許された瞬間

きっと、私はずっと寂しくて
私を見てくれない事がわかって虚しくて
一郎みたいに誰かの力になれない自分に怒って
二郎みたいに強くない自分が情けなくて
三郎みたいに頭が良くない自分を馬鹿にして
誰よりも私が私を見下してた。

一郎と従兄弟だったから…
左馬刻さんと知り合いだったから…

私に声をかけてくる人は
一郎と左馬刻さんに近付くのが本当の目的で
私を知ろうとはしてくれなくて
私も自分を教えようとは思わなくて
そんな可哀想な自分を可愛がっていた。

…期待するのに疲れていた。

「千蘭ー!」

「今日も山田くん来ないの?」

「あたし左馬刻さんに会いたい!」

声をかけられるままに入ったチームは流行りに敏感なオシャレ女子ばかりで
一郎や左馬刻さんと仲良くなりたくて仕方ない集団だった。
私の後ろに2人がいる事を免罪符に悪さをする奴らだった。
従兄弟とその知り合いなだけで私は関係ないのに…。

「今日はどうだろ、知らないなぁ。
月読命に聞いてみたら?」

月読命紫音は一郎達とつるんでる同級生。
月読命についての噂が日々駆け巡っている。

「話しかけられるわけないじゃぁん!」

「怖すぎぃ〜」

「売り付けられたらやだもんねぇ〜」

過去に何があったのか大体の人が知ってる。
だから月読命の事を避ける人が多いけど本人は悪い奴じゃない。

「じゃ、私予定あるから。」

「千蘭帰っちゃうの?」

「最近付き合い悪いぞぉ!」

「ごめんごめん。」

私がいないところであいつらが私をどう呼んでるのか知ってる。
いつまで経っても一郎や左馬刻さんを紹介しないから使えない奴だと笑ってる。
その為に仲間にしてやったと豪語してるけど
そんな事頼んだ覚えもないし、
私もあいつらを仲間だと思った事はない。
両成敗だ。

「師匠!」

「お前また来たのか。」

「弟子は日々、師匠を見て学ぶものなんでしょ?」

イケブクロの吹き溜まり。
賑やかな駅前とは違って常にジメつくこの場所は、快適とは程遠いけれど
あいつらといる時より居心地がいい。

仏頂面のこの人は豊崎弦俐さん。
この場所で彫り師をしてる。
お医者さんの免許も持ってるらしく、一郎が怪我をした時に初めてここに来た。
その時に彫り師の仕事を見せてもらった。
肌に色が浮き出る様があまりにも綺麗で心が震えた。
師匠と呼ぶと嫌な顔をするけど
聞けばいろいろと教えてくれる優しい人だ。

?「あれ?どっかで見た事ある顔だ。」

弦「あれだよ、一郎のガキの…」

?「あ!紫音の学校の子!
確か、千蘭ちゃん?だっけ。」

弦「アイツと同じなのか。そりゃ知らなかった。」

奥の部屋から顔を見せたのは月読命のお姉さんだった。
名前は詩央莉さん。
有名なチームを率いてるすごい人で一郎とも知り合いだし、左馬刻さんとも対等に話せる人。
気さくな振る舞いで誰とでも話してくれるから人気も高い。

「こ、こんにちは。」

詩「こんにちは。
学校お疲れ様だねー。学校楽しかった?」

「あ、まぁ。」

こんなに近くで見るのは初めてだ。
私の事を知ってるだなんて思いもしなかった。

詩「千蘭ちゃんは彫り師になるの?」

「え?」

詩「入り浸ってる子がいるって聞いたから。」

弦「来るなつっても来やがるんだよ。」

詩「いいじゃんねー。
やりたい事があるならやればいいよ。」

ここに来て初めて自分が場違いな気がした。
こんなすごい人と話せるような、話してもらえるような価値なんて私にはないのに…。

「私は…一郎や左馬刻さんとは違うので…。」

詩「そりゃ違うよ、女の子だし。
人は比べる事はできるけど他人にはなれない。」

とても優しい声で詩央莉さんは私と向き合ってくれた。

詩「私は千蘭ちゃんにも弦吏さんにもなれないし、その逆もそう。
千蘭ちゃんは千蘭ちゃんでしか生きれない。
笑う事も泣く事も、共感や共有できても実行するのは自分。
どーせ笑うなら、どーせ泣くなら、誰にも気にせず思いっきりしたいじゃない。」

月読命のお姉さんだからこその言葉。
月読命家に何があったのか少しでも知ってる私には、綺麗事には聞こえなかった。

詩「千蘭ちゃんが一郎や左馬刻に思う事があるならそれは別だけど
周りが千蘭ちゃんを一郎や左馬刻の影に隠しているなら、そんなの全部捨てちゃっていいんだよ。
好きなとこ歩いていいんだから。」

「っ…。」

全て許された気がした。

詩「よし、泣き終わったらこの腕よろしく!」

「へ?」

弦「諦めろ。1度言い出したら聞かねぇから。
ま、下手打っても死なないから安心しろ。」

詩「千蘭ちゃんの初めてのお客さんにしてください。」

固まってる私を動かしたのは
下を向いていた私に前を向かせてくれたのは
私を彫り師にしてくれてのは

紫「千蘭。」

「あ、おはよ。あの!」

紫「昨日は姉貴が世話になったな。
おかげで煩かったけど。」

「え?」

紫「姉貴痛いの嫌いなんだよ。
ピアスも4時間泣いてやっと片方開けたぐらいだから。」

「そんな…。」

紫「でも喜んでた。新しい友達ができたって。
弟のダチ捕まえて何言ってんだろうな。」

私を一郎の従兄弟としてではなく
1人の人間として向き合ってくれて
友達として名前を呼んでくれる姉弟でした。

19.10.03
23.08.14 最終編集