SSまとめ


■ 27歳シャンクスさんとご飯
フーシャ村を出発して数日が経った。あの村を訪れた1ヶ月前といまを比べ、何が違うのかと聞かれれば間違いなく全員が全員「お頭だ」と答えることだろう。このレッドフォース号の船長であるシャンクスの利き腕は、なんとぽっかりなくなってしまった。しかしながら当の本人は未来への投資だ、と嬉しそうに笑うのだからわたしたちが咎める理由などどこにもないし、隻腕になったところでお頭の強さはわたしたちが束になって掛かろうとも負けることはきっとない。そんなこともあり案外この海賊団の船員たちでお頭を心配するものはいなかった。のだが。
「おっと」
真横の皿から床へと転がり落ちていったのは丸々とした美味しそうなミートボール。この光景は今日の、しかも昼食のこの時間だけで三度目だった。
「いやァ、案外難しいもんだな」
フォークを握り締めた右手を置いて首を傾げたシャンクスは唸りながら床に落ちたそれを拾い上げた。そのままぱくりと食べるものだから副船長から「行儀がなってねェぞ」と叱られてはいたが、そんなものは何処吹く風。
「飯食うだけでもこんなに苦労するとは」
誰に話しかけるわけでもなく、ぽつりと漏れたひとりごとだろう。だが、確かに大変そうだな、とは思った。他人事のようではあるが実際他人事なのだから仕方がない。ついにはフォークを机の上に置いてしまったお頭を横目に、深い意味もなくつい言葉が口から出た。
「お頭、食べさせてあげようか」
沈黙すること3秒。いつものように茶化されるかと思っていたのに、お頭だけでなくこの食堂に集まる船員みんなの視線を集めることになってしまった。…そんなに難しいこと言ったかな?非難を浴びる前に訂正の言葉を入れようかと口を開いた時、それよりほんの少し早くお頭が目を細めた。少しだけあがった口角を見るに嫌がっているわけではなさそうだ。
「いいのか?」
「別にそれぐらい、いいけど」
食事の回数なんて1日3回。しかもお頭は夜は酒で腹を満たすタイプの人間なので、平均1日2回。1ヶ月か2ヶ月か、それはまだ分からないけれど、いずれ自分ひとりで器用に食事ができるようになるだろう。期間限定だと考えれば大して苦痛ではない。そういう意味で頷いたのだが、お頭の笑みは深まるばかりだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて頼もう」
そう言ってわたしに身体を向けるように座り直して右腕を広げた彼の行動に思わず「はあ?」と言葉が漏れた。
「ん?近付いた方が食べさせやすいだろ?」
とんとんと太ももを叩き再び腕を広げたお頭に首を傾げる。そう、なのか?そうなのか。そうと言われたらそうなのかもしれない。釈然としないところはあるが言われるがままに彼の膝に座れば支えるように回された腕。食堂のどこからか「あーあ…」という呟きが聞こえたが見てわかるほどにお頭の機嫌は良さそうだ。
「ほら、早く食べさせてくれ」
催促するように口を開いて待つお頭の口元にミートボールを持っていくと、ぱくりと咀嚼する。
あ、これは、思ってたより、恥ずかしいかもしれない。遅れてぶわっと顔を赤くしたわたしを見てお頭は更に笑顔を深めて「もっと」と催促する。きゅっと口を引き結んで目を逸らしたわたしに、副船長はついに「甘ェ…」という呟きを溜息を共に吐き出して空になったお皿を持ち上げた。