※名前変換なし






「…まだやってるの?いい加減にしたら?」
「気が散るから少し黙っていてくれないか」

合宿所には似合わない墨の香りが微かに漂う部屋。何か書き物をしているらしい男は、私の言葉をはねつけるように言った。あまりの態度に、私は彼にも聞こえるように溜息をつく。こっちは心配してやっているというのに。

「暇ならば寝たらどうなんだ。お前のデータは取り終わったんだ、ご協力感謝する。だからお前の部屋に帰れ。」
「……はあ……それって慇懃無礼ってやつ?……ほら、これ食べて。」
「まったく、お前は頭だけじゃなくて耳まで悪いのか。……で、なんだこれは。」
「こんなところに籠ってばかりだからこんなのも知らないのよ。ヨーグルトにブルーベリーをトッピングすると美味しいんだよ。食べて。」
「そういうことは聞いてない。余計なお世話だ、俺はこんなもの頼んだ覚えはないんだが」
「あんた、自由時間とはいえ、一晩中こうやって机にばっかり向かってると目悪くなるよ。うちの部活に眼鏡キャラは柳生一人で十分ですー」
「……何故お前がそんなことを気にする?」
「マネだからに決まってるでしょ。いいから食べて。育ちざかり男子でしょ」
「……」
「いいから。ほら、」

彼はあきらめたようにため息をついて、私の手からヨーグルトのカップを受け取った。受け取るまで私がうるさく言うのを彼は知っているから、おとなしく従う。

「本当はもう少しちゃんとしたものを食べるべきだけど…そんなの持ってきてもどうせ食べてくれないでしょう?」

ガラスの器の中をスプーンが滑る音が無音の部屋に絶えず響いている。

「不覚だな、他人にそこまで俺の行動パターンを読まれるなんてな。」
「別に、私に読まれたからってどうってこともないでしょうよ。……ほら、食べ終わったなら器貸して。邪魔でしょう?」

何を言わずに腕を伸ばして器を差し出す彼は、こちらと目を合わせようともしない。私は器を受け取って部屋を出ようと踵を返す。

「…………まぁ、最初からお前に隠そうなどとは思っていないが…」
「え?なんか言った?」
「いいや、何も。……用が済んだなら早く出て行ってくれ、気が散ると言っているだろう?」
「ああはいはい、わかりました。……明日の夜、なんかリクエストは?」
「………………ヴィシソワーズ。」
「りょーかい。あとパンでいいね?」

彼の無言は承諾だ。私はジャガイモとパンを仕入れに行こうとすぐに足を踏み出した。背後の男のため息は聞こえなかったことにして。


お泊り夜のレジストル・end

 




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