はき出した息は白くなって、あっという間に消えていく。私はダウンジャケットのポケットに手を突っ込んだ。あまりの寒さに、隣に立つ彼に抱きつきたい衝動に駆られた。
「さむ……」
「……だからやめておけと言ったのだ。大行列に並ぶなどという気概は普段から持ち合わせていないだろうに、何故こんなに寒い時に…」
「ああもう、それさっきも聞きました。もう此処まで並んだら後戻りは出来ないでしょう。」
「だったらぶつくさ言うな。」
「だって、寒いものは寒いんですもの。」
私と彼が並んでいるのは、某繁華街にあるデパートの前。少数しかなく人気である福袋を買いに、寒空の下既に何時間も佇んでいるのだ。
「……何か暖かい飲み物でも買ってくるか?このままではお前は風邪を引いてしまう。」
「駄目ですよ、こんな寒い中で水分をたくさん取ったらすぐ催すに決まってます。私はカイロを持ってますし、大丈夫ですから!」
「……だったら俺のコートを――」
「駄目です!寒さには女の方が強いんですよ!男はすぐに死んじゃうっていいますから!」
「死ん――大げさな……。だが――」
「大丈夫です!三成さんを連れてきたのは初めてですけど、私、こうやって並ぶの、こう見えても5年目なんですから、慣れてます。」
「5年も――」
絶句する彼を尻目に、私はバッグから福袋のリストを取り出した。
「三成さんは何か買いたい物はあります?」
「……そもそも、何があるのかわからないのだが。」
「うーん、これなんかはどうです?」
指さしたそれは、10万円相当のものが含まれるという、3万円の紳士服福袋である。私の手元をのぞき込んだ彼は、一瞬のうちに顔をしかめた。
「俺は今持っている服で十分事足りている。」
「……それ言っちゃおしまいですよ。……じゃあ…三成さんは、地下のこの食料品の福袋、安いやつで良いから買ってきてください。」
3種類ある食品福袋のうち、私は一番安い3000円のものを彼に示した。一番高い1万円のものは、確かにそれ以上の価値はあるのだが、何の料理に使えばいいのかさっぱりな調味料や、一年かけても消費できない程大量のコーヒー豆など、欲しくないものも多いのだ。
「食料品の福袋などという物があるのか。」
「安いのなら多分数があるからそれほど並ばないでしょうし、食べ物ならいいでしょう?その間に私は自分のを買ってきますから。」
「手分けをするのか……だが、」
「何です?」
「だったら何故俺を連れてきた?数があるのであれば、お前が用を済ませてからでも間に合うだろう。」
そこで、彼は溜息一つついて、苦笑した。
「俺は、荷物持ちなのだろう?」
「……あ、バレました?」
でも寒空の中付き合わせた挙げ句に荷物番では申し訳ないと思って、と言うと、彼は更に笑みを深くした。
「俺には構うな。買ったものは持っていてやるから、思う存分買ってこい。」
「えへ、三成さん大好き。」
新年も戦場
* * *
『あけましておめでとうございます、開館です!』
そうアナウンスが流れると同時に、俺の手は酷く冷えた小さい手に捕まれ、引かれた。
「行きますよ、三成さん!はぐれないでくださいね!」
そう言うが早いか、『危険ですから走らないでください!』という店員の言葉も無視して、彼女は俺の手を引きエスカレーターの方へと駆け出した。
* * *
ここで待ってて、と言われた場所のベンチに腰掛け、少し離れた、女性ばかりが群がるブースに目を向けた。しばらくその様子を見ていると、人だかりの中から必死の形相で彼女が抜け出てきた。手には2つの大きな紙袋が。既に俺の手元には3つの大きな袋があるので、これで5つとなった。
会計を済ませ、彼女は満足そうな笑みを浮かべ俺の元に走り寄ってきた。
「今日は動きやすかったから、いつもは間に合わないのまで買えました!」
「そうか。」
その笑顔が俺に福袋以上の幸福をもたらしたことは、言うまでもない。
end
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