ワンピ+ まとめ
■ らっきーすけべ♡
🍳 如何にも栄えた港町。数々の船が停泊しているこの街はまさに先に述べた通りで、浮き足立つ気持ちを抑えながら足を踏み出した。船から降り、久しぶりに地面を踏みしめる感覚に浸りながら港沿いを歩いていると少し先にサンジくんの姿が目に映る。きっと食糧の買い出しに出ていたのだろう、両手はたくさんの荷物で塞がっていて、どうせ時間も余っているのだし手伝おうと駆け出した。サンジくんの視線がこちらを向きパアッと明るくなる表情にわたしも口角を緩めるその時、だった。「あ」一際強い風が吹いて、視界いっぱいに広がるのは薄いピンク色。おかしい。そんなものは周りになかったはずだ。しっかり数秒、ふわりと舞いながら視界から落ちていくピンク色のロングスカート、その先で荷物を全部地面に落とし呆然と目を見開くサンジくん。そして再び数秒、沸騰したようにぼふっと顔が赤くなるのが自分でも分かった。「〜〜〜ッッ忘れて!!」「い、いや!おれは見てねェ!見てねェよ!」「鼻血!!」「あッ!?」慌てふためき真っ赤な顔で必死に両手を振り弁解するサンジくんの鼻からは隠しようもなくしっかりと赤い血が滴っている。いくら事故とは言えこんなに恥ずかしいことなんてない。火照る頬を隠すように両手で包み込み唸り声をあげていると、目の前からぼそりと呟く声が聞こえた。「………白、」「もうサンジくんッ!」
⚔ "そろそろ飯の準備ができるから、悪ィけどみんなを呼んできてくれるかい?" サンジくんから言い渡されその任務を果たすべくわたしはぐるぐると船の中を歩き回っていた。ナミ、ルフィ、ウソップ…順番に皆に声を掛けていくもひとりだけ見当たらない。しばらく船内を探し回ってようやく見つけたその人は呑気に床に転がり大口開けて眠っていて、まあ大方予想はできていたことだけど、こうも気持ちよく眠っているのを見ると起こすことに躊躇ってしまう。肘をつき少しの間見つめてみるも、やはり起きる気配はない。こうなったなら仕方ない、はあ、とひとつ溜息を吐き出して彼の身体を揺する。「ゾーロー、起きて」遠慮なんてしていればこの男は目を覚まさないなんてことはよく分かっているので肩を掴み勢いよく呼びかければ、不機嫌そうな唸り声と共にまぶたを開いた。「…ンだよ」「ご飯だって」「あー…」端的なわたしの言葉を聞いたゾロはやはり眠たげに息を漏らし、身体を起こす。ここまで意識がハッキリしているならばもう大丈夫だろう、しゃがみこんでいた膝を伸ばし立ち上がろうとすると、同じように腰をあげたゾロの左手ががしりとわたしの右胸に食いこんだ。「あ?悪ィ」「あ、うん」 ………………。 「いやいやいや女の子の胸触ってその反応は無いよね!?」何でもないように手を離しそのまま食堂へ向かおうとするゾロの肩を思わず鷲掴む。じわじわと遅れてきた羞恥心に頬を染めながら叫ぶと眉を顰めて如何にも面倒くさいですと言わんばかりに彼は振り向いた。「はァ?面倒くせェな、礼でも言やァいいのかよ」「違うけど!?」わたしの悲鳴じみた言葉もものともせず、ゾロはわたしが掴んだ方とは逆の手を彼自身の顎に置く。「あァ、」思い出したと言わんばかりにゆっくりと瞬いて、短い言葉の後に続けてあっけらかんと言葉を吐いた。「お前意外とデカいんだな」「バカ!!!」
🔥 最近どうにもやることが無くて、暇潰しも兼ねてと部屋の掃除を始めると楽しくなってきたのが先日のことだった。船内の廊下や甲板、食堂に図書室、様々な場所を暇を見つけてはせっせと掃除しているわたしの光景にも見慣れたのか船員たちからはまたかという表情で見送られる。「お、まーたやってんのかよ」今日も今日とて倉庫へ続く廊下を磨き出来栄えに満足していると、廊下の先に立つエースから声を掛けられた。わたしからの反応が返ってくるのも待たず、ずんずんと廊下を歩きこちらへと向かってくる彼に自分の口から「あ、」と声が漏れる。「え、エース!そこ滑りやすウワアッ!?」慌てて彼の歩みを止めようと一歩踏み出せばつるんと滑る足。おのれワックス、なんて威力。「ッあぶね、どわァッ!?」駆けてきたエースの掌が反射的に伸ばしたわたしの腕を掴むように握られる、も、引っ張りあげる直前足を滑らせたエースと雪崩込むように二人で床に倒れ込んだ。「いっ、たた…」天井を仰ぎ打ち付けたお尻の痛みに顔を顰めながら少し視線を下へとやれば左胸に添えられた手、そして谷間には遠慮なく突っ込まれたエースの頭が挟まっている。「アー…エースさん?」彼が退いてくれなければ立ち上がることすらできない。ぺしぺしと軽く彼の黒髪を叩けば勢いよくがばりと顔を上げ、そのまま上半身を起こしては後ろへと後退った。「な、ななな、」顔を真っ赤にしたエースの口からはもはや言葉が発されてはいない。というか、その反応は恐らくわたしがすべきものである。「えーと…」なんて声を掛けるべきなのだろう。気にしなくていいよ?かな。気分はどう?とか。…うーん、怒られそうである。彼が離れたことによりようやく自由になった身体を起こし唸っていれば、「わ、悪ィ!わざとじゃねェ!悪ィ!!」という言葉を置き去りに走り去ってしまう。「ええ…」この時、置いていかれたわたしはこの後数日間露骨に彼に避けられることになるとはまだ思いもしなかった。
(おまけ)■ 逆ラッキー(?)スケベ
🎩 「こんなところにいたのか」少し薄暗い資料室の中、静かな空間の中に自分以外の人間の声が聞こえハッと手元の本から顔をあげた。「…総長?」「おう」資料室の入口でひらりと手を振り笑った総長は今日もとっても輝かしい。ぱたりと本を閉じ彼へと首を傾げては、頭に浮かんだ疑問をそのまま口に出してみる。「どうしたんですか、こんなところまで」「ああ、コアラがお前のこと探してたぞ」「えっコアラちゃんが?」探してただなんて、何の用事だろう?手に持っていた本を棚へと戻し総長の元へ行こうと歩き出した途端、雑多に積み上げられた本に足を取られ身体が前方へと傾く。総長の目が見開き受け止めようと手を伸ばすも距離が一歩、足りなかった。「ぎえッ!」「うおッ」ゴツンと膝から落ちた音と痛みにじわりと涙が浮かぶ、が、そんなことよりも違和感を感じたのは己の左手だった。右腕は助けに入ってくれた総長に掴まれていたのだが、左手は何かを掴んでいる。そろりと視線をあげればわたしの左手はズボンの、真ん中。誰のって、総長の。「ひ、あッ、ご、ごごごごめ、!」半ば悲鳴をあげながら慌てて手を離そうとすると何故かそれを阻止するように空いた総長の手に捕らえられ押し付けられる。「ヒイッ!?」な、な、なんで!?頭は完全にパニックで痛みとはまったく別の意味で涙が滲み出る。力を入れないように意識をすればするほど手のひらに感じるそれに更に羞恥が襲う。はくはくと口を開閉するわたしを見て笑うように、総長は耳元で小さく囁いた。「…エッチ」
■ お酒に強い彼女ちゃん
🎩 「ッはァ、もう一杯!」軽快な声と共に木製の大きな空のジョッキはガタンッと大きな音を立てて机へと叩き置かれた。女と向き合うように座っていた大柄の男はグウ、という呻き声とともに机に突っ伏して、それと同時に周囲から歓声があがる。感嘆や野次を浴びて得意げに笑う女を見て、心中でまたか、と唱えると深く溜息を吐き出した。「そろそろ帰るぞ」所謂大衆向けの酒場の入口で様子を見ていたが、一歩踏み出し騒ぎの中心人物へと声を掛ければ彼女はぱちくりと瞬きをしたあと、へらりと緩んだ顔で笑う。「サボだ」「あァ」手には新しい、並々酒が注がれたジョッキ。周囲には果敢にも彼女に飲み比べを挑んだのであろう男たちが転がっていて、その中心で事も無げに笑う彼女の姿は少し異様にも思える。床に横たわる人間を避けながら彼女の側まで近寄ると手袋を着けたままの右手を差し出した。「ほら」「ええ?まだ飲み足りない」不満げに尖らせた唇の通り、確かに彼女の表情は普段と何ら変わりはない。既に時計の針は頂点を過ぎ去っているというのにこの余裕、彼女の身体はアルコールでできているのかもしれない。「明日も任務だ。この調子ならお前、朝まで帰ってこないだろ」「んふふ」「否定してくれ…」二度目の深い溜息も彼女は意に介した様子は無く、ごくごくと気持ち良い飲みっぷりであっという間に中身を空にした彼女は投げ捨てるように手の中のジョッキを置いた。「じゃあ次はサボが付き合ってよね」「潰されるから絶対ェヤダ」「あはは!」楽しげに笑うご機嫌な彼女の手を引き、ついには三度目の溜息を吐き出した。
🍳 「サンジくん、ご飯はもう十分だからさ、たまには飲みなよ」そう彼に提案したのはもう1時間前のことだ。宴会となると食事の給仕やら何やらでいつも忙しなく動き回るサンジくんにたまには休んで欲しい、そんな簡単な思いつきからの言葉だった。人間、良かれ悪かれ酒を飲めば分かりやすい。本音を吐かせるというならば酒はうってつけの代物だ。溜め込みやすい彼の性質は理解しているので、たまには全部吐き出させてやってもいいだろう。ちょいちょいと手招いたわたしに抵抗することはなく、しかし少し眉を下げて隣へやってきたサンジくんを椅子に座らせ自分が持っていたジョッキを握らせる。「じゃあ、ちょっとだけ」そう言ったサンジくんはやはり少し眉を下げて、でも柔らかい微笑で口をつけた。そんなサンジくんはいま、机に身体を伏せてとろんとした瞳でこちらを見つめていた。空いたわたしの左のてのひらを親指で撫でたり指を組んでみたりしては「ふふ」と満足そうに笑う様子は普段の姿とはかけ離れ非常に愛らしい。…いやあ、飲ませすぎたかな。少し遠くを眺めながら何杯目か分からない酒を喉に流し込んでいると、ぐい、と左手を引かれた。「ッ、」持っていた木のジョッキが揺れ口内に含んでいた酒が口の端から漏れる。突然何をするのかと元凶を見遣れば彼はふわふわした笑みで口を開いた。「目ェ逸らさないで」ギュッと握られた手のひらに、わたしはただただ彼の可愛い我儘を頷きひとつで許容してやるのだった。
🚬 大きな山がひとつ片付いて、G-5支部はお祭り騒ぎだった。普段ならば一喝で黙らせる中将スモーカーもこの日ばかりは目を瞑り宴会擬きの馬鹿騒ぎを隣室で聞きながら始末書と向き合っていたが、ゴツン、と何かが扉にぶつかる音でそれは中断された。「?」不思議に思いながら扉を見つめること数秒、ガチャリと音を立てて入ってきたのは酒瓶片手に手を振る部下の姿だった。「スモーカーさーん!折角なんだから一緒に飲みましょうよ」彼女が入ってきた扉の向こう側には酔い潰れた男共が転がっていて、思わずこめかみを押えてしまう。「お前なァ…程々にしとけって言ってるだろうが」大方自分に声を掛けたのだって一緒に飲んでいた人間を全員酒で潰してしまったからだろう。「いつもよりは控えめにしたつもりなんですけど」そう言いながらもケロリと反省した様子のない彼女は確かに素面と言われても信じてしまうかもしれない。「俺はお前と違ってまだやることがあるんだよ」「そんなの、明日でいいじゃないですか、ほら、今日ぐらい!ね!」酒瓶を持つ手とは逆の手に持っていたグラスに酒を注ぐと、彼女はこちらの返事も聞かずデスクの上へと置いてくる。「わたし、スモーカーさんと飲みたいんです」ね?と念を押すように甘えた声を出す彼女に弱いことを、彼女自身分かっている。思わず漏れた舌打ちを隠しもせず渋々グラスに手を伸ばすと、彼女は花が開くようにふわりと笑顔を浮かべた。
■ お酒に弱い彼女ちゃん
🔥 酔うと脱ぎ始める彼女
そこかしこでどんちゃん騒ぎの宴が行われている中、二番隊隊長であるエースもその騒ぎに興じていた。酒を流し込み歌い笑い声が響く中、何だか小腹が空いたとその場に立ち上がると、誰かがズボンの裾を引いた。「エース、どこいくの?」「サッチんとこ。すぐ戻るから心配すんなよ」ジュースの入ったコップを片手にじっと見上げてくる彼女の髪の毛をくしゃりと乱すと「もう、」と小さく呟きつつも照れて少し目元を赤くする。愛おしさに胸をいっぱいにしながら言葉の通り駆け足気味で目的を果たし大皿片手に先程の輪の中へ帰ろうとするも、なんだか騒がしい。「あッエース!早くこい!」名前を呼ばれクエスチョンマークを浮かべながら言われるがままに騒ぎの中心を覗き込むと、ぎょっと目を剥くと共に騒動の理由が理解出来てしまった。「おま、酒飲んだのか!?」自分の発した叫び声で、今にも服を脱ぎ捨てようとし押さえ込まれていた彼女の視線がこちらへ向く。「えーす」ぽわんとした声音は非常に可愛らしいが問題は別にある。お酒に弱い上に変な酔い方をする彼女は酔っ払うと服を脱ぎたがる悪癖があった。現に肌寒いからと羽織っていた上着は床に落ちているしシャツに手を掛けて今にも下着が見えてしまいそうだ。慌てて床の上着を拾い上げ彼女の身体ごと抱き締めると、腕の中で身動ぎする彼女と目が合う。「やだ、あつい、えーす」熱っぽい視線で唇を尖らせる彼女は息を呑む程に扇情的で、周囲も思わず動きを止めた。ハッと我に返り一度視線で周囲を牽制すると、言葉も少なに彼女の身体を抱えあげる。「わ、」「捕まってろ、早く部屋に戻んぞ!」後ろから飛び交う野次に気付かない振りをしながら船内の自室へと彼女を押し込むと、「あつい、」と一言呟きばさりとシャツが床に落ちる。「ね、えーす」熱い視線に誘われるがまま、引き留める理性を置き去りに、ぐっと眉を寄せると彼女の赤い唇へと噛み付いた。
🍶 酔うと眠っちゃう彼女
何かと理由を付けて宴に持ち込む赤髪海賊団は、今日も例に漏れず酒樽をひっくり返して歌えや踊れのお祭り騒ぎだった。船長であるシャンクスも筆頭となり酒を煽っていたのだが、ふらりふらりと覚束無い足取りで向かってくる人影に、思わず笑みが溢れる。「どうした、またお眠か?」「ん…」ぼんやりとした表情でシャンクスの元まで辿り着いた彼女を片腕でしっかり抱き寄せてやると、安堵したのかゆったりと力を抜きずるずると胡座をかくシャンクスに凭れ掛かってきた。目なんかはもうほとんど開いていなくて、返事すらまともにできていないところを見ると大分限界に近付いているのだろう。「だから酒はやめとけって言ってるのになァ」度を越すほどにアルコールに弱い彼女は、一口飲み込めば忽ち睡魔に誘き寄せられ眠りについてしまう。まるで童話のお姫様だななんて揶揄ったのだって記憶に新しい。それでも眠くなると必ずシャンクスを探しふらふらと抱き着いてくるのだからこの女が愛おしくて堪らなかった。とんとん、とリズムを刻むように背中を叩いてやると胸板に頭を預けたまま彼女からすう、と安らかな寝息が聞こえ始める。「まるで親鳥みたいだな」優しく見守るようなベックのセリフを、ははっ、と笑い飛ばした。「まさか。親鳥は欲情したりなんてしないさ」安心しきった表情で眠る彼女の髪を掬いあげ口付けを落とせば、少し呆れたように「程々にしろよ」と声を掛けられる。程々にしてやれるかどうかは、彼女次第だが。浮かんだ答えは口には出さず、ただ口角をあげるのみに留め再び酒の入ったグラスを手に持った。
🌷 酔うとキス魔になる彼女
「…誰だ、コイツに酒飲ませたのは」地を這うような低音は周囲の人間を怯えさせるには充分で、先程まで騒がしかった空間は水を打ったかのように静まり返ってしまった。キッドの目の前にはとろんと蕩けた表情でキラーに寄りかかる彼女の姿、そしてそれだけでは飽き足らず「ねえ、ちゅうしよう」だなんて普段自分にすらしてこないお強請りをしている。ぴきり、と青筋が浮かび立つ感覚にどこからか声にならない悲鳴があがった。「…キッド、」「わァッてるよ、オイ!」キラーが溜息混じりに彼女の身体を押し返しながら名前を呼んできたが、言いたいことは分かっている。舌打ちをひとつ零し彼女の腕を掴めば強引に自分の腕の中へと閉じ込めた。彼女は酷い悪癖持ちで、酒に滅法弱いくせに酒を飲みたがり更には酔っ払うと誰彼構わずキスをしたがるという厄介な性質を持っていた。平常そんなことは関係ないと気にしないキッドではあるが、彼女はキッドの女で、キッドの所有物であるとなると話は別だ。周囲にも彼女に酒は飲ませるなと強く言い聞かせてはいるものの、偶に隙を見ては酒をくすね今日のような事態を巻き起こしていた。「ねーえ、きっど、ちゅうする?」細い右手を伸ばしキッドの頬に添えながら小首を傾げる彼女に、ぷつんと何かが切れた音がした。「テメェ、他の野郎に媚び売っておきながらイイ御身分だなァ?」彼女の胸ぐらを掴み唇へと噛み付くと、とろりと溶けた彼女の瞳が驚きに見開かれる。逃げ惑う舌を捕らえて呼吸すら許さず上から押さえつけるように唇を塞ぐと次第に彼女の焦点がぶれ始める。意識が飛んでしまう直前に唇を離せば荒い息を吐きながら彼女はふっと口角をあげた。「ねえ、もっと」「…後悔したって知らねェぞ、」ひくりと引き攣る口角を押さえ、煽るような台詞を吐いた女の顔を片手で掴めば、その唇へと歯を立てた。
■ 中毒
🐯 珈琲
「飲み過ぎると身体に悪い。忠告した筈だが?」本日何杯目かになるか分からない、黒い液体の入ったマグカップは刺青の入った角張った指に攫われていってしまった。「いやー…あは、つい」利き手で後頭部を撫で付けて、誤魔化すようにへらりと笑ってみせるも鋭い眼差しを向けられ口を噤む。確かに彼の言う通り忠告を受けた覚えはあるし、それもつい最近だと記憶している。これ以上は誤魔化せないと判断して小さく胸の前で両手を上げると降参ポーズで彼、ローに向き合った。「だって、珈琲飲まなきゃ集中出来なくて」「お前のそれは睡眠不足だ」「それ、ローが言う?」けら、と笑えばむっすりと不機嫌そうな顔で睨まれる。隈を宿しているのはお互い様で、だけどまあ当然、彼の言うことは間違っていなかった。「…ま、怒られちゃったし寝ようかな」指摘されると今まで顔も出さなかった睡魔が躙り寄ってきたような気がする。マグカップを奪われ手持ち無沙汰になった両手を下ろして段々と動作が鈍くなっていく足を引き摺り扉へ向かえばぐい、と二の腕を引っ張られた。「わ、わわ」予想外の彼の所作にたたらを踏めばそのままローの脇腹に顔ごと突っ込んだ。しかし彼はというとそんなことは気にもかけずわたしの腕を引きずんずんと歩き始める。強引ではあるがもしかすると部屋まで送ってくれてるのかも?言葉少なな彼の起こす行動は突飛なことも少なくはないし、今回もその類だろうと大人しく着いていくと辿り着いたのはローの部屋で、戸惑うわたしを部屋に押し込めばそのままベッドへと投げ捨てられた。「ゔッ…あ、扱い雑じゃない…!?」「うるせェ、寝るぞ」打ち付けた鼻を両手で押さえ不満を零すとすかさずローもわたしの横でベッドに横になる。「なーんだ、一緒に寝たかっただけ?」「バラされてェみたいだな」「冗談デス…」誤魔化すように、ふいと背を向けてしまったローの背中へ額を擦り付ければ、満足気に吐き出された溜め息が聞こえた、ような気がした。
🎩 煙草
任務のために立ち寄った島の騒がしい酒場の裏路地で、胸ポケットから無造作に紙タバコを一本取り出した。それを唇で加えて次はライターを探るも見当たらない。船に置いてきたのだろうか。思い通りにならない苛立ちと単純なヤニ不足に舌打ちを零す寸前、誰かの指が加えたタバコをさらっていく。「…サボ」「おまえ、禁煙するんじゃなかったのか?」手袋を嵌めた長い指で遊ぶようにくるりとわたしのタバコを回したサボは呆れたようにわたしの胸ポケットの中へとそれを戻した。「任務終わりの一服ぐらい許されてもよくない?」「任務前にも同じこと言ってたな」事実を突きつけられ、ぐ、と言葉に詰まる。そも、禁煙自体無理なことだったのだ。3日どころか1日すら持った試しがない。娯楽などではなく、最早ご飯や睡眠と同じように日常生活に組み込まれたそれはどうにも毎度辞めることは叶わなかった。「せめて変わりになるものがあればいいんだけどね」無意識のうちに再び胸ポケットに伸びそうになった手を慌てて軌道修正させると誤魔化すように己の髪をくるくると弄る。ふと彼を見遣ると溜息混じりのわたしの言葉に、待ってましたと言わんばかりの表情。きらりと一瞬光った大きな瞳をわたしは見逃さなかった。まずい、失言だった。「変わりになればいいんだな?」「ちが、」念を押すように首を傾げたサボに慌てて首を横に振るがそんなことはお構い無しと手袋越しに頬に手を添えられたと思えば上を向かされ唇が触れ合う。突然のことに瞠目している間に舌は滑り込むように侵入して、容赦なく口内を荒らしていた。数分も経っただろうか、脳に酸素が回らずくらくらと視界が歪み始めた頃、ようやくサボは惜しむように唇を離した。「口寂しくなったらいつでも言ってくれよ」ぜえはあ、と肩で息をするわたしはしたり顔のサボを怒る言葉を発することもできず、腹いせにと力の入らない腕で彼のほっぺたを抓るのだった。
■ たまには喧嘩だってする 2
🍳 目の前に立つサンジくんは口を閉ざし困ったように眉を下げていて、わたしは、はく、と金魚のように口を開いてみせるも上手に言葉が出てきてくれることはなかった。「サンジくんは、喧嘩すらさせてくれないんだね」何とか震える声で絞り出された言葉は彼の瞳を大きく見開かせる。酷い八つ当たりだ。彼の口から何かが発せられてしまう前にキッチンを飛び出したわたしは無我夢中に特別広くもないサニー号の中を走った。いつもいつも、わたしばっかり怒っちゃって馬鹿みたい。でもそれよりも、彼への怒りなんかよりも、こんな子供じみた理由で感情をぶつけてしまう自分の情けなさが際立った。バタンッと大きな音を立てて女部屋の扉を閉めれば、肩で息をしながらそのまま扉を背にしてずるずるとしゃがみこむ。幸いナミもロビンもいないようで助かった。今この瞬間とてつもなく惨めな自分の姿を誰にも見られたくはなかった。しん、と静まり返っている室内では自分の息遣いと心臓の音だけが酷く鳴り響いていて、奇妙な感覚に陥る。だからこそコツコツと靴音を響かせて近付いてくる誰かの気配はよく分かった。「…ねえ、聞こえてる?」扉を挟んだすぐ向こう側にいるのだろう彼の質問に、わたしは息を呑むばかりで応えることができなかった。「先ずは、君を傷付けてごめん」扉越しだというのに、静かな声はよく通る。「もし許してくれるなら、顔を見て話がしたい」お願い、と懇願するように付け足された言葉に苦しくて、徐に立ち上がるとそろりと扉を開いた。「サンジくん…」自分の声は想像していた数倍頼りなさそうで、自身で驚くと共に目が合った彼の瞳から滲む不安にぎゅうと胸が締め付けられた。言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いたサンジくんは扉の隙間から覗くわたしへ向かって控えめに両腕を広げる。「抱き締めてもいい?」「…だめ」「どうして?」どうしてだって?「サンジくんの優しさに甘えてしまうから」そしてそのまま貴方無しでは生きられなくなってしまいそう。続いた言葉にサンジくんはまた特徴的な眉を下げた。「そうして欲しいんだよ、って言ったら怒る?」わたしも貴方も、もうどうしようもないんだね。唱えられた呪いの言葉を享受して、わたしは彼の腕の中へと手を伸ばした。
🔥 「昨夜は随分とお楽しみだったようで」口から出ていく言葉は自分が想像しているよりもずっとひやりと冷たくて、ふつふつと湧き上がるこの感情とはまるで正反対だな、なんて思った。「な、まっ、誤解だ!」「ああ、そう」酒場の床に転がっていたエースのほっぺたや首筋、背中にはベッタリと真っ赤な口紅の跡が残っていて、その姿を見せられたわたしが一体何を誤解しているというのだろうか。慌てて起き上がり伸ばしたエースの腕をするりと避けて酒場の出入口へと足を運ぶ。勿論、彼が本気で浮気しているなんて思っているわけではない。だけど恋人の贔屓目を抜きにしても格好良い彼のことを考えると、時折不安に駆られてしまうのだ。彼からすればわたしの代わりなんて幾らでもあるのだろうけど、わたしにとってみれば彼の代わりはいない。もしこれが本当に浮気だったとしてもひとつやふたつ、許してやれる器量が無いと捨てられてしまうかも。一度傾いた思考はどんどんマイナスな方向へと進んでいき、負の感情を逃すために溜息を吐き出した瞬間、背後から覆い被さるように動きを封じ込められた。「ッエース、」「頼む、嫌いにならないでくれ」まるで心臓を掴まれるような感覚だった。震える声音で吐き出された彼の言葉は普段の姿からは想像すら出来ないほどに弱々しく泣いているようで、何故だかわたしの瞳から雫が零れ落ちた。「わたし、たぶん、エースが思ってるよりエースのことが大好きなんだよ」頬を流れる涙は止まらない。ぼたりぼたりと流れ落ちてはわたしの腹に回された彼の腕を静かに濡らしていく。「…おれはお前のこと愛してる」相変わらず言葉に力は無いけれど、子供の言い合いみたいな返答に思わず笑いが漏れてしまった。「ねえ、仲直りしよう。ごめんね、話も聞かずに怒っちゃって」「おれも悪かった。ごめん、」回された腕をぺしぺし叩き力が緩んだ隙にくるりと身体を反転させ彼と向かい合う。何だか少し情けない顔と目が合って、またもや笑ってしまった。ねえ、わたし、たぶん貴方のこと嫌いになんてなれないよ。少しずつ胸を満たす何かに身を委ねて、わたしは彼の胸に頭を預けた。
⚔ 「好きにすりゃいいだろ」突き放すような台詞に、プツンと、何かが切れた音がした。実際何かが物理的に切れてしまったわけではないのだが、頭の中は一瞬で沸騰した水のように温度を爆発させた。「ッ言われなくてもするわ!!」船を揺らすほどの怒声に、目の前の彼は怒りよりも断然驚きの勝る表情で肩を揺らし目を見開く。はあッ、と荒い息を吐き出して踵を返すと彼の呼び掛けにも応じず船の外へと足を踏み出した。今日は久しぶりにとある島に停泊していて、それも中々栄えた街並みだというので恋人であるゾロに声を掛けた。彼があまりこういう、所謂デートのようなものを好まないのは知っていたが、「折角だし買い物に付き合ってくれない?」と、普段は素直になれないものの恥を忍んで誘ったのだ。それに対しての返答が「お前の買い物におれが行ってどうすンだよ」。彼女に対して向ける台詞じゃない。それでも負けじと「じゃあわたし一人で行っちゃってもいいの!?」と強気に出た。その結果が冒頭の台詞である。確かにわたしにも多少の非があったことは認めよう。鈍感な彼に対して遠回しではなくストレートに「貴方と出掛けたい」と言えば良かった。でも、それでも!その言い草は如何なものなのか!?怒りで熱くなる頭は中々冷えず、どすどすと街中を歩きながら目の合う人間すべてを睨み付けていたわたしは傍目から見ると猛獣のようであっただろう。ひとりで店を回ること数時間、すっかり冷静さを取り戻した脳で、彼も悪気があったわけじゃないのだからここは大人の対応で不問にしてやるかと納得していた時だった。「ゾロ?」帰ってきた船の前で腕を組み立っているゾロの姿に首を傾げる。「こんなところで何してるの?」「アー…いや、」中々要領を得ない彼の態度に眉を寄せるとガシガシと頭をかいてちらりとこちらへ視線を寄越した。「…明日、出掛けんぞ」「は?」「おれァ別にお前と出掛けるのが嫌なワケじゃねェ」それだけ告げるとぷいっと顔を背け船の中へ帰っていくものだから、呆れを通り越して笑いが漏れてしまう。まったくお互い、素直じゃないんだよなあ。先ずは彼の元に向かってごめんねと言おう。明日の予定に思いを馳せ、わたしは遠ざかる彼の背中を追い掛けた。