此方側で生きてやる


DEAD APPLE1

+IF文スト映画に夢主がいたら
+芥川登場シーンのみ
+何故か敦くん初対面



ヨコハマの地に霧の異能が襲い掛かる。
「わあ、なんだかいつもと違ってとても幻想的な光景ですね!芥川、あの白いのは食べられますか?」
「莫迦を云え、こんな時によくいつもの調子で居られるものだ。血迷ったか」
「冗談ですよ。芥川が余りにも険しい顔をしていたものですから。それに、子供なら誰だって雲の上に憧れを抱くものでしょう?」
「お前は子供ではない。…して、早速現れたようだな」
静まり返った街を網状に走るコンクリートの上。突如運転手を無くした沢山の破損車が現在の惨状を体現しているかの様だ。その車の群れを掻い潜るようにして目的地へと向かう最中、芥川とその後ろに付き従うななしは、或る“ 二つの異能力 ”と出くわした。
「へえ、こうやって実際に具現化した能力を見るのはなかなか物想う処がありますね。私のはお人形さん、芥川のは…もしかして【天魔纏鎧】?あれが本来の姿というわけですか」
「では其方は任せた。僕は彼奴の相手をする」
「はい。では三分後に」
視線を交わすこともなく、ただ自分の異能の方を見つめたまま、二人はそれぞれ戦闘体勢に入った。
「あら、貴方は私とよく似たお人形さんですね。首領が好みそうな洋服を着ている処にやや背徳感は残りますけれど、これから切り刻むのにそんな事で悩んでいるのでは時間の無駄というものです」
ななし目掛けて追いかけてくる【人形】から逃れるように、一先ず距離を置いて手並みを拝見する。霧の異能は、異能力者から切り離された異能が、その能力で所有者を襲う。しかし私の能力は簡単に発動できる代物ではない。加えて所有者であるこの私が相手なのだ、尚更能力は使えない筈_と迷わず判断した処で、今まで一定の距離を保ちながら追いかけてきた【人形】は、袖から取り出した鋭利なメスを掲げて、脚を動かす速度を一気に上昇させた。
「え、」
その【人形】はまさに、ななしそのものだった。巧みな脚技で素早く敵の射程距離内に立ち入り、小型のナイフで的確に急所を狙う。間一髪、その攻撃を擦れ擦れで避けたななしは、すぐさまその場から逃走した。これは勝てない。私は私の強さを知らない。ななしの額に、冷や汗が流れ出た。

「この近くにポートマフィアの上層部だけが使える秘密通路がある筈!」
鏡花の命じるような言葉に芥川は舌打ちをした。
「来い、人虎!」
敦は状況が呑み込めないまま、未だ【夜叉白雪】と刃を交える鏡花を振り返る。鏡花は敦に「必ず行く!」と念を押してから、芥川の後に付いていくように視線で訴えた。
今は云う通りにするしかない、と敦は芥川の後ろをただひたすら付いていく。ふと、芥川が周囲を見渡したと思えば、大きく息を吸って咆哮した。
「ななし!来いッ!」
突然の大声に、敦はビクッと肩を震わせる。今の、人の名前だ。人気の無いこの街の何処かに、自分たちの他にも誰かいるのか…?敦は芥川と同じ様に、無意識に辺りを見渡した。
しかし、探す間もなくその少女は二人の前に現れた。彼女のものと思われる人形の造形をした異能を引き連れて、これ以上ない満面の笑みで。
「芥川!光栄です、名前を呼んで下さるなんて!」
「…矢張り其奴も連れて来るか。其れを蹴散らせ、通路を使う!」
「はい、芥川の為ならば」
ななしは先程とは心機一転、“ 勝てない相手とは戦わない ”過去の教えを容易に切り捨てて、【人形】に向けていた背を翻した。通路を使うのなら、取り敢えず足止めが出来ればいい。先刻通りすがりの異能力者から奪った拳銃を構え、其の銃口を【人形】の脚に向けた。ななしのの血は瞬速移動が最大の取り柄。故に、脚が傷つく事に【彼女】も多大なる恐怖を感じる筈だ。全身に気を張り巡らせ、地面を蹴る。焦点を正確に。引き金に掛ける人差し指に力を込める。そしてななしが放った銃弾は、【人形】の右脚首に命中した。
【人形】がほんの一瞬だけ動きを止める隙に、ななしは秘密通路の入口の一つである小さな飲食店の中に入っていく芥川の後を追う。芥川は台所にあった出刃包丁を手に取ると、後ろにいる敦には少しの遠慮もせず、大きく振りかぶって挿入口に突き立てた。重厚なエレベーターの扉が開き、中に押し入る。そして、鏡花が連れてきた【夜叉白雪】が襲い掛かる寸での処で、エレベーターの扉は硬い音を立て閉じられた。

敦は安堵の溜息を漏らす間もなく、目の前で芥川に擦り寄る少女を盗み見た。芥川と行動していたのだから、彼女はどう考えてもポートマフィアの構成員なのだろう。しかし、少女は幼い。十四である鏡花でさえ幼いと思っていたのに、彼女の幼さは其れを上回る。しかも、この少女は。
「ねえ芥川。先刻の包丁捌き、見事なまでに物騒でしたね。まあ、そんな処も素敵ですけれど」
「お前に云われたくはない。この短時間でどれだけ人を裂いたのだ」
「いえいえ、確かに不覚にも大量の血液を被ってしまいましたが、たったの一人ですよ。異能が複数の猫や烏を引き連れていたので、動物使いの異能力かと。安心してください、彼は私たちとは何の関係も無い、ただの一般人です。つい、いつものように【人形】にして異能の足止めを企てたのですが、自分が使えないことをすっかり忘れていました。ですが、彼のお陰でこの拳銃が手に入ったので、まあ安泰です」
小さな手の中にある拳銃を掲げて、まるでおもちゃを与えられた子供のように高らかに笑う少女。
少女は、頭から大量の血を被っていた。まるで水浴びをした液体がそのまま真っ赤に染まったかのように。そのおどけた様子から、少女自身が怪我をしているようには見えない。余りに非現実的な光景に、敦はただ言葉を失う。それだけではない。衝撃的な見た目をした少女と、芥川はさも当然のように会話をしていた。見慣れているとでも云うのか。こんな幼い少女が、どうして。
「人虎」
少女が、敦を呼んだ。
「君が人虎ですよね。歳は?」
「…?じ、十八だけど…」
「へえ!では、この中で最年少なのは私なんですね。ここには頼りになる年上の方が沢山居て、私はとても心強いです。宜しくお願いします、人虎」
敦は、自分の目の前で丁寧にお辞儀をする血塗れの少女に、ただ戸惑いを隠せなかった。これは、一体どう云う状況なのだろうか。ではなく、彼女は何者だ?

「だめ。騙されてはいけない。この人はもう十九を超える手練の暗殺者。多分、私より、強い」
その時、今まで沈黙を貫き通してきた鏡花が、敦を見据えて強く云った。十九だったら、僕より一つ歳上…
「えっ!?」
「嘘じゃない。見た目に騙されてこの人の本性を見誤らないで」
「そんな事云われても…ど、どう見ても十歳位にしか…!」
「あら、泉鏡花」
ななしは、まるで鏡花の存在に今気が付いたように目配せして、微笑んだ。
「何ですか?その目は。私より身長が高いからって調子に乗ってはいけません」
「乗っていない」
「君、此方の人虎に助けられたそうですね。尤も、陽に照らされる事を私は救済とは考えませんけれど。素直に芥川の元に居る方が、君の異能は総てを発揮できるというのに。此度、主である筈の君を追いかける【夜叉白雪】…どうせ日頃の鬱憤を晴らしに来たのではないですか?嗚呼、殺したい殺したい、この手が血を追い求め、この喉が紅い潤いを追い求め、もっともっと殺したい__」
鏡花が静かに手を握り締めた。反論できない。ななしの歪んだ瞳で追い詰められたら、誰もが自分は獲物だと錯覚するだろう。それ以上に、かつて殺されかけた事もある相手が目の前にいるという事実が、鏡花を震え上がらせた。
敦は一歩近寄り、口を開いた。
「君は…!」
「止めておけ。これ以上は面倒だ」
意外にも、ななしを止めたのは芥川だった。勿論、芥川はななしの今の言葉に大いに賛成していた。しかしここで芥川が優先したのは、この狭いエレベーターの中で双方が暴走しないということ。人虎とななしの思想はまるで違う。今まで鏡花の為に自らの命を捨てようとした人虎が、鏡花と【夜叉白雪】を冒涜するようなななしの発言に、反論をしない筈がなかった。故に、芥川はななしを止めた。これ以上の雄弁に、人虎はどうせ我を忘れる。
「面倒?ああ、はい」
しかしななしは、芥川の言葉から意味を汲み取り、敦の性格を瞬時に判断した。視線が鏡花から敦に移る。
「人虎、君の心中重重察します。君は白い。ですが私は紅い。生まれも育ちも境遇も、全て違うわけですね。可哀想に。君は己の運命というものに、余り納得していないのでしょう。そんな目をしています。その点、泉鏡花は君と似ている。ああ、成程。だから助けたんですか?善いお話です。見世物にしたら皆が泣いてしまいます」
芥川は溜息を吐いた。矢張り止められなかった。
「き、君は一体…自分のおかしい処に気付いていないのか?こんなの、異常だ。ポートマフィアがやったのか…?」
「あら。私はおかしくなどありません。元々こんな性格でしたし、別に普通です」
「普通じゃあない…!何で、君はこんなに酷い格好をしているのに…そんなに愉しそうな眼をしているんだ…!?」
敦はただ、問いかけた。
「酷い?一体これのどこが酷いというのです?ねえ芥川。しかし、そうですね。私の謂れを何故かと聞くのであれば…」

「これが私だから。亡き今、未だ敬愛する我が主様も、そう仰いました」


Fin...?



次々と案が飛び交って来るので二分割。芥川さんの登場シーンに悶えました。有難う御座います。土下座。

2018.03.30



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