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 異性が苦手であるということはまことに厄介である。そうしみじみと思わずにはいられない。
 話したりするのが苦手なだけであって、普通に恋愛対象だし、現在進行形で気になる相手はいる。……そう、この厄介な苦手意識を抱きながらも気にしている女子がいるのだ。
 彼女を一言で表すならば人畜無害そうというか、最も苦手としている目の怖い女子とは少しだけ違う存在だ。女子とうまく話せないが故に彼女と直接言葉を交わしたことはないが、誰かとの会話が耳に入っては羨んでいた。
 気になりだしたのはなぜだっただろうか。一年生の頃から同じクラスで、聞こえてくる声が耳に優しい。どこ落ち着く声色で話す彼女のことを、気がつけば目で追っていた。
 とはいえ、目が合おうものならどうなるかわかりきっているから、それだけは最新の注意を払ってはいたが。
 なんの繋がりもない彼女との架け橋になってくれるものはない。いっそ彼女がボーダーの隊員だったのならばと思うほどだ。なんとかして接点を作りたいが、それができれば苦労はしない。
 そんな思いを燻らせながらも、チャンスは訪れるものらしい。
 特に何があるわけでもなかった。放課後、本部に行くまでの少しの時間をぼんやりと過ごしていた。寒いから外に出たくなかったのに、人のいなくなった教室はがらんとしていて外よりはましだがやはり寒い。そろそろ腹をくくって出るべきかと思ったが、窓の外に見知った姿を見つけてしまった。高低差のある屋内と屋外では彼女の頭は教室の窓の半分ほどもない。
 そういえば、今日彼女は係りでゴミを捨てに出ていた気がする。それが、なぜこんな時間までここにいるのだろうか。あちらが気づいていないのをいいことにその様子を観察する。
 所在無さげにうろついた後彼女、相川さんは俺の席のすぐそばに背中を預けた。こちらを見ないまま背中を壁に向けてそのままもたれかかるものだから、少し距離感を間違えて痛がっていたところまでバッチリと見てしまった。
 しかし相川さんはそんなこと気にも止めずに小さく「寒い」と呟くものだから、思わず少しだけ笑ってしまった。
「そんなところで何してるの」
 笑ってしまって気が緩んだのだろうか。思わず声をかけてしまった。自分から女子に話しかけるなんて自分で言うのもなんだが明日は雨でも降るのではないか。
 壁越しに悲鳴を噛み殺したような、確かな動揺が伝わる。驚かせてしまったことを素直に申し訳ないと思い謝罪を口にすれば、彼女は「ううん」と返してくれた。
 相川さんがいいひとでよかった。彼女がいいひとなのは半年以上のクラスメイト期間が教えてくれてはいたが、実際に相対するととても心に染み渡るような暖かさだ。
「つ、辻くん? だよね?」
「? そうだけど……」
 確認するような問いかけに、一瞬疑問符が浮かぶ。しかし自分がクラスでも目立つようなタイプではないことを知っているから、印象が薄いことを素直に察した。
 曰く、彼女はゴミ捨てに出たものの告白現場に当たってしまい現在待機中らしい。直接そう言っていたわけではないにせよ、概ねそう言うことだと言うことは流石の俺にも分かった。この教室の裏、ゴミ捨て場のあるそこはゴミを捨てる場所だというのに人通りも少なくそういう場に適している。らしい。自分が使う予定のない場所はイマイチ記憶に残らないが、さすがに自分の教室裏ともなると話は別だ。
「ああ……大変だね」
「まあ、暫くしたら終わるだろうし」
 ため息交じりの声はそうであって欲しいと信じているような声色で、他人事ながらも俺は彼女に同調するように早く終わらせろの胸の内で念じる。
 ひとつ、驚いたことがある。相川七海という人物は女子でありながらも、壁越し(正確には現在は窓越しだが)ならば会話は成立する。目を合わせることは流石に恥ずかしくてできないが、それでも気になる女子と話ができたという充足感は表現するのが難しいほどには嬉しい。
 彼女にとっての俺は、無口で愛想のない、地味なクラスメイトの1人だろう。それでも、彼女の中に今辻新之助という人間の存在スペースが生じたのならばどれだけ嬉しいだろうか。
 その真意は定かではないが、俺自身は悪くないと思っていたりする。
 相川さんがこちらに背を向けているのをいいことに、俺は彼女のつむじをじっと見つめる。こうやってマジマジと彼女を見ることができるのはこんな時くらいしかない。
 一方的な観察にも似た行為だが、今の俺にはこれが精一杯だ。
 不思議と、席を立つ気になれない。まだ時間はあるし、彼女がこうしているのを眺めているのも悪くはない。なんて、らしくないことを考えては苦笑した。
 できることならばここで話題の一つでも出して彼女を楽しませてあげられればよかったのだけど、口下手な自分が憎らしい。
 ああ、傍迷惑な告白現場ではあるものの、この時間がずっと続いてくれればいいのに。彼女には申し訳ないが、普段教室で眺めているよりも随分と近くにいる相川さんを見て、俺はそう思うことしかできなかった。