ザクロ寮、見慣れた寮室。窓から射す光も、あまり良くない寝心地のベッドも少し傷のついた椅子の足も、いつもと同じだ。けど、何もかもが違っていた。
手の甲には薔薇の形をした傷、ベッドのほど近くすぐ手の届く場所に置いていたケースは無いし、中にあるはずの愛銃のメンテナンスもここ数日はしていない。向かいの部屋に親友はいない、並び立つ朝も競い合う昼も語らう夜ももう来ない。
あの夜から、ルシアもルシアを囲むものたちも変わっている。
扉の向こうに“愛銃”がいる。
UL96A1。狙撃手としてのルシアと共にある相棒。
マークス。マスターとしてのルシアと共に戦う貴銃士。
けして失ったわけではない。だというのに、ほのかな寂しさが胸をかすめる。同時に、一方的だと思っていた信頼がそれ以上の信頼と親愛をもって返され、互いの間の絆を確かめられた嬉しさも存在している。
心の内が分からなくなる、自分のものだというのに。
「……どうかしたのか? マスター」
心配そうに眉を下げる灰色の髪の男。鋭いはずの赤い瞳が弱々しく輝き、こちらを覗くように見つめる。その様がなんだか可愛らしくて、笑ってしまう。
君がいなくてさびしいよ、UL96A1。
君がいるからうれしいよ、マークス。
「いや、なんでもないよ。おはよう、マークス」