立ち方、歩き方

バー、レーヴ。
それが私達の店の名前。
フランス語で夢を指す言葉らしい。
我ながらベタすぎるなと思うけどその言葉が全て。

「入ってもいいかしら?」

「いらっしゃいませ、楓さん。早いですね。」

オープンにはまだ早い。
でも楓さんに聞かれたらYESと言うしかない。
この店を開けたのも楓さんのおかげなのだから…。

「だって暫く遊びにいけないでしょ?」

「あぁ、そうですね。」

「知らなかったわ。」

「驚かせたくて。」

昨日、ラップバトルの参加者が発表された。
そこに私の名前もある。

「今回は参加しないと思ってた。
T.D.Dはバラバラみたいだし。」

「そのつもりだったんですけどね。」

前にいたチームは散々になった。
今回のバトルはオーディエンスになるつもりだったけど偶然が重なって今に至る。

「大丈夫なの?」

「バトルが始まってみないとわかりませんね。」

「わざわざ墓を荒らされる事はないのよ?
平凡に生きたっていいの。」

ラップバトルは精神力が勝敗を決める。
だから精神を揺るがす罠を仕掛ける人がたくさんいて
荒らしやすい墓がある私は狙われる。

「心配よ、あんたは強いけど弱いから。」

「ありがとうございます。
でも今回は弟の事だけじゃないんです。
…私がやろうと思ったんです。」

前回は弟の代わりって気持ちが強かった。
バラバラになったし、どちらか一方につく気はない。
なら対等に向き合ってもいいのかなって…。

「また上手く歩けなくなるかもしれません。
だけど1人で歩くのもつまらないから、みんなと歩いていたいんです。」

「そう。」

「昔の仲間はお母さんになって子供と来てくれるし、
いつまでも弟に縋ってちゃ本当に歩けなくなっちゃいそうで…。
そのまま溺れたりしたら流石に怒られちゃうだろうし。」

「そんな事になったら私があんたを怒るわよ。
…ま、幸せになれるならなんだっていいわ。」

「ここも楽しいですよ。
有り難い事に墓が荒らされてもお客は減らないんで。」

「それはあんたの力よ。
あんた自身の頑張りなんだからね。」

楓さんが育ててくれた。
楓さんが出会わせてくれた。
これは何よりも強い武器。

「これ、決勝の時にでも履きなさい。」

「決勝に勝ち進む事前提なんですね。」

「当たり前でしょ。やるなら優勝1択よ。」

差し出された箱を開ければ
真っ赤な手が踵を支える奇抜なデザインのヒール。

「誰かの手の上で踊る事があってもその手を潰してやればいいのよ。」

「物騒な発想ですね。」

「やーね、ただの自衛よ。
じゃ、それだけだから…弟くんによろしくね。」

「ありがとうございます。」

出したカクテルを一気に飲み干して空にした楓さんは
嵐のように去って行った。

『〜♪』

「はい、あ、この間はありがと。
…うん、来週。大丈夫そう?
…わかった。よろしくね。」

私が頑張れる事なんてそうないけど
応援してくれる人の期待に誠意を持って応えたい。

19.10.07
23.08.14 最終編集