SSまとめ
■ドラゴンさんに拾われてきた女の子と参謀総長
物静かで人見知り、それはその通りなのだがサボさんの顔があまりにも好みすぎていつまで経っても顔が見れない。
口数少ないのは如何せん人見知りだから。慣れてきたら普通に雑談するしお話するのも嫌いじゃない。
ふと目が覚めたら燃え盛る炎、自分じゃない身体、何がなんやら分からないままドラゴンさんに拾われる。
ワンピースは友人に勧められ超新星編は読んだのでちょっとだけ知ってる。サボさんのことは知らない。
なんでだか知らないけど戦えるし結構強い。この身体が覚えているらしい。
〜実は〜
政府から追われておりしっかり懸賞金がかかっている。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
革命軍には珍しいどんちゃん騒ぎの中、歓迎会も込められたこの宴の本日の主役でもあるサラは序盤から勧められるままに酒を流し込んでいるためにすっかりできあがってしまっていた。
「サラちゃん、大丈夫?」
「うん…ありがとう、コアラちゃん…」
隅のテーブルで突っ伏していたサラは、掛けられた声にのろのろと顔をあげた。顔は赤く火照っており、目はとろりと溶けている。緩慢な動作ではあるがコアラがテーブルに置いた水を手に取り、ふわりと微笑んだ様子を見ると意識はまだしっかりとしているようだ。
グラスを両手で抱えちまちまと飲んでいる姿はどこか小動物を彷彿とさせ、コアラは密かに目立たない場所で良かったと息を吐いた。どこもかしこも騒然としている中、彼女の様子に気付いているのはコアラと、サラと背中合わせになるテーブルでしれっと座っている参謀総長ぐらいだろう。
コアラは先程交わしたその参謀総長とのやり取りを思い出し、サラへと向けて違和感の無いよう会話を切り出した。
「サラちゃん、もう二ヶ月ぐらいになるけど、革命軍はどう?」
「ん…?うん…そうですね、みなさん、優しい方ばかりで…助けられています、」
ふわふわとしているが受け答えはできている。頷く彼女が、こうして顔を合わせ目を見て話してくれるのは実は数少なく、コアラが観察している限りではこのコアラ自身とリーダーであるドラゴンさんぐらいだろう。かなりの人見知りらしいサラは慣れてない人間と対面して話すのがどうにも苦手だということは普段の様子からよく分かっていたが、毎日会って話して雑談するコアラに対してはこうして心を開いてくれている。しかし、同じ頻度で会って話しているにも関わらず未だに目を見て話してくれない、と嘆いたのは何食わぬ顔でひとりグラスを手に持っている参謀総長ことサボだった。
「コアラ、サラに聞いてみてくれないか?」おれが話し掛けてもすぐに逃げられるし。そう頼まれたのがつい3時間ほど前、この宴会が始まる少し前だ。コアラがサラに接触したのを見て自分も会話が聞こえる場所へと移動したサボの行動を見ると本当に気掛かりらしい。
「そっか、良かった。サラちゃん、みんなと話す時ちょっと緊張してるみたいだからさ」
「えっと…はい…すみません、」
「ううん、謝るようなことじゃないんだよ!ゆっくり慣れていけばいいんだし!」
水の入ったグラスをテーブルに置き、しゅんと頭を下げたサラに慌てて手を振るとサラはアルコールで赤い目元を綻ばせ微笑んだ。か、かわいい…。本来の目的を見失いそうになりながらコアラは首を振ると、本題へと口を開く。
「ところでサラちゃん、サボくんは、どう?」
「そうちょう、ですか…?」
「うん。任務で何回か一緒になったじゃない?でも、まだ緊張してるみたいだから」
特に他意はないぞという風に、何気なく質問してみればサラは「ううん、」と少し唸り声をあげ、ひそひそ話でもするように手のひらを口元へ持ってくると、正面に座るコアラへと顔を近付けた。
「コアラさん、内緒にしてくださいね」
「え?う、うん。もちろん」
何ぞ深刻な話なのかと表情を引き締めると神妙な顔でこくりと頷いてみせる。サラはコアラのそんな様子を見て同じようにひとつ頷くと、ワントーン下げた音量で声を紡いだ。
「わたし、そうちょうの顔が、すっごく好きなんです」
「………えっ?」
「だから緊張しちゃって…顔、合わせられないんですよね、」
「そうちょうにはもうしわけないことしてると、思ってるんですけどね、」困ったように眉を下げたサラを見て思わず脱力してしまった。…なるほど、しかし乙女には深刻な悩みである。コアラは横目でサボを見遣ると、目を見開きガッツリこちらへと顔を向けていた。バレちゃうでしょうが!と視線で窘めるとふいと顔を背けたが、緩んだ口元は隠せていない。
「サラちゃん…明日から大変かもね…」
「え?」
楽しそうなサボくんの様子に、コアラは溜息を吐き出すと、こてんと首を傾げたサラの頭をひとなでする。すると心地良さそうに目を細めるものだから、絶対に守ってあげようと心の中で誓を立てるのだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「あったま痛い…」
ベッドから身体を起こし無意識に零れ落ちた言葉は正しく今の状況だった。やれ主役だからとなみなみ注がれた酒を何杯飲んだのだろうか。元々お酒は強い方ではないというのに飲み慣れていないこともプラスして尋常じゃない身体のダルさと頭痛を伴っている。こうして朝までしっかりベッドで眠っていたが正直言うと自室に戻ってきた記憶もない。
しかしだからといって今日一日をベッドで過ごす訳にはいかないだろう。どれだけ飲んで体調が悪くても仕事は無くならない。
のろのろと身支度を済ませ自室の扉を開けると、「お、」と声が聞こえてきた。ちらりとその人物の顔を見て、思わず視線を胸元まで下げる。どうしてこんなにもコンディションが悪すぎる日に一番最初に出会う人がこの人なんだろうか。嘆いてもどうにもならないことは分かっているので慌てて挨拶のために頭を下げた。
「おはようございます、総長」
「ああ、おはよう。よく眠れたか?」
「はい、とても」
普段ならここで別れるのだが、目の前の人物の足はまだ動こうとはしない。新参者且つ下っ端であるわたしが先を辞するわけにもいかずじっと彼が動くのを待っていると、不意に名前を呼ばれた。
「サラ」
「は、い!?」
返事をするより前にわたしの頬に添えられた手袋を嵌めた手のひらは紛れもなく総長の手で、突拍子もない行動に目を見張り彼の顔を見遣ればその角度で顎を掴まれ固定されてしまう。き、今日も相変わらず顔が良い〜…じゃなくて!
「あ、ああああのいったいこれは、」
「んー?」
わたしの質問に生返事をしてはじっくりとわたしの目を見ている総長の行動にじわじわと顔が熱くなっていく。何を隠そう、わたしは総長の顔がすっごく好みなのだ。面食いだと罵られてもいい、事実だから。横顔を盗み見ることはあれど正面からこうして顔を見ることも見られることも初めてで可哀想な程に心臓が変な音を立てている。
すっかり固まってしまったわたしに何を満足したのか総長は爽やかなにっこり笑顔をひとつ浮かべてみせるとようやく掴んでいた手を離した。
「ようやくちゃんと顔が見れた」
ぽんぽん、と。最後にわたしの頭に手を乗せると機嫌が良さそうに立ち去っていく。いったいなんのテロ…?未だにおさらまない顔の熱を隠すよう両の手のひらで頬を包み込むと、その場へと蹲る。イケメンは何をしても罪だ。
通りかかったコアラさんに驚かれ更に心配されまた更にはわたしの話を聞いたコアラさんが総長に怒鳴りに行くまであと3分。
■血の気の多い彼女と宥め役サボくん
「おれに何か言うことは?」
「無いね。売られた喧嘩は買う主義だから」
向かい合う椅子に腰掛けふいと顔を逸らした彼女の仕草に、わざとらしく溜息を吐いた。朝は綺麗に結われていたはずの金色の髪は見る影もなく乱れており、少し肌寒いからと羽織って行った上着なんてどこにも見当たらない。極めつけはその顔だ。左頬は赤紫に腫れていて鼻の下には擦ったであろう鼻血の跡、唇は切れて赤い線を走らせている。彼女はなんというか、一言で表すと、血の気が多い。今日も酒場で絡まれたところを殴り合いの喧嘩にまで発展させたのだろう。もう何度も起こしていることではあるし、幾度となく止めに入っているが治る気配がない。彼女自身、革命軍の戦闘員であるために腕に覚えはある。こうして毎回怪我をしてくるものの派手なのは見た目だけで、どれも数日で治るものばかりのため重症に至ることはない。だからと言って好きな女が島に上陸する度に怪我をしてくるというのは、見ていて気持ちが良いものではなかった。
「せめて相手の攻撃を避けてくれねェかな」
「あたしだけ殴るなんてフェアじゃない」
「そこらの輩とする喧嘩にフェアもフェアじゃないもねェよ」
消毒液にガーゼに絆創膏。こうして手当するのも随分と手馴れてしまった。すべて終わらせ「ほら、終わったぞ」と怪我をしていない方の頬を軽く叩いてやると、彼女は「ありがと」と呟き椅子から立ち上がる。
「頼むからあまり心配を掛けさせないでくれよ」
何度伝えたか分からない言葉。普段ならば知るかと一蹴されるのだが、今日は違った。
「そんなに心配ならずっと隣に居てくれたらいいじゃん」
「は」
名案だと言わんばかりに自慢げに笑い部屋を出ていった彼女の後ろ姿を見て、思わず頭を抱える。こうして振り回されるのも悪くない、なんて思ってしまうのだから随分と罪な女だ。
「…覚悟してろよ」
誰に言うでもなく呟いた言葉は、部屋の中に留まり静かに消えていった。