6 学校から帰宅し、家の前まで来たところであ、承太郎くん、と言う声が聞こえた。 声のする方を向くと、名前がこちらに手を振っていた。名前は隣に住んでる幼なじみだ。向こうが二つ歳上で現在は大学生だったか。俺が気付いたからか、名前はこちらに向かってきた。 「こんにちは、相変わらず背が高いわね」 「…おう」 「昔は小さくて可愛かったのになあ」 「…お前は、いつもそれだな」 最近会う度に言われるが、正直いい気分ではない。少しムッとし、帽子を深く被る。 「怒っちゃった?ごめんね。でも今の承太郎くんも格好よくて好きよ」 「………」 コイツは。俺の気持ちも知らねーで、掻き乱すようなことばかり言いやがる。不機嫌だった俺はすぐに機嫌がよくなった。俺も単純なものだ。 そう、俺はコイツが好きだ。どうしようもなくな。だが、コイツはいつまでも弟扱いだ。告白でもしねぇと、俺を意識してはくれないだろう。だが、学校がバラバラな今の状況で、関係がギクシャクすると、避けられて会えなくなってしまうんではないかという危惧がある。そうすると、名前の周りの状況が全く分からず、俺が困ってしまうってわけだ。去年は同じ高校で、変な虫がくっつかないように出来たが、今年はそれが出来ない。 「あ、そうそう。重大報告があるのよ」 「…あ?」 「私、彼氏が出来たの」 今、名前はなんと言った?彼氏だと?俺は軽く目眩がした。とうとう、この時がやって来てしまったのか。 「…相手は、どんな奴だ」 「そういう時は先におめでとう、じゃない?」 そう言うとむくーっと膨れた。歳上とは思えない行動に、可愛いな、という感情が沸く。が、それどころじゃあない。おめでとうなんて口に出来るはずがねえ。 「まぁいいわ。相手はねえ、承太郎と同い年の子!家庭教師のアルバイトで私が教えてる子でね、素直だし優しいし凄くいい子なのよ」 そう言う彼女はまるで心ここに在らずといった感じで、遠くを見つめていた。その、彼氏、のことを思い浮かべていたんだろう。クソ、俺と同い年だと?家庭教師の教え子だと?そこいらのエロ漫画家もビックリだな。そんなことより、そんな奴より俺の方がお前の事を知っている。幼い頃からずっと見てきたんだ。 なのに、クソ、クソ 「名前」 「なあに?」 「好きだ」 「…………………え?」 気付くと口に出していた。彼氏が出来たんじゃあ、これから避けられるだろう。いや、避けられないにしても、名前が他の男のものだという事実に耐えられないだろうと、そう思ったからだ。それならば避けてくれるほうがいい。 「承、太郎くん」 「ガキの頃から好きだった。お前は、俺を弟としか見てなかっただろうけどな」 「……そんな、わけ…ないじゃん!!」 「ッ、!」 「私、ずっと、好きだったんだよ。でも中学入ってから、承太郎くんは、女の子に凄く人気で、わたしなんかじゃって、思って、諦めて、それでもわたし、一緒に、いたかったから、お姉ちゃんってポジションでいようって、そんな、今更……もう、遅いよ……」 そういう彼女の目からツツ、と涙が流れた。お互い、離れたくないと思った結果、態度に出さずにいただけだったなんて。俺は名前の涙を拭おうとしたが、その役目は俺じゃないんじゃないか、と頭が身体の動きを抑えた。 暫くの間、名前が鼻をすする音だけが響いた。 「…もし。もしその男がとんでもねえ奴だったら」 「……うん」 「俺が、お前を助けてやる」 俺は思わず、名前を抱き締めた。これが、コイツに触る最後になるかもしれない、と思いながら。シャンプーと洗剤が優しく俺の鼻孔を擽る。ああ、昔とは匂いが違うな。 「……承太郎、ありがとう でも、彼は、彼なら大丈夫だから」 そう言うと名前は少し泣き腫れた目を細めて微笑んだ。俺は、その言葉に含まれた少しの拒絶に、何も言えなくなってしまった。 [ <<Jogio top ] |