お散歩
カメラは私の商売道具であり心の拠り所。
美しいと思うものを切り取る事も隠す事もできる私だけの宝箱。
「あーもー暇すぎっ!
そうだ!一郎のとこ行こっ!」
乱数はその宝箱を丁寧に扱ってくれた。
綺麗だと褒めてくれた。
有名で売れっ子のデザイナーにそんな事を言ってもらえるなんて思ってもみなかった。
だからってチョロ過ぎるなぁとは思うけど、
どうせどこに居たってこの名前からは逃れられない。
家に振り回されるぐらいなら
綺麗だと思えた人の下にいた方がずっとマシ。
「ちょっと聞いてる?
僕の話し無視するなんてありえないんだけど!」
「あ、私に言ってたの?
ごめん、誰かに電話してるんだと思ってた。」
「次無視したらメッ!だからね?
カメラの手入れが終わったら出発だよ!」
「うん。急ぐね。」
急いでカメラを片付けて乱数の家を出る。
取材以外でイケブクロに行くのは初めてだ。
「一郎に電話したら千蘭おねぇさんもいるみたい!
会った事あるっけ?」
「会った事はないよ。
一郎くんには取材した時以来になるかな。」
「ならお友達になれるといいねっ!
その内左馬刻のとこにも行きたいなぁ。」
「そうだね。」
年齢関係なく女の人をおねぇさんと呼ぶ乱数には慣れたけど
突然の行動にどんな意図があるのかはわからない。
どちらにせよ勝ち上がってくるであろうチームとはお近づきになっていて損はないはず。
私もサポーターは初めての経験だしちゃんと調べておかなきゃ。
「みてみてっ!これカワイイ♪
一郎達みたい!」
「ほんとだ!可愛いね。」
「一郎のプレゼント決定!
千蘭おねぇさんにはぁ、んー、これがいい!」
一郎くん達への手土産を求めて入った駅ビルで
犬の顔が描かれているお饅頭と一口サイズのフルーツゼリーを買った。
乱数が女の子にプレゼントを選ぶなんてあまり見た事がないけど
客ではない知り合いにはこうなのかもしれない。
「帰りはチューリップのやつ買お。
幻太郎と帝統にお土産お土産♪」
「帝統ちゃんと来るかな?」
「負けちゃったら来れないかもね。」
夜にはみんなで集まる事になってる。
人間観察をする為に街を徘徊してる幻太郎とは違い
ギャンブルに勤しむ帝統は財布の中身をゼロにするのが得意だから度々遅刻してくる。
電車に乗れないと歩いて来る帝統の体力や気力に若さを感じずにはいられない。
「一郎元気かなぁ〜。」
電車の窓に張り付いて楽しそうにしてる乱数を見ながら
帝統が今日何時に来るのか、どれくらい負けてくるのかを考えていた。
19.11.03
23.08.22 最終編集