※若干死ネタ



「重治様、本当に行かれるのですか!?少しはご自分のことをお考えなさりませ!」


どっこいしょ、と立ち上がった彼に、名前は必死に食い下がった。元々色白だった彼の肌はより一層蒼白になっていて、白皙という言葉では足りないほどだ。


「考えてるよ。秀吉様の言う笑って暮らせる世になれば、俺も寝て暮らせる。つまりは俺の為。」

「そういうことを言っているのではありません!私は――」


彼が此方を制すように背を向けたので、名前はそれ以上何も言えない。そのまま、彼は閉め切った戸を開け放った。夕日が部屋の奥まで差し込んだ。


「綺麗な夕日だね。」

「……はい。」

「出立は明後日の明朝だって。」

「…………はい」


名前は外を見ている彼の背中越しに夕日を見つめたが、すぐに視線を下の影に落とした。それは、太陽が眩しくて見ていられない為だけではない。
急に、見つめていた影が大きく動いた。目を上げると、彼が此方に歩み寄ってしゃがみ込んだ所だった。

「特別に名前だけに教えてあげるけど、俺はこの戦、兵糧攻めを使うことを進言するつもりなんだ。」

「兵糧攻め……」

「三木の城内を限界まで干上がらせてから総攻撃。戦意を削げるから降伏の可能性も高まる。」

「……はい」

「戦で亡くなる人がいるのは嫌だ……って名前が言ったの、ちゃんと覚えてるよ。」


名前は目を見開いた。それは、もう随分と昔に彼に言った言葉。他の男にそれを言ったところで馬鹿にされるのは分かっていたが、不思議と彼にはわかってもらえそうな気がしたので、言ったのだ。
驚くべき事に彼は私に同意した。

『――っていうと馬鹿にする連中が多いから本当はあんまり言わないんだけどね。』
『はい…』
『殺し合って結局何が生まれるのって俺も疑問。馬鹿にするやつってそういうとこ考えてないんだよね、きっと。破壊の上に創造が成り立つって言うけど、何もなかったら何も出来ない。名前もそう思わない?』
『はい。……殿方からそういったお言葉が聞けるとは思いませんでした。』
『ま、本当は楽したいだけってとこもあるけどね。戦やると後々面倒くさいんだよなぁ……。』
『ふふ……それでも、いいんだと思います。』


「――……あんな昔のこと……!」

「忘れないよ。あの時、名前がそう言ったから俺は――」


彼は名前の頭をひと撫でして笑った。その顔は夕日で赤く染まっている。


「――あなたをお嫁さんにしたんだ。」

「重治様…、」

「大丈夫。“兵は勝つことを貴ぶ。久しきを貴ばず”ってね。無闇に長引かせたりしないから。」

「でも重治様、“将其の忿りに勝えずしてこれに蟻附すれば…”ですよ。」

「驚いた。いつのまに兵法なんて覚えたの?……わかってる、“士卒の三分の一を殺して而も城の抜けざるは、此れ攻の災なり”でしょ?俺がそんなことすると思ってる?」

「いいえ。……御武運、お祈りしております。」

「ありがと。待ってて。必ず勝つから。」





夕焼


あの人の言葉どおりに勝利がもたらされた。でも、勝ったことあの人は知らない。


※将其の忿りに勝えずしてこれに蟻附すれば、士卒の三分の一を殺して而も城の抜けざるは、それ攻の災なり。(孫子)
……将が(待ちきれないで)その怒りを抑えられずに総攻撃をかければ、兵の三分の一を戦死させた上に城が落ちないことにもなり、それは城攻めの害である。



end

 




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