気がつけば追われていた。
見たこともない街並みに焦りを感じながら、ひたすら前だけを見て走っている。今までこんなに息が切れるまで走ったことなんて一度もない。苦しさと恐怖で自然と涙が溢れてきた。ぼやける視界の中、ちらりと後ろを振り返ると数人の男たちが物騒なものを手に近づいてきていた。ここは一体どこなのか、なんで自分は追いかけられているのか、次々と疑問と焦りが湧いてきては心臓が止まりそうになる。

「っ、はぁはぁ...やだっ」


誰か助けてと心の中で叫び続けながら、もつれそうになる足を必死に動かして逃げ続ける。せめてこの細い路地裏のような場所から抜けられればっ...と思ったその時。少し先の方に賑わっているであろう通り見えた。大通りなのか子供の笑う声や、いらっしゃいいらっしゃい!と活気のある声が聞こえてくる。
これでなんとか逃げ切れる、もしかしたら誰かが助けてくれるかもしれない、という期待で頭がいっぱいになってほんの少しだけ走るスピードが速くなったような気がした。

そしてやっと大通りにでて右に曲がったその時だった。


「っなんだ?」
「いたっ...」

ドンっと鈍い音がしたと思ったら次の瞬間には尻餅をついていた。
頭上から男の人の驚いたような声が聞こえてきて、誰かにぶつかったんだと瞬時に理解できた。でも追いかけられている今相手の人のことを気にかけている余裕はなく、立ち上がってまた走り出そうとした。

しかし、急に目の前が暗くなってふわっと体が地面から離れる。そしてそのまま何か温かいものに包まれた。

「?!」
「ダメ、静かに」

驚いて声を上げようとしたら自分を包む"何か"の力が強くなり、もうなにがどうなっているのか。静かにと言われてしまえばその通りにするしかなく、バタバタと響く男たちの足音に自分の身体が小さく震えるのが分かった。そしすぐ傍で「おいっ、どこ行った?!」「バラバラになって探せ!まだ近くにいるはずだ!」と、躍起になっている男たちの声が聞こえる。

無意識に唇を噛み締めて目の前のものにしがみ付く。その瞬間、ふわりとタバコの匂いが鼻を掠めた。そしてようやく自分が抱きしめられていると気がついた。
普段ならきっと顔が真っ赤に染まって、


「行ったか...?」

すぐ真上で男たちが去って行ったのを確認するような声が聞こえてきたが、未だに恐怖で目を開けることができない。するとカタカタと震える私に気がついたのか、男の人は気遣うように優しく声をかけてきてくれた。



「大丈夫かい?」
「...っ」

なんとか返事をしようと口を動かすも乾いた


「」













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