「…ねぇ」
『どうしたの』
「キスしてもいい?」
『…いいけど』

こういうときに同意を求めるのは少し卑怯だと思う。

「んっ…」
『…ふふっ』
「何笑ってるの」
『んーん。嬉しいなぁと思って』
「…ふーん」

彼は唇を重ねる前に、唇の横や上下に数回キスをする癖がある。すこしじれったいけど、とても愛を感じるし、焦らされてるみたいでちょっとドキドキする。

『あっ…』
「ふっ、かわいい。」
『えっ、んぅっ』

ちゅっ、ちゅっ、と音を立ててわたしの上唇や下唇を啄ばむようにキスをしてくる。優しく唇を舐められて思わず熱い息がもれた。それを見逃さず、彼はそっと舌を入れてくる。

『…はっ』

確かめるように歯列をなぞり、わたしの舌にちゅうちゅうと吸い付いてくる。上顎を舌でつつかれて、体じゅうがゾクリと震えて大きな声が出た。それを見た彼は口の端を吊り上げて笑う。

「なまえってさ、キスされるの大好きだよね?」
『…へ?』
「ね?」
『わ…わ、かんない…』
「へぇ…わかんないの?俺は知ってるよ。キスされるだけで頭も体もふやけてやらしいことしか考えられなくなっちゃうこと。俺はただ愛情表現をしてるだけなんだけどね…なまえが淫乱すぎてちょっと困るよ」
『そ!そんなことない…!」
「そう?…俺はね、なまえとのキス結構好き。だから満足するまでたくさんキスさせて?その先をしてほしいんだったらちゃんとおねだりして。」
『なに…んっ』

言い終わるより先に口を塞がれる。右手で頭を後ろから抱えられ左手は腰にまわされているものだから身動きがとれない。

『い、ちまつくん、はっ、くるしっ…』
「黙って」
『ば、か…はぁっは、いき、くるしいのお』
「どうせ馬鹿だよ。離れないでってば…」
『んぅっ…』

2人の舌が絡まる水音と吐息のような切ない声が、空間を支配する。触れられている部分がやけに熱い。

『っ…はあっ…はぁっ…』
「はっ…あー最高」

ようやく開放された頃には意識は朦朧としていた。ぼやけてよく見えない彼はきっとだいぶゲスい顔をしている。

『ひゃうっ!?』
「ちょっと…耳にキスしただけでおかしな声出さないで」
『はっ…も、も、やだ…あ』
「嫌だよね?こんな気持ち悪い奴にキスされて最悪だよね?キス下手でごめんね…?」
『ち、がうっ…も、やめてぇ…』
「んっ…なまえ…好きだよ…」
『…いち、まつくん、わたしもぉ』
「なまえ…俺のこと好き?俺のキス、気持ちいい?」
『うん、すきっすきいっ…あっ…気持ちいいよぉっ』
「ふふ…良かった…」

ちゅっ、と軽くキスをして耳から離れたかと思うと今度は首筋に吸い付き始める。
そのままブラウスのボタンを開けられ、素肌が空気に触れる。思わず期待してゾクゾクと震えるわたしはやはり淫乱なのかもしれない。

「なまえ…」

わたしの名前を呼びながら首筋、鎖骨、胸元、あばら、おへそと一定のリズムでキスを落とされる。ふいに彼の顔が近づいてうなじをぺろりと舐められた。

『ひぅ…っ』
「息荒いよ。大丈夫?」
『も、いじわる、しないでっ』
「何の話?」
『ばっかじゃないの…もぉ』
「ふふ、ああ、その目たまんない。キスされただけで顔真っ赤にしちゃって、顔は涙でぐっちゃぐちゃ…。俺、もう満足しちゃったかも」

そう言うと彼の体が離れていく。下着には触れすらしなかった彼が恨めしい。火照った体が悦を求めてぐちぐちと疼く。

『は、離れないで』
「…なに?もっとキスしてほしいの?」
『あ、う、ちがうの、ちがうのわかるでしょ』
「ちゃんと言わなきゃわからないって…」
『もう、やだあ』
「そう言いながら体ガクガク震わせてるの、気付いてる?何度も太ももすり合わせちゃってさ…素直になりなよ」
『う、あっ…』
「俺にキスされてどうなっちゃったのか、俺に何してほしいのか、ちゃんと言ってよ」
『…っ 』
「ほら…」
『……い、一松くんにキスされて、か、感じちゃって、も、う我慢できないの…っ一松くんに、もっとえっちなこと、い、一松くんと、えっちしたいです…っ』

羞恥に耐えられず、思わず顔を手で覆う。きっと今わたし耳まで真っ赤だ。彼はその手を引きはがして掴んだまま、わたしの顔をじっと見つめる。もう限界だ。彼と視線が交わるだけで息が上がって何も考えられなくなる。彼はくすりと笑ってわたしの涙を舐めとった。

「いい子だね」
『ひっ…!』

胸を揉まれただけでありえないくらい感じてしまう。乳首が固くなっているのが、彼の手に当たって分かる。頭の奥で光がチカチカする。

『はあっ…いちまつくんっ…いちまつくんっあっああっ!』
「感じすぎでしょ、ほんと、淫乱…」
『一松くんのっせいだもん…っ』
「認めるんだ?淫乱だって」
『もう…ふ…うっっ』
「泣かないで。ごめんね。今からなまえがほしかったもの、全部あげるよ」




おねだりの仕方はまぁまぁかな。本当はもっといやらしい言葉を言わせたいけど今のなまえにはきっとあれが精一杯だろう。でもかわいい顔をぐしゃぐしゃにしておねだりする姿は相当クるものがあったし、正直俺も限界だし、変態ななまえをこれ以上焦らすのもかわいそうだから、ご褒美をあげる。そうやってもっと僕を欲しがって。もっと僕に夢中になってよ。






end.