない。キミたちが強いこと、それに武器を鍛え上げていくための根気があること、ちゃんとわかってるよ」
突然いつもよりもトーンを落とし、真面目モードなシエテさんの様子に、思わず固まってしまう。だって、急に、こんな、ずるい。
私の反応に気づいているのかいないのか、彼は「だから俺が、彼女が、この船にいるんだろう?」なんて続けるものだからお手上げである。
剣を完成させたが私で、その剣に惹かれたのが彼で、そんな彼に惹かれてしまったのが私で……それならもう、しょうがないではないか。
「ああもう、やるっきゃないってことですね」
「そうそう。俺だってほら、時々様子を見に言った思い出の剣だし?」
「今回初めから見れますよ。やりましたね。やっぱり砕きましょうか」
「いやいやいやいや! なまえちゃん、それ最初に戻ってるよ!?」
くるくると変わる彼の雰囲気に思わず吹き出してしまう。本気でそうしようとは思っていないけど、しばらくはこれをネタにシエテさんをからかってやろうとひっそり心に誓う。
それくらいしたって許されるだろう。それくらいシビアな要求なのだ。むしろそんな悪戯で済まされるのだから私はまだ優しい方なのではないか。
「さて、どうしましょう?」
「どうしましょう? じゃないからね!? キミとの大切な思い出なんだって――」
1分経ったか経ってないかのうちに、2度目の硬直。本当にこの人、無意識のうちにそんな言葉選んでんの? なんて怪訝に思いながら、彼の声が途切れたことが気になる。
伺うように視線を上げれば、先ほどまでの私と同じように、硬直しているシエテさん。まるで自分の口にした言葉に驚いているように見えるその姿を見て、なるほど。これは完全に無意識だったのかと納得する。
私の視線に気づいたのか、彼は慌てたように「いや、」と言葉を続ける。
「や、やっぱり出会いってのは大切だからね。ウン。わかるだろう?」
しどろもどろになりながらも吐き出された言葉に私が抱いた感想は「何を今更」である。散々恥ずかしい言葉をことあるごとに投げかけて、思わせぶりなことばっかしてきたくせに、思い出というには割と新しいことを口にするのは恥ずかしい。なんて、そんなの……。
決して私は思い込み激しくなんかないし、誰にだって同じことを言っているんだと思っていたし、だからきっと、言葉の数々に深い意味なんてないんだって思っていた。……けど。
ここまであからさまに狼狽える姿を見て、何も思わないような鋼の心臓を持っているわけではない。
?に集中し始める熱をなんとかして逃すべく、彼に背を向けてパタパタと両手で扇いでみるけれど、焼け石に水だ。
とりあえず、可愛げのカケラもない私はそんな彼に「何言ってるんですか。七星剣砕きますよ!」なんて照れ隠しの一言を放つことしかできなかった。