ゴーストマリッジA
トラッポラが「問題がある」として巻き込んだのは、せっせと後片付けをしていたスペードとセベクとハウル。直に見れてはいないけれど、どうやら聞いた感じによると、今日のダメダメピーポー三人だった。その三人は何を言われているのかとわからないらしく、優等生らしく片付けを進めながらこちらを見ていた。トラッポラとグリムくらいだよ、働いていないの。その優等生三人の中で一番に反応をしたのは、学力はとても優等生とはいえないスペードだった。
「エース。さっきから何を話しているんだ?」
「う……もう日付も変わってるし、眠気が限界だ。さっさと食堂を片付けちまおうぜ」
本当に片付けをせっせとしてくれていたらしく、三人があたっていた場所のテーブルクロスやらリボンやらはほとんどなくなってきていた。それもまあ、この人数に広さな分は本当にキリがないので、アハ体験くらいの小さな差ではあるのだけれど。まあ、私たちが担当していた方に比べればその差は歴然だ。というか、やっぱりハウルはおねむな様子だった。
そこからはトラッポラのダメダメピーポーいじり。「偉そうなことを言っているけれど一日転がっていただけだ」なんて。その代わり片付けはちゃんとしてくれてるけどね。
「花嫁の前でカチンコチンになってたデュース、超ダサかったんだゾ」
「だよな〜! オレ笑いすぎて息ができなくなったわ」
「なっ……し、仕方ないだろ! あまり女子と話すことは慣れていないんだ」
そう言ってぶつぶつ、女の子に対してどうこう言い始めたスペードに、トラッポラが「共学だったらワルはモテるんじゃないか」と聞いた。私もそう思っていた。ヤンキーってスペードもだけど結構顔が良い人が多いイメージもあるし、遠くからかっこいいだのなんだのっていう噂が立っていたこともよくあったような。
「……いや、誰も話しかけてこなかったぞ。――男も含めて全員僕と目が合うだけで、走っていなくなった」
「怖すぎて遠巻きにされてたパターン……」
「ねえ、スペードってどんなプロポーズをしたの?」
ミドルスクール時代のイケイケなブリーチ・スペードも気になるけれど、そもそも群れないタイプだったならば論外だ。群れないタイプの一匹狼の方がモテそうなんだけどなあ、スペードの学校の女子とは価値観が違うのかもしれない。結構歳上のお姉さんなんかが可愛がったりもしそうだけれど。
しかしそれより、グリムとトラッポラに散々いじられているスペードのプロポーズが本当に気になる。その場にいられなかったのが悔やまれるのだけれど。
「こいつ、自己紹介しただけ」
「し、仕方ないだろ! 緊張して何も言葉が出てこなかったんだから!」
「ウブだねえ」
学園には唯一、私という同学年のそこそこ喋るポジの女子がいながら緊張するだなんて、もしかして私は女だと思われていないの? ジェイド副寮長みたいにしくしくと嘘泣きをすれば、トラッポラが「あーあ、ナマエちゃん泣かせた」と乗ってきてくれた。トラッポラのそういうとこはまあ、やりやすいというか人気なところでもあるんだろうな。私も好きだし。
次いでハウルがフラれていた、という話題に移る。ハウルは倫理観もちゃんとしてそうだし、筋肉もご立派だし、一部の層には需要がありそうだとは思う。
「俺は別に、モテなくてもいい」
「お? なんだよ、負け惜しみ?」
「それとももう決めた相手がいるとか?」
「負け惜しみじゃねえし、そういうのでもねえ」
私とトラッポラからのからかいに質問をかわすと、ハウルは胸を張ってから恋愛観を語り出すらしかった。結論からいうと、皆が一致する反応だったということだ。
「お、重い〜〜〜っ!」
狼は大切にする相手は生涯一人で、ずっと一緒にいて、その相手と添い遂げたい。うーん、習性にしても重い。誠実なのはわかるけれど、私もちょっと嫌かもしれない。一番に本人に「重い」を伝えたのはトラッポラで、これにはスペードとグリムも酷評だ。グリムに関しては、「こんな彼氏はヤダ」と彼女目線で審査する始末だった。それに関してハウルがキャンキャンと吠えると、この流れ的にエペルがきて、それから私かな〜と思ったので、セベクのもとに逃げて聞き耳だけを立てた。
「ねえ、絶対そのうちセベクにも回るよ」
「やっと働く気になったか。何が回ってくるんだ」
「聞いてたでしょ、恋愛経験と恋愛観」
それだけ伝えるとまた、スっとセベクのもとから離れては今度は一人で黙々と片付けを始める。この墓標なんてどこから持ってきたのか、私たち一年生に任せるなんて学園長も酷いなあ。ゴーストたちを引き止めて片付けさせるべきだったのではなかろうか。こんなの、朝日が昇っても終わらない。
エペルたち六人と一匹が盛り上がって――というか、トラッポラ以外の頼みの綱である美少年エペルの思いのほかの恋愛経験のなさにがっくりと肩を落とす。豊作村、だっけ。普段エペルの口から出てくる地元話は大体が優しいおじいちゃんおばあちゃんの話だったし、なんとなく予想がついたといえばそうかも。エペルと普段関わりが少ない彼らにとっては予想外だったのかもしれないけれど。
やっと机のテーブルクロスを全て回収したところで、ついにセベクが痺れを切らしたらしい。この広さだというのに、人が少なくて夜で静かなのも相まっていつも以上に声が響き渡る。いい声。
「おい! そこの人間たち! さっきから全然働いていないじゃないか」
「働いてるよ〜」
「何を。ナマエもついさっきからじゃないか。無駄話をしている暇があったら椅子を並べろ!」
私が微妙に几帳面にテーブルクロスを綺麗に畳んで、でもやっぱり洗うからいいか、と思って広げたりを繰り返している間にもうセベクのあてられていた場所の墓標は退けられていたらしい。頼りになる〜。そんなセベクの働きを見ずに、彼のことをトラッポラは「本日のナンバーワンダメ男」と称した。
「ふん。貴様らは惚れた腫れたと下世話な話ばかり。僕たちは学生だぞ。勉学に勤しんだらどうだ!」
「えー、でも恋愛とかもしておかないと勿体ないよ。男子校じゃ難しいかもしれないけれど」
一度きりの青春だって。リリアさんだって青春重視派だったはずだし、そういうのは結構大人になってから大事だと思う。クルーウェル先生にも「後悔のないように過ごせよ」って、私の一方的な世間話の後によく言ってくれるし。
そんな私の言葉には心が動かされなかったようで、やっぱりリリアさんの名前を出せば良かったかなあ。挙句の果てにはビンタで転がっていた身にもかかわらず「僕がフったのだ!」と主張する始末だった。決まりのように付属品としてマレウス・ドラコニアの話がついてくる。もちろんフラれた原因もここにある。
「んなこと言ってさあ、突然好みの相手が現れたらどうするわけ? そいつにもマレウス先輩の話べらべらするつもりかよ」
「あー、私が彼女だったらちょっと嫌かも。女の子の話じゃないだけまだいいけど、若様愛の方が強そうで」
「なっ!!? ……抜かりはない。意中の相手に何をすべきか先程リリア様に教わった」
「なんで一瞬狼狽えた?」
セベクと話すと大体マレウス・ドラコニアの話をされる身としては、まあ、いつものことだなあと思いつつも恋仲になれば「なるべくやめてほしい」一択だろう。セベクは若様愛を否定されたことに怒ったのか、思いきり目を見開いた後にごほんと咳払いをして、自信満々に語り出した。って、セベクもいける口だったか。やった〜!
「……まずは文をしたためる!!!」
ドヤ顔で、というより眉間に皺を寄せて声を張り上げたセベクが言ったのはこれだった。これにはちょっと、びっくりというか、セベクらしいといえばセベクらしい。今どき文通は面倒すぎるし、私としてはメッセージで距離を縮める方が効果的だしやりやすいと思うのだけれど。トラッポラもスペードも、他の皆もため息をついていた。古典的すぎるよねえ。
「思いを綴り、三度に一度は笑顔の写真を忍ばせ二十五回目の満月が来るまでそれを繰り返す」
「ふっ」
「――茨の谷中央公園のベンチに、一人分のスペースを空けて隣り合わせで座るのだ」
「ふ、ふふふ」
「何がおかしい!」
いやあ、リリアさんにからかわれているのは絶対にそうだし、エペルが私の代わりにそう言ってはセベクの馬鹿みたいに大きな声で怒鳴りつけられていたのだけれど、それにしても面白くて笑いがどんどん込み上げてくる。セベクの満面の笑みの写真が一緒に入ってるの、考えれば面白すぎる。面白い男すぎる。トラッポラには「そんなにツボだった?」と心配されるほどだ。面白いし古典的なのもあるけれど、それ以上に、
「いや、だって……」
「だって?」
「セベク、めっちゃ誠実じゃん……ふ、ふふ。いや、いいよ、そういうのめちゃくちゃいい」
リリアさんの教えを鵜呑みにしてしまうところも、それが正しいと思って自信満々に言うのもめちゃくちゃいいじゃん。セベクは馬鹿にされていると思ったのか、眉間に皺は寄せたままだけれど。するとトラッポラは「こういうのがお好みなわけ?」と言ってきたので、一拍分置いて考えてからすう、と息を吸って口を開いた。
「んー、セベクもハウルも浮気しなさそうだし……まあ、重かったりはあるけれど」
「僕も浮気はしないが……確かにそれはあるな」
「ね?」
「……つーかさ!」
まあ、結構全員が一途そうというか、優しいと思うし、その中でも特段わかりやすかったのがセベクとハウルだったというだけではある。
エペルやスペード、グリムが確かにと頷いて、ハウルのツンデレが炸裂したりセベクが少し口をパクパクさせたりしているのを楽しく見ていると、トラッポラがいきなり大きな声を出して遮った。それにつられてその場の全員がトラッポラの方を振り返る。
「……ナマエちゃんは逃げるわけじゃないよね? こんだけオレらの話聞いて、自分だけその手の話は持ってないとかはなしだから」
「エースが聞きたいだけじゃないか?」
「うっせ。お前も聞きたいでしょ? ナマエちゃんの恋バナ」
「僕もちょっと気になる……かな」
「うん。男子高校生のデータしかとれていないから、唯一の女子生徒であるナマエ・ミョウジさんのデータもとっておきたいな」
トラッポラの余計すぎるひと言のせいで予想以上に注目を集めてしまって、視線が痛い。あれほど後片付けに勤しんでいたセベクですら、話題が振られてから今までしっかりと恋バナ大会に参加してしまっている。そんなに期待の目に見せかけた悪そうな目を向けられたところで、ご期待に添えられるかといえば、半端なところではあると思う。
仕方なし、と小さく溜息を零すと、誤魔化すみたいに近くのテーブルのリボンを解きながら口を開いた。
「普通だよ。人並みに付き合って、フラれたこともあるし」
「それでもこん中じゃ人並み以上だけどね。ちなみにナマエちゃんってどういうやつがタイプ? やっぱイケメン? それともクルーウェルとかフロイド先輩と仲良いし、大人の男とか?」
「……そんなに面食いに見える?」
「逆に面食いじゃねぇの?」
私は面食いではないと思っていたいけれど、確かに顔が良い人は目の保養になる。例えば……シルバー先輩とかね、なんて言おうとしたけれど、そんなことを言えばセベクから「あんなやつのどこがいいのだ!」なんて言われかねないだろうから、イケメンで歳上、というだけで留めておいた。レオナさんとかヴィルさんとか、……マレウス・ドラコニアとかもイケメンで歳上にカテゴライズされるよね。
「……そうかも」
「自覚なしかよ〜。誰が見てもそうだと思うけど」
「でも好きなタイプと好きになる人って結局違うくない?」
「好きなタイプと好きになる人……うーん、僕にはあまり経験がないからわからない、かも」
「あー……でも確かに言われてみれば?」
もしイケメンと付き合えたら付き合いたい! と思ってはいても、大体そういうのは上手くいかないし、どちらかというと憧れに近かったりもするのだろう。結局はノーマークだった、案外身近な人に惹かれたりもするわけだし。そういう予想外なのも恋愛の醍醐味だと思う、と話せば、思ったよりも真剣に私の話を聞いてくれているから、徐々に恥ずかしくなって手に持っていたリボンに再び目線を落とした。
「は、かわいーじゃん」
「今はからかわなくていいの」
「耳まで赤いぞ」
「あなたたちのおかげで」
黙って聞いていた一年生に何故か総攻撃を受ける羽目になり、監督生は気配を消してるし、こんなことなら参加しなければ良かった、なんて後悔すらも押し寄せてくる。大体トラッポラのせいだよ、今回のは。
わちゃわちゃ、片付けなんてそっちのけで皆で騒いでいると、不意にトラッポラの顔がスっと真顔になって、何かを考えた様子を見せると、それが皆の視線を集める。それからゆっくりと口を開いた。
「……セベクの言うことにも一理あるかもな」
「遡るね」
「お前も文派か?」
「そうそう、白い便箋に筆記体でアイ・ラヴ…………じゃなくて!」
「ナイスツッコミ」
しかし、そんなトラッポラが口にしたのはとてもふざけた内容ではなく、昨日今日の濃すぎる出来事を踏まえての、魔法や勉強に対する意欲の向上、らしかった。リドル先輩が多くのゴーストを自分の責任だと引き受けて、その姿を見て、トラッポラには珍しく「かっこいい」と口にして。恋愛にうつつを抜かす前に勉強も、だって。珍しい、トラッポラがすごく良いことを言っている。
「……うん。そうだね。僕もそう思う!」
「ふん。わかっているじゃないか」
「ああ、真面目に勉強しないといけないな」
「……私も油断せずに今以上に勉強頑張らないとなあ」
「ミョウジはともかく、赤点ばっかのデュースに言われると重みが増すぜ」
皆がこの学校に入学したという誇りを胸に、それなら名門ナイトレイブンカレッジ生らしく勉学に勤しむことを口々に発する。そんな中でも、ハウルのひと言にはスペード以外の全員が賛同して五対一の図ができてしまったので、スペードには申し訳ないけれど、また笑みが洩れてしまった。
学園生活を過ごすうえで勉強も大事だし、そのうえで学園生活も楽しんでいきたいな。そう思いにふけっていると、トラッポラが苦笑いをした。
「オレたち皆ダッセーな。今日はいいところ一つもなかったぜ」
「そんなことないよ!」
「えっ?」
トラッポラとひと言を、底抜けに明るい声で訂正したのはオルトで、もちろんそれに対して間抜けな声を出したのはトラッポラだった。
「結婚式場に入ってきたエース・トラッポラさんの映像を、学園長と一緒に見てたんだけど……」
「えっ、カメラなんてあったの!? 私も見たかった」
「ふふ、後でね。――花束を持って『ちょっと待ったー!』って真剣な表情で駆け込んでくるところ、映画みたいだった」
ミステリーショップでサムさんと話し込んでいる間にまさか外にいたオルトと学園長が映像を見ていたなんて! 参加できないからって不機嫌になっている場合ではなかった。録画機能が備わっているのか、フォローは欠かさないでくれたけれど。
それにしてもトラッポラ、そんな少女漫画みたいな登場をしてイデアさんを助けるなんて、めちゃくちゃかっこいいじゃん。オルトの“必死になってくれて”ワードが刺さったのか、トラッポラは顔を顰めた。
「は? 別に必死になんかなってねーし。あれはゴーストから逃げてきたからで……なんつーか、“流れ”だから」
「ううん。式場に飛び込んできたエースさんは真剣だった。花嫁や家臣たちにかけた言葉も本心だよね?」
いったいどんな言葉を放ったのだろう。グリムが「あんなに純粋なこと」なんて言ったので、おそらく普段のお調子者トラッポラからは想像もつかないことなのだろうけれど、めちゃくちゃ気になる〜! トラッポラはわずかに瞳を揺らして、私もオクタヴィネル寮生。それくらいはわかる。明らかに動揺したトラッポラはグリムのひと言で安心したように、本心じゃないと主張した。しかし、オルトの目は流石に誤魔化すことが不可能だった。
「あのときの赤外線探知で見た体温の上昇値、声量、そして瞳孔の開き方……どのデータをとっても、エースさんが“本気”だったことを示してる。……隠さなくったっていいのに。照れ屋さんなんだね!」
「ふふ、やっぱり」
トラッポラがなんて言ったかは知らないけれど、本気で花嫁に向き合ってかけた言葉がすごくかっこよかった、ということだけはわかった。その場の全員に心情を把握されてしまい、さらには「『理想の結婚』をイメージできていて、素敵だね」というオルトからのオーバーキルで冷や汗を流すしかなかったらしく、今度こそわかりやすすぎるくらいに声まで震わせて動揺した。それを見たスペードたちは、やっぱりナイトレイブンカレッジ生らしく、悪そうな笑みでにやにやする。良い性格してる〜。
「文献を参照しても、統計的に見ても今日と同じ熱量で告白すれば……どんな相手でもエースさんを好きになること間違いなし!」
「熱量とかないから! 告白じゃねえから!」
「そんなにすごいの? 私も好きになるかも」
「だーっ! 冗談でもそういうのやめろって!」
「エースクンのかっこいい姿、僕もきちんと見たかった、かな?」
「任せて! しっかり録画してあるよ!」
要領の良い彼には珍しく本気の焦りを見せ、セベク並の大きな声で「録画してんじゃねーよ!」と食堂に響き渡らせた。ハウルの眠気も嬉しいことに飛んだみたいで、今日の結婚式の録画を片付けの後にオンボロ寮で鑑賞することになった。トラッポラの勇姿を見ながら寝落ちするの、楽しみ〜。
「サムさんのとこでポップコーン買っていこうよ」
「お、いいなそれ」
「オルト、他の皆のプロポーズも撮れてる?」
「もちろん! バッチリだよ!」
「お、おい! 僕たちのはいらないだろう!」
「〜〜っ!! あー、くそっ!」
レオナさんや演技派ヴィルさん、それからうちの寮の三人のプロポーズが見れるの、楽しみだなあ。そう思ってナイスすぎるオルトにウインクを送ると、パチッとウインクを返してもらった。そんな私たちの会話を聞いてスペードやハウルも慌てるものだけれど、それ以上にトラッポラがせっかくルークさんにセットしてもらった髪をぐしゃぐしゃと掻くと、その場にしゃがみ込んだ。
「うわっ。エースのやつ、耳まで真っ赤なんだゾ!」
「あー、誰かさんたちのおかげでな!」
「ははっ、本当だ。珍しいな」
「おい、オルト。これも動画に撮っておいてくれ」
「子分もゴーストカメラで撮っておくんだゾ!」
「私の頭の中にも残しとくね」
今度はトラッポラが、人のことを言えないくらいには真っ赤になって、こんなに照れているのは初めて見たかも。
そうしてわちゃわちゃ、シャッター音やら録画音やらが響く中、私もトラッポラと同じ目線までしゃがみ込んで服やスートに匹敵しそうな程に赤くなったトラッポラの顔を見た。いつも余裕綽々な表情しか見せないから、本当に珍しいと思う。歳相応、というか、思春期男子というか。「鑑賞会、楽しみだね」と言えば、トラッポラは大きすぎる、深すぎる溜息をついた。
「ほんっと、ナマエちゃんには一番見られたくねえ……」
俯いたままそうやってぼやくトラッポラの心中を察することよりも、関わりの浅い人から仲が良い人までのプロポーズが見れることが楽しみで、うきうきと鼻歌を交わせながら椅子を並べ始めた。