知らない事

病院に行く事を伝えると銃兎さんは駅まで送ってくれた。
仕事の合間に迷惑をかけてしまったなと申し訳ない気持ちになる。
迷惑ばかりかけて本当にサポーターが務まるのか不安になってきた。
初めての事だし上手にはできないかもしれない。
今まで以上に迷惑をかけてしまうかもしれない。

…でも、私ができるお礼はチームの為に精一杯力を出して貢献する事のみ。

「頑張ろう。」

小さく誓いをたてて電車に乗り込んだ。

「あ、夏楠さん。先生なら1番の部屋にいますよ。」

「ありがとうございます。」

午後の診察を終えた病院は静かで好き。
いつもは午前の最後の枠を予約するからもっと人がいるし
幼稚園が近くにあるから子供達の声も聞こえる。

『トントン』

「どうぞ。」

「先生こんにちは。」

「こんにちは、よく来たね。」

寂雷先生は小さい時から家族でお世話になってるお医者さん。
私の事を誰よりも知っていて、理解してる人かもしれない。

「今日はどう?元気かな?」

「はい。ちょっと落ち込みましたけどすぐ元気になりました。」

「そうか、元気になら何より。
…左馬刻くんは元気にしてるのかな?」

「左馬刻さん?」

今日は診察を受けに来たわけではない。
先生に呼ばれて病院に来た。
だから体調の話しにならないとしても
先生の口から左馬刻さんの名前が出るとは思いもしなかった。
確かに職業柄病院のお世話になる事はたくさんありそうだけど知り合いだったなんて…。

「あれ?左馬刻くんから聞いていないかい?
以前私達はチームを組んでいたんだよ。」

「そうなんですか!?先生がラップを…。」

「うん。これでも私は男だからね。」

左馬刻さんが過去に別のチームにいた事は知ってる。
でも誰ととか、その他のチームメンバーの事は何も知らない。
お姉ちゃんがヒプノシスマイクの開発に関わっていた事も事件のあとに知った。
前回のバトルの事、少しは勉強しておいた方がいいかな?

「ちょっ、ちょっと待ってください!
先生もしかして、今回のバトルに…」

「うん、私も参加するよ。
もちろんチームの仲間と共にね。」

先生は何でもできる人。
私が知ってる言葉じゃ表せないぐらい神様みたいなお医者様。
左馬刻さんと一緒にチームを組んでいたならラップの力も確かだろう。

「夏楠とは中央区で会う事になるだろうね。」

「そうですね、私が足を引っ張らなければ…。」

先生と闘うかもしれないなんて考えた事もなかった。
けど、左馬刻さんが負けるのも想像ができない。

「…これは主治医として言うよ。
どう選択をし、仲間と進むかは夏楠の自由だ。
だけど1つだけ心に留めておいてほしい。」

「はい。」

「無理はいけない。
何よりも夏楠の体を優先するんだ。
左馬刻くんは優しい男だ。
何があっても夏楠を責める事はない。それは私が保証する。
だからどうか頑張る事はあっても、自分を犠牲にする道だけは選ばないでほしい。」

全てを知っているからこその言葉。
止めずにお願いと言う形で注意をしてくれたのは先生の優しさだ。

「誰かの為に動きたいなら、頑張りたいなら、まずは自分の為に生きる事。
バトルの時は対戦相手だけどそれ以外では何も変わらない。
困った事があったら私を頼りなさい。」

「はい、ありがとうございます。」

大会の参加者発表で私の名前を見つけた先生は無謀だと思ったのかもしれない。
本当は馬鹿だと怒りたいのかもしれない。
だけど私の気持ちを尊重してくれてる。
やっぱり感謝してもしきれない。

?「先生、ご指名ありがとうございます!
伊弉冉一二三、ただいま到着致しました!」

?「おい一二三!ノックぐらいしろよ!」

「あっ!」

?「あっ!」

先生に感謝をどう伝えようか悩んでいたら
背後にあった扉が開いてスーツ姿の人が2人入って来た。
突然の事だったから驚いたのもつかの間、見覚えのある顔にもう一度驚いた。

「先日はお世話になりました。」

?「いえいえこちらこそお世話になりました。」

寂「おやおや2人は知り合いだったんだね。」

「以前、助けていただきました。」

寂「そうだったんだね。
改めて紹介させてもらうよ。
私とチームを組んでくれた伊弉冉一二三くんと観音坂独歩くんだ。
こちらが左馬刻くんのチームの夜咲夏楠。」

一「独歩くんがこんなに可憐な女の子と知り合いだったなんて知らなかったよ。
僕は一二三。よろしくね夏楠ちゃんっ。」

独「こら一二三、ここは店じゃないんだぞ!
煩くしてすみません、観音坂独歩と申します。」

「夜咲夏楠です。」

いろいろなパーティーに参加してるけど
こんな畏まって自己紹介する事なんてないから緊張してしまう。

一「独歩くんと知り合いなら僕とも知り合い同然だね。
これからたっくさん夏楠ちゃんの事教えてほしいなっ。」

「え、あ、はい、」

独「一二三そんな詰め寄るなっtあっ!」

寂「危ない!」

1歩2歩と距離を縮めて来る伊弉冉さんを止めようと足を踏み出した観音坂さんは
床を這ってるコードに引っ掛かってそのまま私の方に飛んで来た。

19.10.17
23.08.22 最終編集