「名前、名前はおるか?」


主・政宗に呼ばれ、女官である名前は部屋に声を掛けた。


「おります。何用で御座いましょう。」

「部屋に入れ。」


言われた通りに名前が部屋に入ると、そこには文机に頬杖をついた政宗が座っていた。


「なんでございますか。」

「名前、儂は疲れた。こんなに日も暖かいのに、何故に儂は一人つまらん仕事をせねばならぬのか。」

「…ふふ、この前も似たようなことを仰いましたね。」

「……さあ。」

「"今日はこんなに雪が積もって、皆雪かきに追われているというのに、何故に儂はぬくぬくと部屋でこのような小さき仕事をしていられようか!!"とね。」

「………そのままではないか。」

「だって政宗様、毎回似たようなことを仰有いますもの。覚えてしまっても致し方ありませんわ。」

「………」


その間にも名前の手は忙しく茶を点てている。
政宗がこういう時に名前を呼ぶのは、決まって茶の所望なのだ。


「でも政宗様、無理はいけませぬ。…そのご様子だと、夜通しお仕事をなさっていた、違いますか。」

「……名前にはなんでもお見通しじゃのう。」

「貴方様の体調管理も、私の仕事の内で御座いますから。」


入りたてのお茶を一口飲み、政宗は笑う。


「はは、旨い。流石じゃ。……名前、ついでにあれも、頼む。」

「…………まぁ。いつまでも変わりませぬね、梵天丸様は。」


近寄って座った名前の膝に、政宗は頭を預ける。柔らかい政宗の髪に、名前は指を通した。


「その名を呼ぶのは、名前だから許すのじゃ……」


そう呟いて眠りに落ちた政宗の髪を、いつまでもいつまでも、名前は撫でていた


end

 




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